【22】この上なく幸福な男の物語(蜂蜜の里) 総評
【22】この上なく幸福な男の物語(蜂蜜の里)
https://kakuyomu.jp/works/16818093086133670152
⬜️全体の感想
▷タイトルについて
>この上なく幸福な男の物語
ながら感想でも触れましたが、妻と死別して「この上なく幸福」は、色々疑問を感じます。
私なら「この上なく恵まれた男の物語」にします。
二人の妻に二人の愛娘など、恵まれたという点では確かに、と思えるので。
▷キャッチコピーについて
>恋と愛に恵まれた男と、彼を取り巻く女性たちの、波瀾万丈な半生。
「彼を取り巻く女性たちの」は削った方が、まとまりがあります。
本編でも女性側の人生はおまけ程度しか語られてないですし。
それ以外は、よいのでは。
▷あらすじについて
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19世紀初頭のアメリカ人のお話。
幼馴染と恋に落ちるも、娘の父親に許されず引き離され、すれ違う。
失意の男が新たに向かった新天地にて、幼馴染とよく似た少女に出会って……。
拙作 「アメリカ北部のJCが、イケメン探ししてたら南北戦争に巻き込まれた!」 主人公姉妹の、両親たちの若い頃の話です。
単品でもお読みいただけると思います。
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説明がもっさり。「新たに向かった新天地」は「頭痛が痛い」だし。
一文にまとめた方がすっきりしそう。
[19世紀初頭のアメリカ人のお話。
幼馴染との恋を引き裂かれ、失意の男が向かった新天地にて、幼馴染とよく似た少女に出会って……。]
その他は、まあこんなものだと。
ジャスミンがアリスに似てるかと言われると、正直疑問ではありますが。
▷文章について
とりあえず及第点をあげましょう。
足りないところはまだまだありますが、この作品に合った文章ですし、去年のアレに比べれば飛躍的な進歩だと思います。まあ進歩というかチョイスの問題だったとは思いますが。
誤字脱字もほぼなく、意味不明に思える箇所もとりあえず思いつきません。まあ物語がシンプルという点はありますが、短編らしく文章を畳みながら書いているのが伝わります。あらすじとしては十分でしょう。
問題はここからで、短編小説とするからには「ただのあらすじ」ではいけません。
読者を感動させ、面白がらせ、或いは手に汗握らせなければ物語としては失敗です。
そこの部分の「もう一歩」が、今作の文章構成には欠けています。
今作はほぼほぼ恋物語ですが、印象的な場面が別れのシーンに集中しています。
アリスやジャスミンとの別れでは台詞も多く演出もされています(内容は後述)が、
出会いシーンはほとんど描かれておらず、地の文で「運命的な出会いをした」とかです。これでは片手落ちと言うことは、少し考えればわかるはず。
出会いや始まりは終わり方と同じくらい重要です。女性キャラを印象付けるという意味でもそうですし、その恋を運命的だと持ち上げる演出としても不可欠かと。短編ということで削ったのかもしれませんが、むしろここは行を割くべきところです。
物語というものは、「地の文で説明」より「出来事」で描いた方が印象深く、読者の心に残りやすいものです。「運命的な出会いをした」と「はしばみの枝に髪を絡めた少女と出会った」と、どっちがインパクトあるかって話です。
作劇と被る点もありますが、構成として常に名場面を考えること、簡潔に描写し読者に想像させること、キャラやテーマを上乗せすること、を意識しながら、シーン作りと文章への落とし込みを考えるようにしましょう。
別れのシーンで言えば、アリスが馬を飛ばしてくるとかはそこら辺が出来ていましたね。まあ表現はまだまだで迫力不足でしたが、「名シーンを作る」ことを常に考えることで、作品の質は間違いなく向上するはず。ジャンル問わず、読者に飽きさせないのがよい小説ですから。
▷ストーリーについて
まさにアメリカ古典映画のような王道ストーリーですが、実際昔のアメリカが舞台なので、うまくマッチしているかと。大仰な言い回しや強引な展開も、「昔のアメリカならありえるのかも」と思わせる雰囲気があります。
話の筋書き自体は捻りこそ感じないものの、悪くないと思います。恋人たちの心情を読者に伝え共感させられたなら、十分読むに堪えられたかと。
残念ながら、その辺は難があると言わざるを得ません。
短編と言うことで登場人物の性格的な描写がほとんどなく、「勝気」「愛する」など、極めて記号的になっているので、感情移入しづらいのがまず一つ。
もう一つは、特に二人のヒロインの心理がどうにも納得できず、思い入れを阻害し続けたことです。少なくとも私には、ですが。
短編なので多くのエピソードを避けないのは事実ですが、恋愛小説においてキャラを伝えることは何より重要です。他を削ってでも優先すべきことでしょう。
