010.尋問①

「おはようございます」


目を覚ました冒険者の一人、アルスさんに声をかける。


「ここは……?」


「簡単に言えば牢屋ですね。拘束しているのはご容赦ください」


言葉の通りにここはダンジョン内に作った牢屋の中。


まあ鎖に繋がれて捕まっているのは彼だけで俺は外で椅子に座っているんだけど。


ちなみにここにいるのは一人だけで、他の牢屋と併設されず完全に隔離されている。あと持ち物も没収済み。


「その仮面は?」


「人様にお見せするほどの顔ではありませんので、こうして隠させていただいております」


言葉の通りに、俺は銀の仮面を被っている。


ついでに服装も、こっちの世界に合わせてローブみたいな物に着替えてるよ。


「二人は?」


「ご無事ですよ。場所は分けさせて貰っていますが」


これからすることのために、三人ともバラバラに隔離させてもらっている。


「あんたがここの主なのか?」


「いえいえ、私は主様に使える召し使いでこざいます」


という設定。


正体晒して狙われたりしたら嫌だしね。


「これからどうするつもりだ」


「どうもしませんよ。ただちょっと質問をするのでそれに正直に答えてもらえれば解放して差し上げます。もちろん仲間のお二人も一緒です」


「信じられないな、そう言って殺す気なんだろう?」


「殺す気ならわざわざここまで運んできませんよ」


「質問してから殺す気かもしれない」


「まあそこは否定はできても保証はできないから辛いんですけどね。ですが殺すメリットよりも殺さないメリットの方が大きいので、信じていただけたらと」


「そのメリットって?」


「殺さずに解放したら、またお金をもって来てくれるかも知れないじゃないですか」


「…………」


滑った? もしかして滑った?


「もし捕まっても数日で解放されるなら、魔石をいくつか持ち帰れればトータルでプラスになるでしょう? そこでどれくら捕まるかは貴方の努力次第ではありますが」


そう提案すると、彼は少しの間無言で頭を巡らせる。


どちらにしろその時点で、もう殺されるかもしれないから喋らないと言う思考の段階は通りすぎて、実際にどれくらいの割合で帰れれば収支がプラスになるかの計算に切り替わっているだろうけど。


「もし、質問に答えなかったら?」


「ご飯抜きです」


「ご飯抜き……、それは困るな……」


「でしょう?」


「ちなみに……、明日も答えなかったらどうなる?」


「そうしたら明日もご飯抜きです」


「それは、凄く困るな」


「でしょう?」


ちなみに別に食事抜きで空腹責めをしたいわけではなく、質問に答えると言う対価無しに食事を与えるのが勿体無いからって言う理由だけど。


「ちなみに嘘はつかないでくださいね。もし嘘をついたらやっぱりご飯抜きです。その代わり、ちゃんと答えてくれれば約束通り数日で解放して差し上げますよ」


「わかった。あんたの名前は?」


「そうですね、ジャックとでもお呼びください」


そういって彼はすっきりと頷いてくれた。


外で狩りをしている時から何度か観察していたけど、やっぱりこのパーティーを呼んだのは正解だったみたいだ。




「それでは、質問を始めます」


言いながら、脇のテーブルに置いてあった板と紙を腕に抱える。


「まずお名前は?」


「アルス」


ちなみに名前と冒険者等級は、彼が持っていたギルド証に書いてあるのですでに知っている。


ギルド証は金属プレートに名前が掘ってあるもので、パッと見ちょっと大きいドッグタグみたいだったけどもしかしたら本当にそういう用途で使われているのかもしれない。


「年齢は?」


「18」


わっか! 俺より(ピー)歳も下じゃん!


