【04】快刀ディクショナリー(ノエルアリ) 総評
【04】快刀ディクショナリー(ノエルアリ)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885210666
⬜️全体の感想
・タイトルについて
>快刀ディクショナリー
覚えやすくていいと思います。
主人公の名前と世界観が融合していますし。
ここは文句なしです。
・サブタイトル
>【快刀乱麻】と【四面楚歌】のバディって、なに!?
中の下くらい。
なに!?と言われても、読者にもわかりません。
もっとスピード感があってもいいかな、とか。
私だったら、うーん。
[【四面楚歌】でも【快刀乱麻】!]とか。
……サブタイトルの「私ならこう書く」は、かなり寒いと判明しました。
まあ参考程度にしてください。
・あらすじについて
辞書の世界で日夜起きる事件を解決する探偵【快刀乱麻】と【四面楚歌】の二語句。
様々な語句や四字熟語が擬人化した辞書の世界で、〈明正辞書(めいせいじしょ)〉を作った男の謎に迫る。「あ~ん」の順番に生まれた語句たちの中では、「一」族と呼ばれる一大勢力が、権力の中枢にいた。アウトローな【快刀乱麻】と、不運体質の【四面楚歌】のバディによる、痛快探偵物語。
あらすじは読んだ後に見たんですが、「あ~ん」の順に生まれたんですね。物語的に重大な意味があるんでしょうか。明正辞書も出てますね。一話だとわかりませんでしたが重要アイテムぽい。
とりあえず、あらすじとしては過不足なく、問題なしです。
ノベルの背表紙に書かれてそうな感じです。
・文章について
ラノベなら十分な文章力だと思いました。
読んでいて文章的な突っ込みはルビ関係くらいで、基本はしっかりしていると思います。「起承転結」のような遊びも(キャラに言わせるのは反対ですが)、文章に慣れているからこそ出来ることですし。
「険相」「痞える」なんかは私も使わない言葉でしたし、よく知ってるなと感心しました。
では文章が上手いのかというと、素直に褒められないのも事実。
冒頭の説明から始まり、オリジナルの極みのような辞書世界にはとかく説明が付きまといます。それはそうです。下手すれば物理法則からして異なるかもしれない世界なんですから。
ここの説明部分は、ぶっちゃけ下手の部類で、適切な量も満たしていません。
ながら感想でも指摘はほとんど説明不足から来るもので、説明されている箇所も、幾つも解釈が成立するような曖昧な表現のため、かっちり世界を頭で再現して楽しむ、ということが最後まで出来ませんでした。
冒頭2000字くらいなら、説明なしの勢いだけで突っ走り、後からゆっくり説明していく手法も取れますが、一万字強を何度も読み込んで把握できないのは、エンタメとしては失格です。
この点に甘さが見られるため、難解な漢字や四字熟語がずらりと並んでも、どこか背伸びした文章に感じてしまうのです。
真の文章力というのものは、難しい言葉を使っているとかではなく、難解な設定や場面を誰もが読めるよう平易に直し、読者の疑問に先読みして答え、説明臭を消してエンタメに内包してしまう──という類のものだと私は認識しています。(実践はともかく)
その観点から改善点を指摘していくと、
>説明をわかりやすく、読者に寄り添って行う
これは言うまでもなく。
説明ばかりが続いては読者が飽きるので、キャラ同士の会話に混ぜたり、話題に添えたりしましょう。この話では冒頭以降はほとんど説明がなく、キャラの語る世界やルールも主観混じりで偏って見えるため、非常にアンバランスです。
もちろん一話目で世界の全てを説明しろとは言いません。
基本中の基本編、大前提の世界観やルール、一話目に登場する内容に触れる程度で十分です。そこさえ満たし、かつ話が面白ければ、読者は応用編も知りたがります。つまり二話目以降も読んでくれるのです。
具体的にはながら感想で書いた〈語句〉の定義や〈四字熟語〉〈意味〉、可能なこと可能でないこと……ちょっと拾いきれないほどありますね。
長編なので今さら無理とは思いますが、設定の方をもっと単純化する方が楽かもしれません。例えば辞書世界を諦めて、〈四字熟語〉の活躍にテーマを絞るとか。
>文章を飾り過ぎない
まあ、ここは正直、そこまでひどくないと思っています。もっと鼻につく文章の人を見たこともありますし、熟語についても減らせというほどの量でもないですし。四字熟語は今作では使って当然ですし。
ただ、念のための注意と言うか、意識喚起を。
難しいことを書く時は、文章は可能な限り簡単に抑えるべきです。
読者は難解な内容を読み解くだけで精一杯で、比喩とか凝った言い回しが加わると、誤読を招きがちです。今作でもそれは指摘しました。
「謎かけ(内容)に謎かけ(文章)を重ねる」と想定外の失敗を招きます。私も経験あります。覚えておいてください。
