【12】革命は失敗に終わった(秋犬) 総評
【12】革命は失敗に終わった(秋犬)
https://kakuyomu.jp/works/16818093076325882516
⬜️全体の感想
▷タイトルについて
>革命は失敗に終わった
タイトルそのものは悪くないです。
ただ、「革命のエチュード」を失恋のテーマにした部分で疑問を感じているので、そういう意味では魅力を感じにくいものがあります。こちらは後述します。
▷キャッチコピーについて
>先輩は美しい黒髪と白い肌で、まるでピアノのような人でした。
これははっきりと、イマイチ。
このコピーから想像される先輩は「寡黙なピアノの天才」みたいなイメージですが、実際はそうでもなかったので。
私が作中から引用するなら、
>「知ってる? この曲は怒りの曲なんだよ」
これにしますかね。
インパクトがあって、テーマに即してる台詞だと思います。
▷あらすじについて
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卒業式間近のピアノ室で、私は憧れの先輩とピアノを弾いていた。『革命のエチュード』を得意とする先輩は美しくて、とてもピアノが上手で、私なんかとは釣り合わない素晴らしい人だった。でも先輩は「私にはないものを貴女は持っている」と言う。私なんかが、先輩より優れているところなんてあるわけないのに……。
お読みになる際はショパンの練習曲作品10ー12『革命のエチュード』を聞きながらどうぞ。
この作品は以下の自主企画に参加しています。
【「青春・学校・音楽」 この三つの条件でガチ作品を書いてください。企画内容参照。】
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093076234531699
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ちゃんと原曲聞いてきましたよ!
あらすじは及第点という感じ。
必要な情報はまとまっていますが、読みたいと思わせる求心力に乏しいというか。
あと、作者が狙ったと思われる展開(自覚なき恋心)が、このあらすじの時点で漏れていて、ネタバレぽくなっています。
>私なんかとは釣り合わない
ここですね。もうこの台詞の時点で、色々察せられてしまうので。
▷文章について
基礎的な部分はクリアされていると感じます。文法的なミスや誤字脱字の類は皆無でした。丁寧に文章を書かれていて、好印象です。
単純な情景描写は若干不得手なのかと思われます。冒頭のカーテンなど。
逆に情感に訴える詩的な表現は手慣れていて、今作でも主人公の内面の描写に効果的に使われていました。
ただ、キャラクターの心理の微細な部分、それも読者に匂わせるような機微の調整は、今作では上手く働いているように見えませんでした。これはキャラ造形の問題かもしれませんし、表現のミスかもしれないのでどちらとも言えないのですが、「やりたいことは多分こうだろうけど、痒い所に手が届かず、カタルシスに至らない」という感覚が終始ありました。
例えば、今作の肝は主人公が自身の恋心を自覚しておらず、それが後に後悔と怒りとなって昇華されることです。
この仕掛けを生かすべく前半を書くなら、
1.主人公はもちろん、読者にも恋心が読めない
2.主人公は自覚しないが、鋭い読者なら読める
3.主人公は自覚しないが、読者にはバレバレ
当然、上に行くほど効果的で、かつ難度が高くなります。
実際には1を目指して2が満たせられれば上出来なところですが、今作の書き方は意図してか知らずか3です。「好き」が見えるキーワードが頻出しますから。
それはそれでアリだと思うのですが、それなら何故、嫉妬や憎しみを前面に出した心情描写をするのか。読者のミスディレクションを狙ってるようでもあり、作者の狙いが読めない感じです。どっちつかずで両方の要素が混ざっているので。
もちろん愛と嫉妬は表裏一体で、一概に矛盾とは言えません。
ですが、二人の関係性を理解していない段階で、混沌とした心理描写を暴露されても読者は戸惑うばかりで、共感に至りません。そんな複雑な感情を持つに至る、背景や経緯の描写があって、初めて「理解できる」のです。