「性別は?」


「見ればわかるだろう?」


「見ればわかると思って確認せずに間違っていたら困るので、それなら素直に質問していた方が確実でしょう?」


「……男」


「職業は?」


「冒険者」


「冒険者の等級は?」


「アイアン」


「冒険者の等級を下から順に教えて下さい」


「ブロンズ、アイアン、シルバー、ゴールド、プラチナ、オリハルコン」


「出身地は?」


「サドニー村」


「現在の拠点は?」


「王都」


「この国の名前は?」


「アドレシア王国」


「この国の国教は?」


「ワグナリス教」


「貴方も信仰している?」


「……、いない」


「教会は王都の中にもある?」


「ある」


「この国に奴隷は居る?」


「……、いる」


今正直に答えたら売られるかもって考えたかな。


「奴隷の相場は?」


「健康な男なら金貨数枚程度」


「この辺りに他のダンジョンはある?」


「ない」


「貴方が他のダンジョンに入った経験は?」


「ない」


「この国の通貨は?」


「ホーク硬貨」


「硬貨の種類は?」


「金貨、銀貨、小銀貨、銅貨、小銅貨」


「両替比率は?」


「金貨1枚で銀貨30枚、銀貨1枚で小銀貨5枚、少銀貨1枚で銅貨6枚、銅貨1枚で小銅貨5枚」


金貨:銀貨:小銀貨:銅貨:小銅貨で1:30:150:900:4500。金貨:銀貨:銅貨がそれぞれ30枚で上の硬貨と交換可能。


えらくキリが良いけどこの時代だとそれぞれの金属の重さの価値がイコール硬貨の価値だから重量と含有率で調整されてるって考える方が自然かな。硬貨の価値自体が固定相場じゃなくてその金属の産出量とかで変動相場のはずっていう向こうの世界での記憶もあるけど、まあ上手く調整しているんだろう。


「宿屋一泊の値段は?」


「個室で銀貨1枚、雑魚寝で銅貨数枚程度」


「冒険者のクラスって誰かが決めてるんですか?」


「仲間を募集する際に自分で決めている」


「なるほど、貴方たちパーティーメンバーのクラスを教えて下さい」


「戦士、狩人、治癒師」


「他に主要な職業でどんなものがありますか?」


「剣士、武闘家、斥候、魔術師、僧侶」


忍者とか侍はいないのか、ちょっと残念。


「戦士と剣士の違いは?」


「剣士は剣術を学んで剣しか使わない、戦士は実戦派で斧でも槍でも使う」


「狩人と斥候の違いは?」


「狩人は文字通り森で狩りを生業にしていた人間で大体弓が得意、斥候は兵士や盗賊上がりで短剣が得意」


「治癒師と僧侶の違いは?」


「治癒師は文字通り治癒魔法を使う、僧侶はワグナリア教の信奉者で治癒魔法の他に祈祷を使ったり戦士として戦う者もいる」


「魔術師の魔法は具体的にはどういうものがある?」


「炎を出したり水を出したり、あと相手を眠らせたりだな」


「普段どんな魔物と戦っています?」


「ゴブリン、コボルト、大鼠、角うさぎ」


「オリハルコンってどれくらいの強さ?」


「一人でドラゴンを倒すとか」


「会ったことはある?」


「遠目に見たことなら」


「この世界の国はいくつある?」


「王国を入れてたしか7つ」


「この国と国境が隣接している国の数は」


「3つ」


「この国で一番最近あった大きい戦は?」


「8年前に、隣国と領土をめぐる戦争があった」


「勝敗は?」


「隣国有利の条件で講和した」


「ワグナリス教の他に宗教はある?」


「南の国に別の宗教がある。あと魔族も別の神を崇めている」


「この国と魔族との関わりは?」


「魔族の領地とは離れているので、直接的な争いは無い」


「国は豊か?」


「王都周辺はそれなりに、辺境はあまり」


「王の直系は何人いる?」


「8人」


「構成は?」


「王、王子が四人、お姫様が三人」


「一年は何日?」


「大体360日」


あっちの世界と大分近いな。まああっちとこっちで両方あのショタ神様が仕切ってるなら似通っててもおかしくはないけど。


「長さの単位は?」


「王国と帝国で2種類ある」


「じゃあ帝国の単位は?」


「フード。基準は初代皇帝の足の長さ」


フィートじゃねーか!


「じゃあ……、王国の単位は?」


「ハード。基準は初代国王の手の長さ」


メートル法じゃねーのかよ! クソ世界ふざけんな!!!


しかも手の長さと足の長さって。どっちかでいいだろうがよーどっちかで! いや、それだけその国同士の仲が悪かったってことなんだろうけど! いっそ俺が世界一のダンジョンになったら新規単位でも作って規格統一してやろうかな。


はあ……、昔のアルバイトでインチに苦しめられた記憶のトラウマが開きそうになってしまった。


「ちなみに水などの量の単位は?」


「樽」


そっちはシンプルなのね。




「さて、それではこれで質問は終了します。食事は質問内容を確認後持ってきます。水はそこの桶に汲んであるのが飲んでも大丈夫なものなのでそちらを使ってください」


「本当に他の二人も無事なんだよな?」


「三人分の回答で質問の答え合わせをするので当然無事ですよ。それでは」


まあ後半の質問の答えには多少の差が生まれるかもしれないけど、前半の簡単な質問で正直に答えているかはわかるだろう。


というわけで、次の冒険者の牢屋へと移動した。

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