【12】革命は失敗に終わった(秋犬) 読みながら感想
【12】革命は失敗に終わった(秋犬)
https://kakuyomu.jp/works/16818093076325882516
アニメに影響されて、「ダンダダン」全巻買ってしまいました。どうしても手元に欲しくなったので。今月は読む暇ないと思いながら、ちまちま読んでます。
こんばんは、梶野です。
十二人目の参加者は、秋犬さん。参加作品は、「革命は失敗に終わった」。
三千字ばかりの掌編ですね。なんか久しぶりです、一万字行かない作品は。
秋犬さんは以前、開催された企画に参加して感想をやり取りした間柄です。
当時は「あのに犬」のペンネームだったので、今頃になって気が付きました。すみません。突然変わると混乱しますよね、これ。
秋犬さんは短編メインの作風で、創作論も書かれておられるベテランというイメージです。確か、私が感想を送ったのも「辛口感想について」みたいな話だったような……まさに今、そんな企画を通して再会しているので、何とも不思議な気分ではあります。まあ私は辛口ではなく、正直をモットーに感想書いてるだけですが。
そんな秋犬さんの参加時コメントがこちら。
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こんにちは。こちらの企画初めて参加させていただきます。お手柔らかにお願いします!
作品名「革命は失敗に終わった」
・特に意見が聞きたい部分。
百合作品として成立しているか。
作中敢えてストレートな言葉を使わなかったが、読者としてどう思うか。
・「梶野ならこう書く」具体的なアドバイスが欲しいか。
更に百合らしさを追究できるアドバイスがあれば欲しいです!
・学生(中高生以下)かどうか。オブラート増量します。
学生ではないです!
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うわあ、百合ものかあ……
ぶっちゃけ、百合について語れる自信は皆無です。
私自身、百合系の作品は一本しか書いたことありません。それも去年の話。
書いた理由も「去年のこの企画で百合作品を複数読んで、こういうのもアリだと思った」ですから。完全に習作レベルです。
作品の評価は……まあ、ご自身の判断でお願いしますw
「翠雨」:
https://kakuyomu.jp/works/16817330667639726069
なので、「百合作品として成立」とか「百合らしさを追及」とか、私が聞きたいくらいです。私、女性でも百合趣味でもないですから。ただのおっさんですから。
とはいえ、百合系に興味を持ち、試行錯誤して一本書いた程度の経験値で何か言うことくらいは出来ます。一応、勉強がてら百合ものも数作読みましたし。漫画だけど。
後はまあ、少女漫画の空気感とか雰囲気と比べてとか……そんな感じの感想を捻りだそうと思っています。その程度の感覚で読んでいただければ。
今回は掌編ですので、全体の構造も見れますしね。
それでは「じっくり感想」を始めましょう。
⬜️読みながら感想
二読後の感想を、読みながら書きます。
>革命は失敗に終わった
エピソードタイトル。メインタイトルと同じですね。
以前調べた時、短編にこういうつけ方をする人が多かったです。
個人的にはエピタイにも一工夫欲しい派ですが、無難ではあります。
>薄くて白いカーテンがたなびいている。窓を開け放つと冬の気配がどこかへ行き、久しぶりに気持ちのいい風が入ってくる。
冒頭から首を傾げる情景描写。
カーテンがたなびくということは、窓は多少なり開いてるんですよね?
それを全開にしたと読めますが、室内にある冬の気配とは……?
換気されるので気持ちいいのは理解できますが、これは窓が閉じられていればこそ感じるもので、カーテンが揺れるくらい外気が入っていたら新鮮味は乏しい気がします。
あるいは「カーテンがたなびいている」は、窓を開け放った後の描写でしょうか。
もしそうなら、「たなびいた」か「たなびく」と書いた方が、そう読みやすいです。
私なら窓は完全に閉じている設定で、以下のように書きます。
[薄くて白いカーテンがたなびいた。
窓を開け放つと澱んだ空気が解放され、久しぶりに気持ちのいい風が入ってくる。]
>今日は入試の準備とやらで在校生の授業は午前中で終わり、生徒は校内に立ち入ることはできなかった。
[生徒は全員、強制下校だった。]などの方がよいかと。
すでに登校しているのに、「立ち入ることが出来ない」という説明は微妙です。言いたいことはわかりますが。
>帰ろうとした私を呼び止めたのは、ピアノ仲間の真由美まゆみ先輩だった。
この流れでいくと、先輩が主人公を呼び止めたのは校門かどこかで、少なくとも音楽棟やピアノ室ではありません。それなのに教室の場面に続くので、若干ですが引っ掛かりを覚えます。スムーズに読ませるなら、
[帰ろうとした私を呼び止め、音楽室に連れて来たのは、ピアノ仲間の真由美まゆみ先輩だった。]
>「先輩は家に帰らなくていいんですか?」
> 3年生は自由登校で、もう卒業式に来るだけになっている。先輩はそもそも学校に来る必要がないはずだった。
後の説明を見ると、この台詞は変です。
先輩は来る必要がないのに登校してきたのですから、質問は「何故来たのか」であるべきで、「帰らなくていいのか」ではありません。
>「あはは、卒業式本番も大いに泣いてくれよな」
この台詞は男性的なので、脳内ではショートカットのボーイッシュなイメージが形成されましたが(ここまで外見描写ないし)、後々出てくる説明を読むとむしろ女性的な容姿で食い違いを感じます。もっと早めに先輩の外見描写をしてもよいのでは。
>先輩は私に椅子を譲る。こうして私たちは放課後によく音楽棟のピアノで遊んでいた。
二人は音楽系の部活かサークルの先輩後輩なんですかね?
