第11話

 再び休日に入っていった。

 あの後さっそく依頼人は彼女に誘いのメールを送ったようで、結果は承諾だったようだ。 詳しく話すと元々は予定が入っていたらしいが、コンサートが聴きたいがためになんとか予定を開けてくれたらしい。


 流石は趣味。効果は絶大だな。

 もし失敗したら当日券も買って、研究室の四人で励ましてあげようと思ったが、杞憂だったようだ。


 そういうわけで今日もまた、俺と千賀美は先週と同じ場所で待ち合わせすることになった。

 集合場所にたどり着くと一足早く千賀美がそこで待っていた。


「おそかったですね。先輩」

「お前何時に来たんだよ。今三〇分前だぞ」

「今来たところですよ」


「なんだか疑わしい言い草だな」

「とにかく、行きましょう。こっちです」

「大丈夫か? この前みたいに迷ったりしないよな」

「大丈夫です。今回はきちんと携帯で調べてきましたので」


 先週の道を間違えた件、千賀美の中ではかなり恥ずかしかったんだろうな。

 今回は千賀美が先導するという形で歩いて行くことになった。俺も道は知っているから最悪アシストすればいい。


「ちゃんと、例の物は持ってきたか?」

「サーモグラフィーですか? もちろん持ってきましたよ。忘れると先輩がうるさそうなので」

「それなら良かった」


 この前はCDで聞き、今回は実際の演奏を聴くことになる。この違いが俺たちの感情にどう影響を与えるのか気になるところだ。


 だが、今回の場合はサーモグラフィーで確認できたとしてもデータを打ち込むためにPCを開くことはできない。

 だからこそより多い人員を確保しておきたかった。俺だけでは記憶しきれないからな。


「それにしても、二週間連続休日を先輩と一緒に過ごさないといけないなんて最悪ですね。久友先輩だったら大歓迎だったんですけど」

「千賀美ー、きこえてるぞー」

「聞こえるように言ったんですよ」


 こいつ、本当に性格悪いな。そこは思ってくれるだけでよかったんだが。


「あーあ、男に絡まれてたときの千賀美は可愛かったんだけどな-」


 イジるような気持ちで言ってみると思いっきりこちらを睨んでくる。


「その話題を持ってくるのはやめてください」

「……すみません」 


 鋭い視線に思わず謝ってしまった。ほんとうにイヤだったんだな。


「あの借りは必ず返しますから」


 そう一言おいて、我先に歩いていった。

 ああいう表情をしてくれれば、千賀美のこともう少し可愛いと思うんだけどな。

 視線を彼女に向けながら強く思う。

 加えて、もう一つ思うことがあった。


「千賀美! そっちの方向は逆だ!」


 結局、先週と全く同じことを起こしてしまったようだ。

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