逆に、誰でもわかるような場面では、凝った文章を書いても大丈夫。
ここら辺の引き算やバランス感覚が、エンタメ書きには肝要です。
・内容について
>オリジナリティについて
まずここは褒めておくべきでしょう。
【四字熟語】の擬人化だけなら他でも例がありそうなものですが、【辞書世界】という異世界を創造し、〈言葉〉という縛りでルールを設けて運用しているのは壮大な試みだと思います。
ちょっと並外れすぎて心配になる面もありますが、そのアイデアとセンスは誇られてよいかと。何より挑戦してこその創作です。その姿勢、大いに評価します。
>キャラについて
けして悪くはないんですが、いまいち共感できない。
ランマとソカ、どちらもそんな感じ。
ランマはアウトローということで前半破天荒なふるまいが目立つ半面、後半はエイに優しくしたり人生を語ったりで、二つの要素が一人のキャラの中にどう併存している
のか見えてきません。ラストの悪寄りの姿勢を見ると、エイへの優しさは仮初めのものかとさえ思えるくらいです。
続きを見ていないので一話のみの判断ですが、そういう意味でキャラに入れ込めず、「このキャラの活躍をもっと読みたい」とはなりませんでした。
ソカは常識人で消極的。ワトソンタイプですね。ランマのバディとしてはこれしかないというキャラクターです。個人的にはこういうタイプの方が親近感湧きます。
が、残念ながらソカにもあまりハマれず。
理由は二つあり、【四字熟語】の悩みがいまいち共有できないので、ソカに思い入れしづらいこと。
もう一つは、一話においては一つもいいところがなかったからです。一万字もあるのに。ひたすらランマに突っ込んでいただけ。
これがもし、ソカにも見せ場がもらえていたり、ランマとの意外な友情が見えるシーンがあったり、エイの物語にソカの悩みを重ねられたりしていれば、もっとソカを推せたと思います。
両方に言えることは、この一話は「キャラのいいところを見せる」点で失敗しているということです。ランマはまあいいです。カオスな性格ですし、今は底が見えなくても。でもソカを理解しきれず、応援できないのは致命的です。人柄のいいワトソンあってこそのホームズのように、ソカは何よりわかりやすく、読者に近い存在として描くべきだと思います。
・バトルについて
ながら感想の途中で「ファッションバトル」と書いたので説明を。
ファッションバトルは私の造語です。
意味は、「バトルをやってる風シーン」「バトル風味な展開」くらいでしょうか。
要するに、バトルと見せかけてバトル書かないやつです。
今作の【極悪非道】組とのバトルはまさにそれで、剣を作りだして鞘から抜く文字数の方が、実際にバトルしてる描写より多い始末です(人質を取られた後はバトルではないので)。「【承】タイム」が聞いて呆れます。
先を読んでないのでわかりませんが、目次を見る限りバトル展開は続くようです。
でも一話だけ見れば、バトル好きが幻滅するに十分。ここだけは猛省を促します。
「カッコつけのためにバトル風場面を入れる」ような愚行は止めましょう。
>ストーリーについて
主にエイの物語の顛末についてですが。
「一定評価はするが全肯定はできない」というのが私の素直な感想です。
前提である〈語句〉とか〈意味〉の定義が曖昧なままなので、そういう意味でも評価を決めづらい、私が前提を誤解している可能性もありますが、あえて読んだままの感想をここに書いていきます。
まず、状況をあらすじ的にざっくりまとめてみましょう。
飛燕城でオウショウと会話したエイは、自身が【影】以外の文字を奪われたこと、本来の自分は【扇影衣香】だったことを知る。
一度バラされた【四字熟語】は、元には戻らない。
一度は絶望するエイだが、ランマに諭され、「【扇影衣香】の影」という自意識を見出し、人の姿を取り戻す。
──多分これで合ってると思うんですが、解釈がわかれるのは「【扇影衣香】の影」の部分かなと。
私はこれを「【影】一文字でも人格が宿り、〈語句〉足り得る」と解釈したので、当然その姿は【影】に準ずるもの以上にはならないと思っていましたが、カラーで本来の女性の姿を取り戻すなど「解釈違い」がそこかしこに見られて首を捻った次第。
私的には変化はしても、「【扇影衣香】の影」として、より女性的な影の形をとるくらいが正解だと思うわけです。カラーな影とかおかしいだろうと。【扇影衣香】に戻ったわけじゃないんですから。
明らかに解釈違いを感じるのは、ランマのこの台詞ですね。
>「なーに言ってやがる、オウショウ。てめーがバラした【扇影衣香】と、ここにいる【影】、一体何が違うってんだよ?」
いや、全然違うはずです。だって〈意味〉は戻っていないんですから。
これで何も違わないなら、あれだけソカが惜しんでいた〈意味〉とは一体……てなりませんか?