詳細はキャラの方で述べるとして、恋愛小説としてはあまりに舌足らず、短編であることを差し引いても重要なパーツが抜けていると感じました。
例えば冒頭、フィリップの恋を描くもアリスの心情は描かれないままプロポーズして(それも父親に)破局とか、恋愛の階段を何段かすっとばしているとしか思えません。最低限、二人の関係を描いた上で求婚してこそ破局に意味があるはずです。
その他、フィリップや二人の妻の決断場面では「なるほど」と思うより首を傾げることの方が多かったです。ただでさえキャラの輪郭がぼやけているのに、微妙に納得できない判断が出てくるので、愛情を疑ったり、自分のキャラ考察が間違っているのかと頭を捻ったりで、素直に楽しめませんでした。ストーリーがシンプルなのに読者が引っ掛かるのは、作者の説明不足、描写不足が原因かと。
とはいえ、引っ掛かった部分は言葉遣いや会話内容など、ある意味改善しやすい部分なので、そこに気を遣えば立て直すのは比較的容易とも思われます。大筋はよいので。
後はキャラ考察や認識の点で読者との齟齬の確認。もし齟齬がなければ、どこですれ違いが生じているのか、などの細部のチェックをすべきでしょう。短編は雄弁ではないので、些細な言葉選びのミスで印象が違ってしまうので。
▷キャラについて
ほぼ三人ですし、贅沢に突っ込んでいきましょうか。
>フィリップ
語り手のわりにほとんど自己紹介がなく、「軍人である」「幼馴染のアリスを愛している」くらいしか情報がありません。途中でアメリカやインドの不平等に心痛めてるとか描写がありましたが、具体性に欠けるので人格が見えてきません。そもそも軍人として、何の任務で各国を渡り歩いているかも謎ですし。ここら辺は多くは必要ないですが、1~2行割く程度の説明はあっていい気がします。内勤なのか出兵なのかでもイメージ全然違いますし。
くどいくらい「愛」を連呼するので気持ちのアピールは十分ですが、行動に現れることはまったくありません。再会を約束したアリスと連絡が取れずいつのまにか結婚てるとか、普通に考えて自殺レベルの出来事ですが、作中では「失意の」しか書かれておらず、むしろ異国の状況に話題が映ります。これで「運命の愛」と言われても読者に伝わるわけがありません。
似たようなシチュエーションを映画で見たことがあります。「君に読む物語」です。都会から来た女性と田舎の若者が恋に落ち、結婚の約束をして別れるも手紙が家族に止められ、約束は破られます。その際の若者のグレ具合は凄まじく、恋人に約束した大きな家を建てた後は廃人同然となり、人生を捨ててしまうほど落ちぶれますが、これくらいショックを受けてこそ「本気の恋」なのだと思いますね。
あと、「母親と同じタイプを好きになる」と母親に言うシーンは最高にキモいので何とかするべきです。二人の女に愛された男がマザコンとか、ホラー味すらあります。
>アリス
>素直で一本気なアリス。そしてとても一途だ。
と説明されるアリスですが、別れのシーンでこう言われるまで、一切そんな場面はありません。再会した際もそんな描写なかったですし。
私なら、幼い二人の場面から仕込みますね。
フィリップは木を伝って窓から出入りしたようですが、幼少期にこの話を出しましょう。厳格な父親の目を盗んで、木から彼女の部屋に出入りする方法を考えたのはアリスということにすれば、お転婆で父に抗う気骨を表現できます。初めて入った異性の部屋でアリスへの思慕が目覚めた、という感じに書けば、読者の印象も強められるはず。そして同じ方法で部屋に向かうことは、二人の気持ちがまだ通じていることの暗喩にもなります。アリスが「別れて以来、一度も窓の鍵をかけなかった」「いつか貴方がやってくると思って」とか言えばなおよし。
後は、後半のアリスの半生も疑問が多いところ。
そもそもアリスがどういう身分なのか作中で説明がないので改善の手掛かりが皆無なのが困りもの。父親との関係性も謎ですが、父親と折り合いが悪くはなく、領主とか貴族的なものだと仮定した上で、アリスの「誇り高さ」を前面に出す方向で私が考えるなら、
・父親はアリスの将来を考え、フィリップとの醜聞を知らぬ遠方の名家に嫁に出す。
・しかしそこは名家とは名ばかりのクズ貴族。家業は傾き、財産も底が見え始めているのに夫は放蕩の限りを尽くしていた。
・夫との関係は冷えていたが、家の凋落を見かね、アリスは家業を手伝い始める。やがて経営に才覚を現わし、数年後には見事、家業を立て直す。
・しかしそれが逆に夫の逆恨みを誘い、結果的に離婚。
・実家に戻った後も、嫁ぎ先で得たノウハウで事業を新規展開。それが成功し、長く反目していた父とも和解。
・その数年後、父は他界し、家督を受け継ぐ。
みたいな感じでどうですかね。恋を捨て仕事に打ち込んで来た的な。
およそ本編と同じような状況に持って行けると思いますが。