ここら辺、ちょっと説明がないので不思議には思いました。
調べると高校にピアノ部というのはほぼないようで、吹奏楽や合唱部で弾くそうです。ただ、それはピアノ専門の部活ではありませんし、プロを目指すレベルだと個人レッスンから音大やコンテストに進む人が多いようなので、二人とも学校では帰宅部なのかもしれませんね。放課後、連れ立ってピアノを弾く程度の。
でもそうなると単純な部活友達ではないため、二人の関係がどの程度親密だったのか、いまいち計りきれません。音楽関係の交流の基礎知識もないので、先輩との繋がりの深さや頻度をまず知りたいと感じました。
>「ちょっとやめてよ、それは今卑怯!」
>「お返しですよ!」
> そう言って先輩は涙を滲ませながら笑う。
後の文が先輩の台詞についてなので、私なら「お返しですよ!」は省きます。
前段で「私は仕返しに」と書いてありますし。
>笑った顔がとてもキレイで、その度私は何だかムカついていた。ああ、この人は本当に恵まれているんだなって。
ううん? いきなりムカつくんですか?
「先輩は大好きだけど、嫉妬も少し」とかではなく、第一声で?
なんかいきなり、主人公の心情が遠ざかった気分。
>嫌だな、これは妬みとかきっとそんな感情。先輩はきっと傷ついたことなんかない。きっと眩しすぎるキレイな魂なんだろうな。
なんか「内心では嫌々連れて来られた」みたいに読めますが、これは作者の意図ではない……んですよね?
> 先輩は桜が咲いたら音大のピアノ科に行くことが決まっていた。恵まれた家庭環境、ピアノをするのに恵まれた身体、ピアノをするために生まれてきた魂。
魂二度目の使用ですが、違和感の方が先に立ちます。
よほど本質を見抜いたような場面でないと、「魂」という言葉の重みに吊り合わないと思います。私なら「ピアノをするために生まれてきた人」程度にします。
>ああまたか、と私は嘆息する一方で先輩がこの曲をとても好んでいることもよく知っている。
本気をリクエストしておいて、「ああまたか」と嘆息するのは、本気で嫌ってる人間の行動に読めます。なんだか物語に暗雲が立ち込めてきました。
>「だってピアノ何か弾いてってなったとき、一番映える曲じゃない?」だそうだ。それに私も異存はない。
『革命のエチュード』、私も聞いてみました。
私でも知ってる有名曲で、確かに映えますね。私も異存ありません。
>先輩の長くて細い指は、白と黒の鍵盤の上をなめらかに力強く滑っていく。
この表現はいいと思います。
>その度に先輩の長くて黒い髪がゆらゆらと揺れ、しなやかで白い先輩の肌をくすぐる。
ここは情景がよくわかりません。
長髪ということは、少なくとも肩より下まで伸びていると思いますが、ピアノを弾く以上、前に垂れることはないですよね。当然背中に流しているものと思いますが、背中側に「しなやかで白い肌」があるとはちょっと思えません。背中の開いてる服とかなら別ですが、学校だし。冬だし。
念のために長髪のピアニストがどうしてるか動画とか調べてみました。
するとナチュラルに垂らしている人も(少ないですが)いますね。彼女はドレスから伸びた白い腕に髪がかかる感じで、なるほど、これなら今作の描写に当てはまるかなと思われました。案外手元まで髪が行かないみたいですね。
ただ、改めて考えてみると、先輩の腕に髪が触れるのも変なのです。
季節がら、先輩が着てるのは冬服でしょうから。上着を脱いでも長袖のシャツだと思われるので、「白い肌」は手元しかありません。
白と黒の対比を描きたいという作者の意図はよく伝わります。
なので整合性を合わせるなら、髪の長さをショートボブくらいに変更してはどうでしょうか。それなら先輩の黒髪の先が白い首筋で踊り、矛盾なく対比が成立すると思います。
>革命を招くほどの民衆の怒りが、先輩の指の上で踊っていた。
微妙なニュアンスの違いですが、私なら「指の先」にします。
鍵盤を叩く部分として。
>それはこちらを突き刺さんばかりに感情を剥き出しにして激しく襲いかかってくる。
ここら辺は大変よい表現だと思います。
>ああ、もうこの人を見ていたくない。
「もっとこの人を見ていたい」だと勝手に想像してたので、「えっ!」てなりました。
>きれいなストレートの黒髪も「発表会の時に映えるから、ピアニストって全身で音楽を表現するんだ」って艶々に手入れされているし、
「艶々(つやつや)」はルビが欲しいところ。
ふうむ。ここで黒髪ロングをアピールするなら、髪型変更案は難しいですかね。
そうなると「白いシャツの袖を黒髪がくすぐる」の方がいいかな?