〈意味〉を失い、記憶を失っても、まだ生きていける。
「喪失を乗り越える」というアピールを徹底した方が、よりエイのテーマに沿うと私は思うのです。(テーマでなかったらお笑いですが)
一話に限ってストーリーを見た限り、感想的にはこんな感じですね。
他の要素は長編の伏線の可能性もあり、良しあしは私には言えません。
テーマを意識している、あるいは正解を掴みかけているのは伝わります。
ただ、ランマやオウショウの反応や台詞は、そのテーマに反するものが複数見られ、自分が読み取ったはずのテーマに自信がなくなる感じ。
「一定評価はするが全肯定はできない」のは、それが理由です。
ノエルアリさんはどういうテーマを意図してこの話を書かれたのか。
一度、改めて伺いたいところです。
・アドバイス回答について
>特に意見が聞きたい部分
>「四字熟語が擬人化した辞書の世界で起こる事件を、【快刀乱麻】と【四面楚歌】の二語句の探偵が解決するミステリー作品です。好き嫌いがはっきり別れる作品だと思いますが、初見でとっつきにくいかどうか知りたいです」
キャラ小説として雰囲気を楽しむだけなら、これでいいと思います。
真面目に読み込むとなると、説明下手、説明不足のため、とっつきにくいと感じますかね。キャラもがっつり追うとなると、矛盾点が気になります。
>具体的なアドバイスが欲しいか
>「作品をより分かりやすくするためにも、アドバイスが頂けましたら有難いです」
作品をわかりやすくするアイデアを考えたので、幾つか。
>【四字熟語】の登場場面で、辞書的な解説を出す。
例えばこんな感じ。
────────────────
[キョーハイと呼ばれた大男、【狂悖暴戻】の後ろから、弟である【暴戻恣睢】がソカの腕を握った。
■狂悖暴戻(きょうはいぼうれい):
狂っているように暴力的で、道理に反していること。
「狂悖」は良心を失って、道理に反すること。
「暴戻」は暴力的で道理に反していること。
■暴戻恣睢(ぼうれいしき):
好き勝手に振る舞い、乱暴で残忍な様子。
「暴戻」は乱暴で人としての道理から外れていること。
「恣」はわがままであること。
「睢」は怒ってにらみつけるいこと。または、好き放題に振る舞うこと。
「僕に触るな!」と、ソカがその手を振り払う。
────────────────
キャラが毎回台詞で説明するより、簡潔でわかりやすい気がします。
会話のテンポもキープできますし。
>【四字熟語】の能力:
自身の冠する四字熟語から〈漢字〉を選んで具現化し、その言葉の〈意味〉を能力として用いる。
例えばランマが刀を発現する場合は「刀」。自身を加速させる「快」。「快刀」なら高速剣。「麻」はロープ。「乱麻」なら乱れたロープが相手を絡め取る──という具合。
【四字熟語】の能力がわかりやすく、想像しやすい。立体的な能力バトルが可能。
>〈漢字〉の抽出
【四字熟語】以外の〈言葉〉から、その名を構成する漢字を抜き、〈意味〉を行使する。自身の〈漢字〉と組み合わせ、〈熟語〉にすることも可能。
世界設定が単なる背景でなく、「全てが〈言葉〉である」ことのアピールも兼ねる。
──ここら辺、もしかすると話の先ですでに使われてるかもですが。
⬜️総評
・オリジナリティは高評価。
・文章力はよし。課題は説明文。
・物語は一定評価はするが、全肯定はできない。
光るところはありつつも、様々な問題で曇り気味……そんな作品だと感じました。
とはいえ長編なので、先に進むにつれて曇りが晴れて来るかもしれません。
【辞書世界】を体験されたい方は、是非ご一読ください。
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