第6話
それから二人でいろいろなところを回った。
俺はその都度、サーモグラフィーを使ってアトラクションに乗った人の様子を観察しながらメモを取っていた。
「先輩、もう一度言いますけど。今回は下調べですからね」
「分かってるよ。こうやって、メモを取ることでどのアトラクションが楽しみやすいか検討してるんだ」
「そうだったんですか。それは……申し訳ないことを言ってしまいました。先輩もきちんと考えていてくれていたんですね」
半ば言い訳のような感じで言ったのだが、千賀美は素直に受け止めてくれたらしい。
「ああ。まあ、検討とサンプル集め、3対7くらいの意欲で行っている」
「はあ……見直した私が馬鹿でした」
「3あるだけマシだと思ってくれ」
「全くマシじゃないんですけど……でも、モノは使いようってことですね」
「そういうことだな。意欲はその比だが、方向性としては10対10と言っても過言じゃないからな」
「なら、私もやる価値はありそうですね。ここからは二手に別れてそれぞれ行動した方が良いですかね」
「そうだな。そっちの方が効率性は良いかもしれないしな」
「そうしましょう」
ということで、二人の合意の元ここからは別れて行動することになった。
これで、下手に千賀美からの野次を受けないと思うと清々しいな。
あいつは結構律儀なところがあるからな。マルチタスク苦手な部類だろう。
俺は別のアトラクションに行き、サーモグラフィーを起動させる。
乗っている人たちの様子と周囲の様子を比較し、メモを取っていく。
メモを取っている最中、先ほどの千賀美からの野次が飛んでこないことになんとなく違和感を覚えてしまう。
慣れてしまったせいなのだろうか。ほんと、こう言うのはやりにくいな。
サーモグラフィーをオフにし、先ほどの千賀美のいる方向を覗いた。
千賀美の姿を捉えると前に二人組の男がいるのが見える。
おいおい、まじか。勘弁してくれよ。
自然と足は千賀美のいる方向へと歩いて行っていた。加えて、足早になっている。
「ちょっと、あのアトラクションに一緒に乗らねえ」
近づいていくと声が聞こえてくる。やっぱり、ナンパか。今時流行らないだろ。
「……」
千賀美は何か言おうとしているが、声にならないようだ。
別れたのは間違いだったな。元は極度の人見知りなのだ。
「ちょっとごめんなさいね」
俺は手を出そうとした男に仲介するような形でそこへ入っていく。
「なんだ、てめえ」
「ごめんなさい。この子今僕とデート中でして」
「何だ、彼氏持ちかよ。行こうぜ」
男二人はなかなか律儀なようですぐにその場から去って行った。
「お前もついていないな」
「……」
目の前で千賀美を見ると少し涙ぐんでいるのが見て取れた。
どうしたものか。昔、久友と色々あったおかげで女の子の涙に弱いんだよな。
「あり……がとう……ございます」
千賀美は唇をかみながらもお礼を言ってくれた。
「やっぱり、二人で行動した方が良さそうだな」
「……お願いします」
涙ぐみながらもきちんとしゃべろうとする千賀美に思わず、口がほころんでしまう。
こう言うところで律儀さを出されるとけっこう可愛いと思ってしまうんだな。
「とりあえず、これで拭け」
俺はポケットにあったハンカチを千賀美へと差し出す。
千賀美はぼーっとしながらこちらを覗く。涙が太陽で反射して少し眩しい。
「大丈夫です。自分の持ってるんで」
そう言うと千賀美はカバンからハンカチを取り出して涙を拭いた。
俺との行動だから化粧などしているはずもなく、メイクで汚れる心配もなかった。
「って、この場面は違うだろ!」
「っ!」
何で自分のハンカチ取ったんだよ。なんで律儀さ見せちゃったんだ。
「何言ってるんですか。先輩……」
「い、いや、何でもない取り乱した」
せっかくの自分の行いを無にされたことで思わず、ツッコんでしまった。
これは俺のキャラではないな。
「何か今の台詞で、涙が吹っ飛びました。さすが先輩ですね。行きましょう」
「あ、ああ……」
なんかすごく納得がいかないが、千賀美が元気になったから良いか。
そうして、また二人で行動することになった。
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