第8話
5月16日
土日が過ぎ、再び大学が始まる。
とは言っても、講義は午前中で終わり。午後からは研究に励むことになる。
今日は講義室の一室を借りてある実験を行うことにした。
「先輩って本当に人使い荒いですよね」
PCをいじっていると横にいた千賀美が声をかけてくる。
今日の実験に付き合ってくれる人物の一人である。
「依頼を手伝っているんだ。あれくらいやってもらって当然だろ。女子じゃあるまいし。そろそろ時間かな」
席を立ち、窓から見える大学内の景色を見渡した。
今現在いるこの講義室は三階にあるため景色は綺麗な物になっている。
「何を見ているんですか?」
俺の言葉が気になったのか、千賀美もこちらへとやってくる。
この前の遊園地とは違い、今日は香水などをかけてきているようで甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「あ、あの子……」
千賀美は誰かを発見したらしい。視線の方へと顔を向けると依頼人である男子学生が段ボールを抱えてこちらへとやってきていた。
男子学生の歩くスピードから段ボールの重量が伝わってくる。
よかった。俺が運ぶ必要がなくて。
「……本当に先輩は鬼畜ですよね。顔がほころんでますよ」
「そんなにか。ずっと同じ評定しているつもりだったんだけどな。お前が敏感すぎるんじゃないか」
千賀美はポケットからケースを取り出す。眼鏡型のそれをつけるとスイッチを押した。
「いつもの先輩よりも表情の数値が若干高いですね」
「いつもって何だよ。まだそれ渡して三日目だろ。それなら気温のせいじゃないか」
「……それでも、先輩が鬼畜なことには変わらないですけどね」
「勝手に言ってろ。お、来たようだな」
俺は依頼人の横を通ろうとする女の子二人に目を向ける。
「誰ですか? あの二人」
千賀美も気になったらしく俺と同じ方向に目をやる。
「右側が依頼人の思い人だ」
「あ、言われてみれば。写真の人と似ていますね。実際に見た方が可愛いじゃないですか」
「へー、千賀美が褒めるなんて珍しいな」
「基本、女の人には優しいですからね」
「その優しさを男にも分けてほしいものだな」
「それは無理ですね。特に神鳥先輩には」
ほんと、嫉妬心というのは大きな障害になるんだな。久友信者のこいつには俺という存在は悪だからな。
「それにしても、このシチュエーション。狙ってやったんですか?」
「まあ、運が良かったらこうなるだろうなとは思ってた。女の方はこの時間いつも使っているルートだから問題はなかったが、男の方がルートを外れて歩いてきたら成立しなかったからな」
「それは菱谷さん情報ですか?」
「ああ」
「あの人、どこまで他人の情報知っているんですか?」
「さあな。あいつは本当に未知だよ。だから久友のもらった情報に何が入っているのか気になるんだよ」
「その情報で二人の間に亀裂ができれば、私としては万々歳ですね」
「心配するな。何が起ころうとも久友が見捨てることはない」
「何ですか。その幼なじみ特権は」
「まだ数年のお前とは違うんだよ」
さすがに言い過ぎたようで千賀美が殺気をまとい始める。やっぱり、久友信者怖いな。
「どうせ、私はまだ数年ですよ」
ふてくされながら、千賀美は自分の席へと戻っていった。
悪い、依頼人よ。少しばかり空気が悪くなったかもしれない。
俺は頭をかきつつも自分の席へと戻っていった。
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