ここら辺の疑問点は、物語の構成や設計図が甘いのならストーリーの問題、言葉のブレがそう思わせているなら文章力の問題だと思います。
▷ストーリーについて
「こうではないか」という筋書きをざっくり書いてみます。
[主人公は先輩に、自覚なき恋心と恵まれた才能への嫉妬を抱いていた。
とくに「革命のエチュード」は絶品だった。
だが、先輩は「主人公の演奏には自分に足りないものがある」という。
卒業後、主人公は先輩からその真意を教えられる。
主人公は当時恋をしていて、それが自分には足りなかったと。
その後、先輩はパートナーを得たが、主人公は最後のチャンスを逃したと悟る。
激しい後悔と怒りは「革命のエチュード」の演奏で昇華され、主人公は先輩への想いを吹っ切る。]
最後が男前すぎますが、それ以外はそこまで問題ない気がしますね。
でも、読後には激しい消化不良感があるんです。
以下、読みながら引っ掛かったところをピックアップしてみます。
思いつくなら、その改善点も。
>「革命のエチュード」について
今作の裏テーマとも言える曲です。もちろん名曲で、ショパンにまつわる逸話も(規模はともかく)激しい怒りと悔やみが感じられ、最後を締めるに相応しいのですが、問題は「何故、先輩の演奏するこの曲は人の心を打ったのか」です。
もちろん先輩の技量とかあるんでしょうが、この作品世界では「気持ちをこめることが大事」というテーマがあるわけで、当然ですが先輩も演奏に本気の「怒り」を込めていたものと思われます。
ですがその点について、本作では一切触れられていません。
主人公は先輩が完全無欠な人間だと思っているようですが、裏を返せば先輩のエチュードはその程度だと思っているわけです。それはおかしいのではないでしょうか。
ピアノに真剣に向き合ってきた主人公であれば、まず先輩のエチュードに本気の怒りを感じ取り、その理由が気になるはず。そこに二人の関係が深まるポイントがあるのではないか、と私は思うわけです。
例えば私なら、こんな感じにします。
[ピアノの才能あふれる先輩だが、名家である両親からはピアノは高校までと告げられていた。卒業後の進路も決められ、親の決めた許婚までいた。表に出さない反発と怒りが「革命のエチュード」を名演奏たらしめていた。進路を決める際、ようやく親を説き伏せ音大に合格。婚約も解消した(男に興味を持てない伏線)が、この事実は誰にも言えずに来た。今日、ピアノ室で主人公に話すまでは]
>最後のチャンス
ラスト、主人公は「あの日が最後のチャンスだった」と悔しがりますが、ながら感想にも書いたように、二人の恋の正否にはタイミング以前に「同性恋愛OKか」の壁が立ち塞がります。ここを無視すると、激しい怒りに駆られる主人公が考えなしに見えてしまいます。
改善案としては、ピアノ室の時点で「先輩の方が主人公を意識していた」ことを匂わせる描写と、最後の写真で一緒に写っている相手を女性にすることでしょうか。
何なら同性愛者であることをカミングアウト(音大に進んでから自覚したとか)して、「当時から主人公が好きだったが、他の誰かに恋しているのを知っていたから言えなかった」的な告白をしてもいいかも。
ここまでビッグなボタンの掛け違いがあればこそ、主人公の怒りと後悔も「革命のエチュード」に相応しいと思います。
>主人公の心情描写
「文章について」でも指摘しましたが、現状では主人公の揺れる思いが今一つ鮮明に伝わらず、解像度が低い状態です。この原因は主人公の境遇、先輩との関係性、心情の描き方、の三つが足りていないことだと思います。一つずつ改善案を考えてみます。あくまで「私なら」ですが。
・主人公の境遇
ピアノが好きでプロを目指していたことを明記し、挫折を強調。
二年時にして音大合格は無理と悟り、目の前で夢を体現する先輩に嫉妬。
先輩が音大を合格してから、一度も会っていなかった。
先輩に捕まり、連れていかれたピアノ室で本音をぶちまけ、ようやく和解。
・先輩との関係性
初期は強い憧れと尊敬だが、現在は強いコンプレックス。
先輩を避けていたのは、醜い自分を見せたくなかったから。
