第13話

 コンサートは無事、終幕を迎えた。

 生の演奏はひと味違い、響き渡る楽器の音色に終始鳥肌が立っていた。


「んっんん……」


 何を言うわけではないが、千賀美の方も非常に満足しているようで横で鼻歌を奏でてくれている。


「どうかしましたか?」

「いや、楽しそうだなと思ってな」

「それは……あんな音楽聴かされたら、気分も高揚しますよ」

「ちゃんと、資料は集めたんだよな」


「……」

「おい、今日は何のために来たと思ってるんだよ」

「デートがちゃんとうまくいっているかどうか」

「それは合っているが、他にやることもあっただろ!」


「大丈夫です。ちゃんと調べておきましたよ」

「なんだ……それならもったいぶらず早く言ってくれ」

「ふふっ。なんとなくいじわるしたくなっただけです」


 どうやら、かなり気分が高揚しているようで今の千賀美は上機嫌だった。


「それよりも、依頼人を追わなくてもいいんですか?」

「一応見張ってはいるが、そこまで後追いをする必要はなさそうだ。うまくやっている」

「なら、CDショップに寄りましょう」

「お前、はまりすぎだろ。まだ、うまくいっているか決まった話けっではないしな」


 今は先ほどのコンサートの話で盛り上がっているだけで話題が尽きたらどうなるかが肝心だ。

 千賀美は物欲しげな顔をしながらこちらを覗く。いや、俺は別に持っていないぞ。あれ、借り物だから。


「分かった。この尾行が終わったら連れてってやるから我慢しろ」

「……絶対ですよ」

「ああ、約束する」

「ありがとうございます」


 気分が高揚しているからかなんだか壊れた千賀美を見ているような雰囲気だった。

 千賀美はお酒でも盛られたのだろうか。

 そういうわけで俺たちは依頼人の尾行を始めた。

 とは言っても、依頼人は彼女はあの後もうまくいっていたようで、俺たちは時間を見て退散することなった。

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