第5話

 休日の遊園地は予想どおり多くの人で溢れていた。

 ここなら多くのサンプルが採れそうだな。

 スマホを取りだし、気温、気圧、湿度を確認していく。


「先輩、一応言っておきますけど、今日はデートの下見なんですからね」

「分かってる。だが、ここに来たのだからついでに計っておくのも悪くはないだろう。もしかすると新しい発見があるかもしれないからな。それと、さっき散々俺を振り回したんだからこれくらい付き合ってくれよ」


 俺はそう言うとカバンからケースを取り出し、眼鏡を千賀美へと差し出す。


「何ですか? これ……」

「さっき言っただろ。もう一つ買ったって」

「私もつけろと言うことですか?」

「そういうことだ」


 千賀美はイヤなそうな顔を俺に見せる。

 俺は煽るような形でもっている眼鏡を上下させた。


「分かりました。つければ良いんですよね」

「千賀美は物わかりが良くて助かるな」


 差し出された眼鏡を手に取ると、威嚇するように眼鏡をにらみつける。

 それでも、最後はため息をつきながら眼鏡をつけた。


「以外と眼鏡姿も可愛いな」

「っ!!」


 言われたことが恥ずかしかったのか目を大きくしてこちらを覗いた。

 率直な感想だったが、千賀美には予想外の言葉だったようだ。

 とは言っても、ほんの束の間のことです乱れた心を修復するように目つきを鋭くした。


「先輩は変態ですね」

「なんでそうなるんだよ。ただただ率直な感想を言っただけだ」

「今の私に欲情したりしてるんじゃないですか?」

「そんなことあるわけないだろ」


 千賀美は眼鏡のスイッチをつける。


「顔赤いですよ。神鳥先輩嘘下手ですね」


 えっ。ほんとうに?

 俺、今の千賀美に欲情してるのか。自分では見えないのが本当に難点だ。


「嘘が下手なのは、お前も同じだろ。サーモグラフィー使わなくても照れてるのが分かったぞ」

「……それで、そう言う私の姿を見て欲情したんですよね。ほんとに最低な先輩です」

「お前本当に負けず嫌いだよな。いいか、俺は別に千賀美に欲情なんかしたりしない」

「でも、きちんと身体は反応しちゃってるんですよ」

「身体の影響なんて虚言だ」


「感情と身体影響について調べようとしているのによくそんなこと言えましたね」

「俺の身体は例外なんだよ」

「何ですか。その新設定」

「そんなことはどうでも良い。ひとまず、下見に行くぞ」


 俺はその場から逃げるように淡々と歩き始める。


「先輩! そっちは行動ルートと逆です」


 淡々と歩いていると不意に後ろの千賀美から普段見慣れない大きな声が聞こえてくる。

 驚き、思わずそちらを向いてしまった。

 先ほどの千賀美と全く同じ動作をしてしまった自分に恥ずかしくなってしまった。

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