>多分白い肌も念入りにスキンケアしている結果だし、何よりピアノの才能が私なんかと大違い。だって音大のピアノ科に行く人だもの。眩しい、眩しすぎて私なんかとは全然違う世界の人。
まあこの口ぶりから見るにツンデレのツンの方だとは感じるんですが、冒頭からツンが立ちすぎてギョッとするのはあると思います。
>きっとこれは嫉妬なのだ。
ここから三段落続く「先輩はズルイ」は、共感は出来るのですが、肝心の愛の方が欠けていて、片手落ちのように感じます。私なら最後の一段落は「なのに、嫌いになれないのが一番ズルイ」的にしますかねえ。
>その黒髪を思い切り掴んで振り回せたらどんなに心がすっとすることか。
この辺りとか顕著ですが、本当に愛情があるのか疑わしい表現も見られるので、繊細な気持ちの解釈がしづらいという面があります。先輩を傷つける妄想をするにせよ、私ならこの手の暴力発言はしないだろうなと。もし男性がこれやったら、想像でもDV気質を疑われそうだし。
>そうすれば先輩はピアノなんか弾かないで、私のことを見てくれるかな。私がこんなに惨めな思いでいるってことに気がついてくれるかな。先輩がこっちを見てくれたら、それだけで私は救われるのに、きっと。
「自分は先輩の隣りに相応しくない」的な気持ちは共感できます。
でも「ピアノを弾かないで欲しい」というのは何かずれてる気がしますし、主人公の本音でもないはず。そもそもピアノを弾かなければ、先輩との接点すら失われそうなものです。
ここら辺の心情描写は、ピアノのライバル(といっていいものか)としての嫉妬と、
恋愛感情?がぐちゃぐちゃになっていて、心に響いてきません。
まあ当人も自覚がないので仕方ない一面はあるのですが、第三者である読者としては「面倒そうな女だ」という印象で、感情移入しづらいのは確かです。
>高校に入学してから「上級生にピアノが上手な子がいる」と噂で音楽棟に行ったら、ものすごい怒りが聞こえてきた。
ふうむ。
ここというか、これまでの「怒り」に感じていた違和感の正体が見えてきた気がします。総評にて後述。
>でも現実を知るたびに、私にはピアノなんか似合わないんじゃないかって悔しくて仕方がなくなってきた。
「似合わない」だとファッションのようなので、「向いてない」の方が。
>中学までの世界はとても狭かった。今、私という存在は真由美先輩という怒りの前に沈黙している。努力、才能、家柄、なにひとつ叶わない。
ここら辺の気持ちは共感できるんですが、それは主人公のピアノへの姿勢次第だと思います。例えば「先輩に会うまではプロになるのが当然だと思ってた」とか。それくらい本気でピアノをやってきたのか、そうでもないのか。或いはどこかで挫折したのか。そこら辺の描写があれば、より共感の導線が太くなる気がします。
>ああ、春の歌なのに全然春っぽくない。なんでだろう、春なのに、すごく辛い。ううん、春だからすごく辛い。もっともっと先輩のピアノを聞いていたかった。彼女の怒りに応えたかった。もっと認めてもらいたかった。私、私は……。
ここら辺はとてもいいと思います。
これくらいの葛藤が中盤くらいに出てきてたら文句ないところ。
あと、自身の気持ちの矛盾について、主人公が自覚する描写があってもいいかもしれません。でないと読者としてはモヤモヤが残り続けるので。
>「ううん、恵理ちゃんの演奏には私には足りないものが入ってるの」
伏線としては大変よいです。
>先輩は黒い髪を揺らして泣きながら笑う。私は先輩とお別れのハグをした。
早まるな。まだ本番(卒業式)じゃない。
>ああ、すごくいい匂い。きっとこんな人には一生出会うことはないんだろうな、可愛い人、妬ましい人、素敵な人。さようなら、真由美先輩。私は、私のピアノの道を歩いて行きます。
自己解決、はやっ!!
