【23】雌雄無色(冬場蚕) 総評
【23】雌雄無色(冬場蚕)
https://kakuyomu.jp/works/16817330659348681604
⬜️全体の感想
・タイトルについて
意味がわかるような、わからんような感じ。
加えて字面が地味で印象薄く、タイトルとしては褒められません。
何より、このタイトルには真の結末は示唆されていません。あとから見て「なるほど」と腑に落ちるようなタイトルがいいのでは。
私の提案としては、「シリウス」をタイトルに絡めてみてはどうでしょうか。
シリウスは冬の大三角の一角で、ギリシャ語で「焼き焦がすもの」「光り輝くもの」を語源とする一等星。おおいぬ座の星で、英語では別名Dog star、中国名は天狼。
この話の象徴として、ぴったりだと思います。
・文章について
安定感があり、書き慣れておられる印象です。
指摘が必要な個所はほぼありませんでした。誤字脱字のチェックも行き届いています。
会話や文章の繋ぎにもおかしな点は見られず、安心して読めました。
少なくともこういった作風で書く限り、文章面でアドバイスすることは私からはないと思います。
・内容について
うーん。評価が非常に難しい感じですね。
言葉を飾らず率直に言わせてもらえれば、今作を読み終えて最初に出た感想は「胸糞が悪い」でした。
鈴子以外の世界から目を背け、恋欲から暴走する主人公。
差別よくないといいながらナチュラルに差別し、脅迫までかます詩織。
ぶっちゃけどちらもクズに感じられ、まるで共感できません。
二人が最後にやりあう展開も、糞みそなやりとり以外の何物でもなく、詩織がやり込められて胸がすくこともなければ、主人公に同情するでもなく、ひたすら空虚でした。
ただ、この胸糞悪さこそが、作者の狙いだとしたら、それは成功してると言えるでしょう。私の個人的な好みではありませんが、そういう方向の物語や終わり方が好きという向きもあるかもしれません。ですので、もしそれが主旨だという話であれば、私の評価はここまでとなります。私は不条理系や悪趣味系の小説の造詣は深くありませんので。
そうではなく、もし何かしらのテーマやエンタメ性があり、それを伝えることに失敗しているという前提であれば、私なりにアドバイスも出来るかと思います。
以下、思いついた問題点を書き出してみましょう。
>テーマが見えない
この物語の感想が空疎なのは、「作者が何を伝えたいのか」が不明瞭なことです。
私は一読目、百合物というタグを受けて、真面目に主人公の気持ちに寄り添い、出来るだけ気持ちを汲もうとしながら物語を読み続けました。話はどんどん重くなり、主人公は報われること話は進み続けましたが、世に認められない恋をした主人公がその果てに何を見出すのか、或いはどんな人生を選ぶことになるのか、つまり「何かしら結論が出ること」を期待して読んできました。
ですが、この話の山は「恋人が女性ではなく犬だったこと」で、ラストも詩織に八つ当たりするだけでした。
「恋人が犬」という真実それ自体は、なかなか面白いです。
精査しましたが致命的なミスもなく、見事に隠しきっています。
(設定的にどうなの?とは思いましたが。後述)
ですがその事実は、百合小説だと思って読んできた読者にすれば裏切られたようなものであり、私のように何かしらのテーマを期待していた者にも、「確かに意外だけど、それ意味ある?」という受け取り方でした。
私も最近書いた小説で、似たような酷評を山ほどもらったので書いてて胸が痛いのですが「、どんなに意外性のある展開でも、読者の期待に応えない限り、何の意味もない」のです。
驚きはあっても感動はない、と書けばわかりやすいでしょうか。
もしこれが、「犬が好き」という事実によって、別の側面、別のテーマが立ち現れて、ここまでの彼女の主張が一気に別の色を帯びて輝き始める……という感じならいいんです。むしろ絶賛ものです。
でも残念ながら、今作はそうではありません。
三度ばかり読み返したものの、彼女の主張はいわゆる差別などの表層的な意見に過ぎず、詩織にしても単なる俗物と言うだけで、結論らしい結論も伝わってきませんでした。
物語が深まらなかった最大の原因は、鈴子の正体を隠したことにあると思います。
彼女が犬であることを隠すため、物語の筋書きや描写は、大幅に制限されます。それ故、突き詰めた展開が選べなかったのではないかと。
なまじ一人称語りで話が重そうなので、そっち方向のテーマを追求するものだと思っていただけに、せっかくのどんでん返しも肩透かしの印象しか与えなかったのだと。
もし「鈴子の正体」というどんでん返しで読者を驚かせることを主体にするなら、ショートショートとしてごく短く、淡々と物語を進めることを私なら選んだと思います。その方がオチの切れ味が増すので。
逆に性的少数者への差別をテーマとするなら、オチを隠し通すことより物語を深める方に舵を切った構成にした方が間違いなく面白くなったはず。勘のいい読者なら「ああ、そういうことか」と悟られるのを前提に、きっちりと主人公の愛憎と世界の歪みを書き切るべきだと思います。どんでん返しに執着しなければ、そこまで持っていけそうなものです。
