第6話 Bullet Time


真夜中の旧国道、ルート62。

満天の星空と地平線まで伸びる一本道、それ以外は何もない。

そんな場所を、法定速度の2倍は優に超えるスピードでかっ飛ばす集団がいた。


「助けてもらって言うのもなんだが、あんたら正気じゃない!」


クーペを駆るネルソンが叫ぶ。

その前を陣取るのはキュベロのバイク、そして集団の最後尾を陣取っているのが、銃弾をあちこちに食らった大型のバンだった。

運転席に座った傭兵の女は言う。


「後手に回るよりはよっぽど確実よ、現にこうして足も調達できた事だし」

「だからって、あの後村で銃撃戦をやって大騒ぎを起こした!ただでさえ俺はお尋ね者扱いで悪目立ちしてるんだ!」

「なら私たちに声をかけたのは失敗だったかもね。キュベロから聞かなかったの?」

「聞いたさ!!でも、まさかこれほどとはな!!」


アクセルを踏み込むネルソンはバックミラーに視線を向ける。

背後からは小さい光の点が近づいてきていた。


「追手が来てる!全部で3台!」

「言われなくてもわかってる、イーライ」

「ふぅ……」


イーライと呼ばれた例の変態サングラス男は、妙に落ち着いた様子で腰を上げる。

そして、ボルトアクションライフル、スプリングフィールドM1903を取り出すと、バンの荷室へと向かっていき、後部のドアを開けた。


「この距離なら牽制程度だよ」


射撃姿勢を整えた彼は、サングラスを外しながらぼそりと言った。

赤い切れ長の瞳が、アイアンサイトを見据える。


「5秒後に撃つ。ヨランダ」

「前方の路面に起伏なし」

「了解」


ヨランダと呼ばれたドライバーのアナウンスを受けて、イーライは引き金を絞った。

放たれた弾丸は超音速で飛翔し、見事追手のドライバーを仕留める。

これを見たネルソンは驚愕した。


「自分も相手も動いているのに、あんな芸当ができるのか……」


続いて、2発3発と当たり前のように狙撃を命中させるイーライだったが、ふと射撃姿勢を解いてしまう。


「やっぱり抜けてないな」


そう言うと、自分の席に戻ってしまった。

彼はヨランダに言う。


「向こうも学習してる。交代したドライバーは鏡で視界を得てるから、ガラスを抜いても意味が無い」

「そう……ボディを撃ち抜くのはダメそう?」

「この距離じゃ、正面からエンジン抜くほどの威力は出ないよ」

「おーし!ならあたしの出番、来たね!!」


そう言って銃を取り出したのは軽装で金髪の女、もとい傭兵3人目のメンバーであるキャメル、通称メルだ。

彼女はグレネードランチャー2丁をM1918の銃身にあてがい、テープで固定し始める。


「あんなのを片手で持つのか」

「メルは普通じゃないってこと。まぁ、見ればわかるから」


キュベロが淡々と言う。

そして、その彼女もSMG、Vz61スコーピオンを取り出すと初弾を装填した。

次第に追手達との距離は縮まってくる。

マッシブなRV車を先頭に、大型セダン、ワゴン車といった顔ぶれだ。


「今回は速攻で行くよ。みんなはあたしの合図でライトを消してね」


キャメルはそう言うと、グレネードランチャーにカートリッジを装填する。

これを見て、ヨランダは並走するクーペに告げた。


「ネルソン、って言った?お手並み拝見といきましょうか」

「俺もやるのかよ、雇い主だぞ……」


ネルソンは気が進まないながらも、ライトのレバーに指をやる。

そして、追手達が窓から身を乗り出し、射撃を始めるその瞬間


「今!」


キャメルはそう叫ぶと、路面に向かって2発カートリッジを射出した。

それはすぐさま煙幕を形成し、追手との間に不可視の領域を生み出す。

これと同時にヨランダは素早くハンドルを切って、相手の射線から逃れると、ライトとマズルフラッシュを頼りにキャメルがフルオート射撃を行った。

瞬く間にRV車は蜂の巣になり、大破炎上する。

これを見たセダンのドライバーは叫んだ。


「クソッ!あのバンを撃て!!」


今、この瞬間は普通に射線が通るため、彼らは再度バンに狙いを合わせた。

だが、今度は真正面から、鋼鉄のフックが火花を散らして突っ込んで来たかと思うと、ワンテンポ遅れて白煙を上げたクーペが真横を通過する。


「んなっ!?」


それに驚いたのも束の間、セダンは前転でもするように勢い良くひっくり返った。

そして、完全に注意を引かれていたワゴン車の面々は、真横にバイクが迫っている事にも気がつかなかった。

キュベロのスコーピオンは小気味の良いドラムロールを奏で、車内を鮮血で彩っていく。


「メル!イーライ!」

「釣りは要らねぇ!!」

「さようならだ」



キュベロは素早く車から離れ、一気に加速していく。

直後、キャメルとイーライの集中砲火が車両に吸い込まれていった。

轟音と共に、勝利を祝う花火が上がる。

そんなバックミラーに映る光景を眺めながら、ネルソンはぼそりと呟いた。


「もしかして俺は、とんでもない連中と関係を持ったんじゃないか……?」


しばらくの間、ネルソンは規格外の面々にただただ圧倒され、キャメルやキュベロは会話を交わしながら戦闘の余韻に浸っていた。

だが、数分もすれば燃え盛る残骸はミラーから見えなくなり、バンの後ろ扉は閉じられ、3台は元の隊列に戻る。

こうして何事もなかったかのように、一行はルート62を走って行くのだった。

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