あの長々とした愚痴とか苦悩は一体……
ここは筋道として、恋と嫉妬がぐちゃぐちゃの気持ちを、先輩の言葉なり演奏なりが浄化してくれるような、そんなシーンを挟むべきでしょう。
現状では、感情の起伏が激しすぎる人のようです。「髪を掴んで振り回してやりたい」の後に「可愛い人、妬ましい人、素敵な人」ですからね。理由もなく気持ちが逆転するのは、メンヘラぽく見えるのでお勧めしません。
ピアノについてもそう。
あの長々と書かれた嫉妬はなんだったの……てなりました。
彼女は嫉妬に踏ん切りをつけた後、会っているのか。それとも今ここで嫉妬を清算したのか。後者なら、読者が納得するような相応のイベントが必要でしょう。
>私は細々とネットに『弾いてみた』という動画をあげたり、ストリートピアノでたまに注目されるくらいの人になっていた。ピアノを弾く度に、私は真由美先輩を思い出す。今となっては私の中で真由美先輩はひとつの目標くらいになっていた。
リアリティのある主人公の現状、時間を経た上での心の落ち着きが絶妙に感じ取れる良文だと思います。
>「恋よ。好きな男の子がいたんでしょう? 羨ましいわ」
過去の話なので、「羨ましい」は変です。
「羨ましかった」ならわかりますが、現時点でどうなのかはわからないので、私なら
「羨ましい」を丸ごと省きます。後の台詞で意味は十分伝わるので。
>ああそうか、そういうことだったんだと私は気がついた。でも、全ては何もかもが遅すぎた。
うっ、ううーん。
作者的には「主人公自身も気付かない恋愛感情」を前半で描いて、この場面に繋げたかったものだと思いますが……残念ながら、その意図がかっちりはまって「なるほど!」という気持ちにはなっていません。
むしろ「あれで気付いてなかったの?」くらいな感じ。
だって最後辺り、「可愛い人、妬ましい人、素敵な人」だし、「お別れのハグ」だし、「きっとこんな人には一生出会うことはない」ですよ。総括してますやん。
ここの部分がなければ、まだわからなくもないんですが。
>あの日が最後のチャンスだったのに。
いや、ノーチャンスでしょ。先輩が異性愛者だったら。
ここは早い遅いの問題じゃないと思います。
>私は私自身に腹が立って仕方なかった。弾きながら、涙が後から後から流れてきた。ちくしょう、ショパンのばかやろう、私のばかやろう、みんな、みんな大嫌いだ!!
> 恋に気づけないなんて、私はなんて大馬鹿野郎なんだ!!!
百合感は皆無ですが、これはこれで嫌いじゃないですw
>渾身の怒りを込めた『革命のエチュード』の動画をアップすると、先輩から「すごくいいね、すごく怒ってる!」とコメントが来た。誰のせいで怒ってるんだ、と返そうとしたけれど私は「そうなんです、腹が立つことがあって!」と無難にコメントした。
むしろ、このノリを全面に押し出して書いた方が面白く読めた気がします。
こういうキャラ、嫌いじゃないので。
前半がウジウジキャラなら、ここだけサバサバ系ですね。
キャラに統一感がないのは、短編では致命的ではあるんですが。
>それで、何だか私の怒りはどこかに行ってしまった。きっとショパンがどこかに連れて行ってくれたんだ。私はそう思うことにして、清々しい気持ちで『春の歌』を奏でた。多分ピアノは辞めないだろう。ピアノを弾く度にあの美しい黒髪の少女に私は出会えるのだから。
締めの文章は悪くないですし、読後感もよいと思います。
この最後の二段落くらいのノリで全編書かれていたら、絶賛していたと思いますが、そうではなかったというか、ゴール前でエンジンかかった的な……
読後の、この何とも言えない微妙な気持ちについては、総評で考察してみます。
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