>詩織について
現時点でも「性的少数者でも趣味が違えば相互理解は難しい」的なテーマは見いだせなくはないのですが、詩織のキャラが屑過ぎてまったく伝わっていません。どんなテーマを扱うにせよ、詩織のキャラ改善は必須だと考えます。
本来、詩織は「自分が善人だと思ってる差別主義者」という立ち位置で、悪意がないのが最大の悪というスタンスを取るべきなのは作者もわかっておられそうなものですが、脅迫に始まり欲望丸出しの後半の展開で、その善意すら危ぶまれ、テーマを担えなくなっています。ここは初心に立ち戻り、詩織を「普通の人」に戻すべきです。誰にでもある本能的な忌避、悪感情、建前の正義などを体現させてこそ、主人公と対比させられるのですから。
>鈴子の設定について
鈴子の描写自体はいかにも少女のように書かれており、巧みだと思います。特に「彼女のお母さん」と説明する辺り。ペットでも「お母さん」と呼ぶことはままあるので、なるほどと感心しました。
フリルの服などもうまく偽装に使えていると思います。
反面、主人公が鈴子を好きという前提から、どうやれば「女性が好き」という噂が流れるのかが不可解です。
主人公は当然ですが、自分を「女性が好き」とは言わないでしょう。おそらく「鈴子が好き」と言ったのを、曲解されたのだと想像できます。ですが、その誤解を解くのは簡単で、「鈴子は犬」と本当のことを言えばいいだけです。「犬が好き」には二種類あるわけで、普通は単なる犬好きとしか思わないでしょう。主人公がどうしても真実を言いたいとかでない限り、言い訳にはまったく困らないはずなんです。
もう一つは、鈴子の正体をクラスの誰もついぞ調べなかったこと。
中学ということは、ごく近い地域の住人のはず。何年も主人公をいじめ続ける連中が、相手について追及しないとは考えにくいです。何より、その相手が学校に来ていない時点で、「何かおかしい」と思うのが普通で。噂の元になった以上、名前などある程度の情報が知れれば、誰かしら正体を突き止めそうなものでしょう。
この話が本当に百合の話だったなら、「女性が好き」という話がたまたま漏れてこんな結果になり、それ故に鈴子の存在自体は知られなかったという展開は全然あり得ます。ですが前提がそうでないため、犬を抜いて「女性が好き」という噂だけが広まるという、かなり無理目な設定が必須になってしまった感じ。
いっそ主人公に嫉妬したクラスメイトが、根も葉もない悪評を垂れ流したくらいの方がありそうです。それにしたって、彼女が一切反論しないのが謎過ぎますが……
「百合というだけでクラス全員に苛め抜かれる」という、正直ファンタジー的な設定とあいまって、物語からリアリティが欠落している一因ではと思います。
・アドバイス回答について
>1)特に意見が欲しい部分
>面白いと思ったかどうか、価値があると思ったかどうかを知りたいです。
はっきり言って、私は面白いとは思いませんでした。
理由は前述のとおりです。
価値についても、現時点では薄いと思います。
どんでん返しには一定の評価をつけますが、テーマに寄与していないので。
ですが、指摘した部分を改善し、テーマを見つめ直した上でラストを変更すれば、面白くなりそうですし、直す価値がないとはまったく思いません。料理の方法をミスってるというだけの話だと考えますね。
>2)「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
> ぜひいただきたいです。
すでに幾つか改善案を書いていますが、まとめると。
・どんでん返しを主軸にするなら3000文字以下のショートに。
淡々と物語を運び、犬のオチで切って落とす。
・差別のテーマに正面から向かうなら、どんでん返しに固執しない。
・詩織はあくまで凡人、「善意ある差別者」を徹底する。
・主人公も筋道だった思考を持たせ、不幸の中で成長させる。
達観でも諦観でもいい。壊れてもよい。ここはテーマ次第。
・主人公がそこに至る経緯を克明に描く。
母親が鈴子の死を伝えなかった部分を、もっと抉り込む。
母親と決裂する、「気持ち悪い」呼ばわりされるなど。
・そこで主人公が得た「何か」を、詩織に披露する展開で締める。
ざっくりとですが、私が書くとしたらこんな感じにすると思います。
何かしら参考になれば幸いです。
⬜️総評
・どんでん返しはよいが、胸糞オチは変わらず。
・文章はよい。安定して読める。
・テーマと構成がちぐはぐで、互いを殺している。
まずは「何を伝えたいのか」を見直してみては如何でしょうか。
もし私が見落としていたと思われたなら、「こういう意図で書いた」とおっしゃってください。もう一度、その認識で読み直しますから。
その上で、「ここがこうだからそう感じられなかった」くらいは書けるかと思います。
私も苛められた経験があります。
なので共感できるならしたいところです。
例え主人公が壊れてしまっても「そうもなるよな」と納得できるなら、物語としては成功してるわけで。
この感想を奇貨として、この作品が蘇ることを祈ります。
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