第7話
一通り見終わったところで俺たちは出口に向けて歩いていた。
「ある程度、サンプルは採れたな。これならバッチリだ」
「結局、最後の方は研究メインになっていましたね」
「言っただろ。どちらも向いている方向は同じなんだ。ならば、一番モチベーションにつながる方を選ぶべきだろ。それよりも……」
俺は自分のポロシャツの先端を見る。
そこには千賀美の手がぎこちなく握られていた。
本人としては大層イヤなことなのだろうが、ナンパという未知なる領域を体験してしまった手前、こちらの方が落ち着くのだろう。
「もう離しても良いんじゃないか?」
「絶対にどこにも行かないでくださいね」
何だろう。すごい胸がときめくような台詞なのにここまで殺気を出しながら言えるのか。
「分かってる」
「それなら……良かったです」
そっと、服から手が離れていく。これでようやく解放されたな。
「ひとまず、今日はこれで終わりだな。帰るぞ」
「……」
千賀美は何かを試すようにこちらを覗いていていた。
何を言おうとしているのか今までの経験から推測はできる。
「ちゃんと家まで送ってやるから安心しろ」
「っ!」
千賀美の方は分かっているとは思ってなかったらしく、目を大きくしてこちらを見る。
「今日はその……神鳥先輩と一緒で良かったです」
っ!
ほおを赤らめて言う千賀美の言葉に思わず胸が高鳴る。
気を紛らわすように俺は眼鏡のスイッチを入れる。
「千賀美、今すごく顔赤いぞ」
「っ! 先輩、それ没収です」
千賀美は手を伸ばし、眼鏡を取ろうと顔に近づけてくる。
「イヤなこった」
俺はそれを華麗に躱し、出口に向かって走って行く。
「待ってください」
千賀美は必死に俺を追いかける。
そうして、二人夕日に向けて駆けていった。
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