第12話
会場は多くの人で賑わっていた。
彼女が予定を開けても行きたいと言うわけだ。この業界ではかなり有名なのだろう。
このチケットをくれた菱谷には頭が上がらないな。
そう思いながら横で沈んだ表情をしながらうなだれている千賀美の方を覗いた。
こっちはもうそろそろ頭を上げてもらいたい物だ。
「私に任せてください」とはりきっておきながら盛大に先週と同じ間違いを起こしたのだ。
「千賀美、いい加減元気出せ」
「……」
「お前のそう言う変に空回りするところ嫌いじゃないぞ。普通に見ていて可愛いからな」
「っ! 別に、先輩にそんなこと言われても何も思いませんからね」
千賀美は顔を上げるとそそくさと受付に向かって歩き始めた。
だからそう言う行動が過ちを生んでいくのだといい加減気付いてほしいな。
受付を終え、中へ入ると広い空間に包み込まれる。
ホールの中心に舞台があり、周りを席が囲んでいる構成になっている。
俺たちは後ろの方の席へと腰をかける。
今回の目的は依頼人の様子確認と研究資料の調達だ。どちらも後ろの席の方がやりやすい。
依頼人の様子見はこのホールに着いてから。
初めてのデートなのだ。最初から尾行して依頼人に重荷を着せさせるのは酷なことだろう。
ここにつき次第、メールをくれるよう頼んだのだが。
視線を動かしていると依頼人らしき人物を確認する。きちんと彼女をエスコートしていた。
「どうやら、心配は杞憂のようですね」
「そうだな」
見たところ楽しそうに会話している。ここに来る途中で何があったかは知らないが、アシストする必要はなさそうだ。
「これで、資料調達に専念できるな」
「最初から、それ目的で動いているんじゃないですか」
「そんなことはないぞ、きちんとアシストしようと決めていた」
「……本当ですか?」
「ああ、ちゃんと7対3くらいの割合で思ってたさ」
「資料調達7割ではないですよね」
「……」
「やっぱり、そうなんじゃないですか!」
つい、間を開けてしまった。千賀美は勘の良い子だな。勘の良いガキは嫌いだよ。
「とりあえず、今は聴こう。もうすぐ始まるぞ」
俺は眼鏡のスイッチをオンにして舞台の方を覗いた。同時にコンサートの照明が暗くなる。
「……」
千賀美は何を言うこともなく。俺と同じくスイッチを押した。
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