【26】夏、君を待つ(なべねこ) 総評


【26】夏、君を待つ(なべねこ)

https://kakuyomu.jp/works/16817330664014785881



⬜️全体の感想


・タイトルについて

内容に即していますし、雰囲気もあります。

悪くないタイトルだと思います。



・文章について

少なくとも今作においては文章的な破綻は見られません。

初心者としては十分、綺麗に書けていると思いました。


課題をあげるとすれば、描写の少なさですね。

二人の心理、場面ごとの説明、二人の交流具合、関係の移り変わりなど、欲しい描写はたくさんありましたが、全てスルーされています。

短編で多くを語る必要はないですが、読者の想像が捗るよう、最低限の場面やヒント、フックは置いておくべきでしょう。


ここは内容と被りますが、文章力不足による自信のなさの表れも一因と見ましたが、どうでしょう?

難しい描写を放棄することは、より面白くなる要素を捨てることを意味します。「問題ないが薄味」という感想は、そこから来ているものだと思います。


「書けるものを書く」のはけして間違っていませんし、私だって似たようなものです。

ですが、初心者の間は挑戦も大事です。チャレンジなくして成長なし。失敗こそ経験値の稼ぎ時です。大胆に書きたいものにチャレンジしてみてはどうでしょう。小さくまとまるのは、書き慣れてからで十分だと思います。



・内容について

ひたすらに「薄味」ですね。

いい話ではありますが、それだけという感じ。

話の起伏がなく、二人の関係に説得力がないので、感動に至りません。「よくある話」以前の問題です。


以下に、感じた問題点を並べてみます。



>来栖の設定

物怖じせず人懐こいキャラは、精霊ぽくてよかったと思います。


ただ、精霊という設定の必要性が、現時点では皆無です。

目や髪が特殊という描写も、最初に出ただけで本筋には無関係でしたし、他の設定や描写はゼロ。何のためについた設定だったかわかりません。

来栖が北欧の観光客でも問題ないですし、はっきり言って今作には不要な要素です。


ですが、読者としては精霊という設定が出た時点で期待が高まります。

「人ならぬ者との出会いから始まるひと夏の思い出」って出だしなら、不思議で奇妙な交流のお話が読めると思うじゃないですか!


でも、そういう部分が一切なく、ひたすら観光して終わりなのが今作です。なまじ精霊にして期待させたので、裏切られた気分になります。「期待外れだったな」となるわけです。


私なら、精霊という部分を最大限生かすと思います。

たとえば掌サイズだとか、雪の精霊で暑すぎて死にそうとか。

それが原因で起こるトラブルを通じて、玲央と来栖が近づいていく展開を描いた上で、最後の場面にもっていくかと。


これにしても至ってスタンダートな手法ですが、今作はそれ未満ですからね。

最低限、この程度の話を盛り上げる工夫が必要です。


>玲央の設定

初対面の際の情報では、

「頭がいい」「本好き」「人間嫌い」「不登校」と、「ハンサムな引きこもり」みたいなイメージです。


まず、こういうキャラが来栖に一週間もつきあうとは到底思えません。私ならまず玲央に断らせ、来栖の話術なり魅力で否応なく丸め込まれる……という展開にすると思います。例えば「ごはん奢るから」とか。スカしてても食欲には勝てませんから高校生w


そういう感情の動きの説明がないので、玲央はなんとなく案内させられ、なんとなく仲良くなり、そして何故か最後には別れたくないとか言い出す、謎のキャラになってしまっています。


この点の改善としては、まず心境の変化を場面を通して描写すること。「だんだん仲良くなった」と書かれても、読者の感想は「ふ-ん」です。何があって仲良くなったのか、どんなやりとりがあったのか。そこをこそ読者は読みたいわけです。全てを書く必要はありませんが、要所要所、気持ちに変化が出るシーンは追加すべきですね。


もう一つは、玲央の闇について。

1話で軽く「闇があるっぽい」と触れられていましたが、ここまで仲良くなる展開なら、この闇もしっかり設定し、物語に絡めるべきでした。


例えば、人嫌いで不登校になった直接の理由。

来栖と打ち解けた段階で玲央がそのことを打ち明け、来栖がいつもの口ぶりと精霊らしい視点で、他愛なく悩みを解いてしまう……という場面があれば、あの心酔ぶりも多少共感できるようになるかと。


「最初は嫌々だったが、次第に仲良くなった」の描写は必須です。特別にシーンを増やさなくても、例えば「四日目までは来栖の希望だったが、五日目からは玲央が場所を提案してきた」という風に書けば、玲央の打ち解けぶりを間接的に表現できます。


そういえば、玲央はいつのまにか「さん」をつけていますが、これも気持ちの変化するシーンの後なら、より効果的でしょうね。


>物語のボリューム不足

今作のストーリーの主旨は「精霊と人嫌いな高校生の出会いと別れ」ですが、これだけではボリューム不足です。

普通は他の面白い要素でメインを組み、サブとしてこの要素を併せる感じです。そこが足りていないので薄味なわけです。言っても観光案内しかしてませんからね。


「私ならこう書く」の一例として、一話目を読んだ時点での、私の想像したあらすじ予想を書いてみましょうか。


「来栖は北欧出身の雪の精霊。

 クリスマスには多忙を極めるサンタを手伝い、雪となって世界中に舞い降りてプレゼントを配るが、玲央の幼少時、プレゼントを配り忘れていた。

 最近になってミスが発覚し、その後始末のために来日、来栖に接近している。

 玲央はサンタが来なかったことが遠因で人嫌いになっており、来栖は責任を感じるとともに、彼が子供(18歳未満)のうちに、代わりのプレゼントを渡せないものか、そして彼が今も「よい子供」なのかどうか、交流を通して調べ始めるが……」


という感じの前提で二人の交流を深め、起承転結の転でその事実を明かし、二人の別れの場面と「彼がプレゼントに望むのは何か」を結にもってきて、ハッピーエンドにまとめる──てな感じで妄想しましたね。

こうなると完全に別の小説ですが、これくらいのボリュームがあった上での「出会いと別れ」であるべきだと思います。



・アドバイス回答について


>・特に意見が欲しい部分。

> 推敲できる部分があれば教えていただきたいです。

> キャラクターの魅力があるか、ないならその出し方についてのアドバイスをいただきたいです。


これは上記した通りですね。

来栖のキャラはいいと思いますが、設定が無意味。 

玲央は気持ちが描写不足で、設定も活かされていません。

気持ちの変化をしっかり描き、メリハリをつけた方が盛り上がると思います。



⬜️総評

・いい話ではあるが、薄味。起伏に乏しい。

・初心者にしては読みやすい。課題は描写。特に感情表現。

・読者を呼び込む工夫を増やすべき。もっとカロリー高めで。


端的に言えば、「話が小さすぎて感動できない」というところ。

ボリュームがないので、話に起伏が生まれていません。

謎や秘められた真実。言えない過去。告白などなど。

読者の興味を惹く要素は、この世に幾らでも転がっています。

一つでも二つでも取り込む努力をするのが、成長の近道だと思います。手を出し過ぎるとヤケドしますが、まあそれも経験です。


小さくまとまらず、何でも挑戦して書いてみてください。

自分に何が書けて何が無理なのか。

その限界を知ってからが、本当の物書き人生のスタートです。


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