第14話
6月4日
3という数字は縁起が良いと言われている。
三次元で構成された世界。過去・現在・未来と言う人生の3点。魂・精神・肉体の三位一体と重要な事物は3で構成されていることが多い。
そういうわけで告白するのも3回目のデートであるのが好まれる。
沈んでいく夕日をバックに街を眺める二人の男女には穏やかな雰囲気が流れていた。
「なんだか、自分のことのように緊張するね」
隣の苗須は興奮が収まらないようで先ほどから俺の横でずっとしゃべり続けている。
俺たち四人は夕日を見ている建物の横にある建物から見下ろしていた。
「それにしても、綺麗に晴れたわね」
「ここ最近、雨続きだったからな。ほんと、恵まれた物だ」
季節は夏に入る前に梅雨時へ。昨日、一昨日と雨続きだったがために少し心配だったが、それは杞憂に終わった。
「それにしても少し寒いですね」
千賀美は空気を読まず、寒いと言いながら身を包みこんでいる。
「蓮香ちゃん、私の上着貸してあげるわ。これで少しは暖まるかしら」
「あ、ありがとうございます」
久友は持っていた上着を千賀美へと掛ける。
「どうかしら?」
「とっても暖かいです」
「それは良かったわ」
なんだか……ここでもう恋が始まっている気がするが、気にしないでおこう。
「あ、いよいよだよ!」
先ほどから目を大きくしてみていた苗須の合図により準備に取りかかる。
「千賀美、サーモグラフィーの用意を頼む」
「……わかりました」
千賀美はいやいや眼鏡のスイッチをオンにする。
確かに、告白シチュエーションの風景がすべて赤とか青になってしまうのはいやだろうが、今は我慢してくれ。
俺は自分の持っている双眼鏡を目に当てながら様子を確認する。
「どうなるのかしらね?」
「大丈夫だろ。先週も良い雰囲気だったんだろ」
「うん。手もつないでたからね。あの時は見ているこっちがドキドキだったよ」
「なら、問題はなさそうだな。それよりもその時の二人の温度変化は?」
「へっ!? 温度変化?」
「誰もが先輩みたいに資料集めをずっとしているわけではないですよ」
「くそっ。俺も一緒にいれば良かったな」
「あっ。告白が始まったみたいよ」
久友の言葉によって、全員の意識は目の前にいる二人の男女へと注がれた。
俺は双眼鏡を使って、様子を覗き込んだ。
男は目の前にいる彼女の目を見ながら口を走らせている。彼女は目を大きくし、ほおを赤らめながら彼の話を聞いていた。
やがて、男の方が手を彼女の方へと差しだし、顔を下へと向けた。
しばしの沈黙が走る。彼女は迷っているのか、それともただじらしているのか、定かではない。
だが、その沈黙は彼女が手を握ったことにより嘘だったかのように吹き飛んでいった。
「あれ、手を取ったのかな?」
「そうみたいだな」
「やった-。これで無事結ばれたんだね」
「なんだかとても良い雰囲気だね」
向こうは今、幸福真っ盛りな状況だろう。
だからこそ、俺は双眼鏡を動かし確認する。
「千賀美、そっちの様子はどうだ?」
「体温上昇はかなり激しいように思えます」
ならば、あとはそれらしき現象が見れれば良いと言うわけだな。
俺は双眼鏡動かしながら彼らの様子を細やかに覗く。
手を取り合った二人はまるで世界に自分たちしかいなくなったかのように見つめ合っていた。
今が絶好のチャンス。これを逃してはならない。
とは言っても、それらしき変化が見られる様子はない。
「ねえ、この流れって……」
苗須は目の前の二人から何かを察したらしい。
「もしかすると、もしかするかもしれないわね」
二人の言うとおり、雰囲気の良くなった彼らは互いを見つめ合うと唇を近づけていった。
「キ、キスだよ-」
「なんだか、見ていると恥ずかしくなってくるわね」
横にいる二人は気分を高揚させている。さすがにこの流れまでは予想できなかったのだろう。
両脇の二人は気にせず、観察を続ける。
足、腰、身体と下から上に向かうように動かすが、どこにも『光っている』ような物は見当たらない。
やはり、発光現象というのは可視化できる物ではないか。
「ん……」
「なにか、みつけたんですか?」
「いや……」
俺は彼ら二人からかすかな『光』を見ることができた。
ただ、それはもしかすると夕日が反射しただけに過ぎないのかもしれない。
昨日の雨で残った滴による光なのかもしれない。
でも、たしかに『二人のつながれた手』にそれは見られた。
依頼人の恋は無事成就した。
これでひとまずは、研究に没頭できそうだ。
新たに研究できる内容もできたことだし、満足な依頼内容となった。
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