>ジャスミン
こちらも「東インドの革命家」以外の個人情報がありません。
肌の色と16歳の美人、「頭が良く自分を持った正義感の強い人」くらいか。
そもそもフィリップと何歳差とか気になりますが、不明だし。
恋愛シーンはなく「運命的に結ばれた」だし。どないやねん。
敵対する立場の二人がどんな風に出会い、惹かれ合ったのかは、必ず書くべき部分でしょう。幼馴染で「何となく」伝わるアリスとは違うんですから。
例えば、アリスの方で印象的な台詞を出しておき、同じ台詞をジャスミンにも言わせることで、フィリップに「似てる」と意識させるとか、そういう演出をすべき。当時のインド社会とか世情を知らないので、ちょっと具体例は書けませんが。
あと、この時点でもフィリップにはアリスへの未練たらたらで積極的に出れないとかそういう描写もすべきです。あっさりジャスミンに靡いたら、「運命の愛」も貫目が落ちるってもんです。
短編なので出会いと惹かれる切っ掛けだけ描けば、後は流してよいと思います。
妻になる展開については、フィリップから結婚を申し込むことについては反対。
アリスへの想いを引き摺り、ジャスミンに運命を感じながらも結婚に踏み出せないくらいの方が、後々の展開に説得力が出ます。むしろジャスミンの方にぐいぐい行かせるべきです。十六なんだし。
私案としては、「結婚してついてきて欲しい」と切り出せず、船に乗ってしまったフィリップに対して、ジャスミンは密航してついてくる、という展開を考えてみました。ジャスミンも突発的ながら、本編同様に考えた末の行動。船を追ってきたアリスの記憶がジャスミンに重なり、ついにフィリップも覚悟を決め、二人は結ばれる……という感じ。
二人の別れの場面も、アメリカまでついていく展開よりも、旅の途中でカミラを産み、アメリカに戻る途中でインドに歴史的な転換点(決断を納得できるような)が訪れ、悩んだ末にインドに戻ることを決意する──という流れの方がドラマティックになるのでは。カミラをフィリップに預けたのは、この先どうなるかわからない(生死すらわからないレベル)インドよりアメリカで育てた方が子供の為という判断と、フィリップへの変わらぬ信頼と愛情の証明だと説明します。
その際、「もう一度アリスに会うべき」とジャスミンに言わせれば、その後の展開に再合流しやすいはず。ジャスミンが別れを切り出した理由の一つに、やはりフィリップがアリスを忘れられずにいたことを暗に感じていたことを匂わせましょう。それ故にジャスミンはアメリカに行けず、アリスに良人を託すわけです。アリスとジャスミンの文通設定は消えますが、むしろカミラとは初対面の方が「可愛いと思えたから」という場面にドラマ性が出ると思います。
……まあ、長編の外伝的な位置づけのようですし、大きな設定改変は無理そうとは思いますが。あくまで私が書くならという話です。
▷アドバイス回答について
>① 話の流れに不自然さがないか。特に、文章の拙さ等について。また、ゴリゴリの恋愛小説になったので、(もしもそうであれば)興味のない方にどう映るか。
だいたい答えてしまっていますが、もう一度。
>話の流れに不自然さがないか。
大筋はよいが、細部に疑問多し。
>特に、文章の拙さ等について。
及第点だが、今作には合っている。去年より数倍マシ。
ヒロインの心理描写、設定説明、場面の作り方は物足りない。
>また、ゴリゴリの恋愛小説になったので、(もしもそうであれば)興味のない方にどう映るか。
興味のない人間は対象外と考えるべき。
心理描写を改善できれば、十分読めるものになりそう。
⬜️総評
・王道恋愛物語。古典的だが筋は悪くない。
・文章は及第点。心理描写、設定部分に課題。
・現時点ではあらすじ気味。必要な肉付けを。
初の短編ということで、文章を絞りながら書くことを学べたのでは。
言葉少なく物語を表現することは、無駄にだらだら書くよりはるかに難しく、センも文章力も求められますが、木刀と真剣くらい切れ味が変わります。
内容的にはむしろ絞り過ぎで、恋愛小説として必要な肉が足りていないと感じました。読者を満足させるために何が必要で何が削れるのかという「見切り」も、短編を書く上では重要です。まあこういったバランス感覚は、何度も書きながら体で覚えるしかないので、この先も積極的に短編を書きましょう。長編より手軽ですし。
ストーリーはシンプルながら、一人の男を挟んだ二人の女性の心理というのは、短くまとめるには難しい、手強いテーマだったかもしれません。特に初の短編となれば、手に余るのも理解します。
とはいえ、これでまだ5700字くらいですからね。もう少し肉を増やしても大丈夫。脂肪を削げとか言いません。モデル級のスタイル目指して、より魅力的なバディに仕上げてください。
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