第7話 Où allons-nous ?
早朝のルート62を行く一行は、夜の戦闘で無駄遣いしてしまった燃料分を取り返すため、少しペースを落としつつ車を走らせていた。
ある時、ふとヨランダがネルソンに言う。
「で、警護って言っても、私たちは具体的に何をすればいいの?」
「は?いや、その言葉の通り、外敵から俺の身を守ってくれればそれで……」
「期間は?それによって私たちの今後も変わるから、ギャラとかにも響くけど」
「そんなの脅威が去るまでとしか言えねぇよ。俺だっていきなり厄介事に巻き込まれて混乱してるんだ」
「なら今後の予定は?どこか遠くに逃げるのか、仲間を集めて逆襲に転じるのか、何かしらのプランは」
「だから、まだだって!」
「そう……貴方の懐事情は知らないけれど、私たちは何時までも力になれる訳じゃない」
「そんな事わかってる」
ネルソンは不機嫌な様子を隠そうともしない。
ただでさえ先の見えない不安でいっぱいな上に、撃たれた傷が疼いて仕方がなかった。
彼はとうとう我慢ができなくなり、シャツをまくりあげる。
そして傷口に目をやったが、小さい糸くずのようなものが埋まっている事に気が付いた。
しかも、それは動いていた。
「ひィィィ!!??」
ネルソンの情けない叫び声を受けて、一行は視線を向けた。
「え、なに、どしたん?」
「傷、き……傷口に、傷口が!」
「あぁ、ウジ?」
「なんだ、サソリでも出たのかと」
ネルソン以外の面々はやけに冷めていた。
バンの席で伸びをするキャメルがヨランダに尋ねる。
「ウジって抜かない方がいいんだっけ」
「んん……私は医者じゃないから詳しくないけど、火傷に対して蛆虫を使う治療もあるらしいし」
「ウジの種類にもよるはずだけど」
「あと病気を媒介するかどうかとか」
4人の会話内容を聞いて、ネルソンの顔色はみるみるうちに青くなっていった。
そんな様子を見てヨランダは苦笑すると、ひとつ提案をした。
「貴方の場合、傷の治療もした方がいいと思う。だから、ひとまず医療設備がある集落を目指すのがベストだと思うけど、どう?」
「そんな夢みたいな場所があるなら、もっと早く教えてくれよ。早いとこ燃料の補給もしたいんだ」
「その点は心配ご無用、何せ石油採掘プラントが中心になった一大コロニーだから」
ヨランダがそう言うと、キャメルとイーライが反応した。
「おっ!久しぶりに行っちゃう!?」
「懐かしい面々に会えそうだ」
盛り上がるバンの様子を眺めて、キュベロが言う。
「そっか、3人はあそこで結成したんだっけ」
「お前たちに所縁の地って訳か」
「自分は2回くらいしか行ったことないけど。あそこは人が多すぎて」
「随分と栄えてそうだな。何て名前なんだ?」
「オアシス」
「は?」
ネルソンにとって余りにも馴染みのある単語が聞こえたので、つい聞き返してしまう。
「だから、オアシス(Oasis)だって」
「そりゃ随分と御大層な名前だな。この目で見るのが楽しみだよ」
「まぁ、すごいところではある。実際」
「へぇ……」
ネルソンはカーオーディオの再生ボタンを押す。
そして、ギターが奏でるシンプルなイントロが流れ始めた。
ネルソンは歌い出しに合わせて息を吸い、周りに構うことなく歌い出す。
これを車窓から見たキャメルはぼそりと言った。
「Wonderwall……なんか、某イルカマスクみたい」
「あぁ、彼?」
「昔郵便配達の仕事を一緒にやった事があってさ、その時に横で歌ってたの思い出した。寄ってくよね?」
「勿論。あのあたりで一番美味しいのはあそこのダイナーだし」
「赤ちゃん生まれたって聞いたし、お土産持ってかないと……エリちゃん、考えて」
「なんで」
「赤ちゃんだから」
「オンギャ!オンギャ!!」
「うるせぇ!!」
「赤ちゃん返りって、本当便利なシステムね」
「いや、どんなシステムなん……」
どんどん脱線していく話と共に、3台はオアシスを目指して走って行った。
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