今作の複雑な心境は、全て言葉にしてぶちまけてしまう。
「自分の演奏に足りないものをもっている」と言われ、救われる。
先輩は包容力を強め、壊れかけた主人公を受け止めさせる。
先輩も淡い恋心を主人公に抱いているが、言えず仕舞い。
卒業前に呼び出したのも、最後まで心配だったから。
家柄と才能に恵まれるがそれ故に友人は少ない。
本来孤独なピアノを通じて、もっとも傍にいた存在が主人公だった。
・心情の描き方
基本は「憧れの先輩と至らない後輩」として描く。
恋愛感情ではなく、ピアノに対する嫉妬や憧れをメインに。
先輩の誘導で、ひとしきり嫉妬をぶちまけた後、素直になる。
二人の感情のコントロールに、名曲を絡められればなおよし。
素直になって出て来た感情だけ「恋かもしれない程度」に描く。
むしろ先輩の方が特別な好意を持っていることを示唆。
「私なら」、こんな感じでプロットを設計します。
主人公の設定は、わかりやすさを最優先した結果です。
>最後の展開
ながら感想でも書きましたが、あそこだけ別の作品のようにノリが違っています。
或いは数年が過ぎて落ち着いたことの表現かもしれませんが、正直、こちらの書き方の方が私は好みです。このノリを過去(本編)の方に生かしてもいいんじゃないかと。
例えば主人公の男前な性格とかは、過去においても援用すれば二人の会話に別の魅力を加えられそうな気がします。もちろん嫉妬どろどろなんですが、女性寄りでない方向とか。
あるいは、過去の性格はいじらず、先輩の方を男前に描いて、その影響を強くうけた結果、現在はこうなった──という読ませ方が出来るように書くのもアリかもしれません。
私の思うところの百合的な雰囲気とは異なるのですが、反面とても魅力的とも思うので、新境地を期待したくなりますw
▷キャラについて
ストーリーで語り切ったので、割愛します。
現状では主人公、先輩とも設定が弱く、それ故に関係性も希薄に感じられるので、てこ入れするならそこでしょう。
▷アドバイス回答について
>・特に意見が聞きたい部分。
>百合作品として成立しているか。
正直なところ、ミスってると思います。
少なくとも「自覚なき恋心」の演出は。
私も百合の何たるかとかわからないのですが、やはり重要なのは感情の機微であり、秘めた恋心に共感できるかだと思われます。ですが今作では自覚がないので、そこの利点が使えません。よりハイレベルな挑戦とも言えますが、ハードルを超えきれていない印象です。
ただ、ラストのどこかエネルギッシュな文章は、これまでにない百合世界が拓けるのではないか……みたいな予感があります。百合にも色々あるでしょうし、これぞ百合というものでなくても、読者を魅了できればいい気がしますし。
あのノリと雰囲気で、別に一本書いてみてはどうでしょう?
>作中敢えてストレートな言葉を使わなかったが、読者としてどう思うか。
直接的な言葉こそ使っていませんが、間接的にバレバレな表現が多かったので、恋心を隠すという意味では機能していなかったような。
というか、その方針で書くなら、一人称は不向きだった気がします。
雰囲気や演出のみで伝える書き方が出来ず、どうしても心情を書かざるを得ないので。先輩については描けるんですけどね。
⬜️総評
・狙いはわかるが、解像度の低さに終始もやもや
・キャラ設定、心理描写の甘さが原因では
・終わり方は良い。このノリが全体に欲しい。
あまり百合作品としての評価にならなかった気がしますが、所詮にわか百合書きなので、この程度だと思ってください。百合の本質とか私が教えて欲しいですわ。
少女漫画的な作劇の視点で大々的に「私ならこう書く」をやってみましたが、もちろんこれは私が勝手に考えた、ただの「二次創作」です。なので無視していただいても構いませんし、何か拾えるところがあれば参考にしていただいても。
短いわりにキャラの心理が拾いづらく、ひたすら読み込んだせいで奇妙に愛着が湧いてるのも事実です。最後辺りはお気に入りなので、新しい百合作品に期待しておきます。
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