【23】雌雄無色(冬場蚕) 読みながら感想
【23】雌雄無色(冬場蚕)
https://kakuyomu.jp/works/16817330659348681604
予告した月曜日をちょっと過ぎました。申し訳ない。
二十三回目は冬場蚕さんの作品、「雌雄無色」です。
作品ジャンルは、「百合」。
……百合率、なんか高くないですかね?
世間で流行ってるんですか?
それともコンテストとかの都合?
まあ百合にもソフトからハードまで色々ありますが、今作はガチ寄りの作風だと見ました。
問題は、結構大きなどんでん返しがあったこと。
なので、本当に作品を楽しみたければ、この感想を読む前に本編を読んでおくことをお勧めします。出来るだけ隠しましたが、やはりネタバレに触れずに感想は書けませんからね。
冬場蚕さんのアンケート回答は、こちらになります。
梶野さん、初めまして。
冬場蚕と申します。
忌憚ないご意見をいただきたいです。
1)特に意見が欲しい部分
面白いと思ったかどうか、価値があると思ったかどうかを知りたいです。
2)「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
ぜひいただきたいです。
こういった企画に参加するのが初めてで、不手際などありましたら申し訳ありません。
よろしくお願いいたします。
……ふむふむ。まあいつも通りでよさそうですね。
価値のなんたるかなんて、梶野が決めることではありません。
梶野が認めなくても世間で売れてる作品なんて五万とあります。誰に何を言われても自分を信じる。これもまた大事なことです。独善にハマると底なし沼ですけど。
重要なのは、何を価値とするのか、自分の中ではっきりしておくことではないでしょうか。
それではじっくり感想、始めたいと思います。
⬜️読みながら感想
二読後の感想を、読みながら書きます。
>私が誰を好きでも、誰にも関係がないはずなのに、誰もが私と鈴子の関係を嘲笑った。
それを差別と知ったのは中学生のとき。
この一文は改行した方が、前後の印象が強まりそう。
真実から振り返ると、「私と鈴子の関係」という表現は不適切にも思われます。誰も鈴子のことを知らないのですから。
噂になるとすれば主人公が自分から漏らすことくらいですが、だとすれば何故「女性が好き」という誤解を解かなかったのかという話になります。この部分は上手い説明が必要でしょう。例えば「私は噂に抗おうとしたが、何を言っても笑われる空気なので諦めた」とか。
>「差別じゃないよ。これは区別だから。異常者と関わりたくないのは普通でしょ」
今どき、性趣味が理由でここまで大規模ないじめになるとはちょっと思えませんが、まあそういう地域もあるかもしれません。私なら他にも何かしらいじめられる理由をつけて補強しそう。態度とか家柄とか。
>善意の皮を被った自覚のない悪意に、いっそ笑えてしまった。
なかなか辛辣でいいと思います。
この友人の態度や台詞は、いかにもいそうで悪くないです。
テンプレ通りではありますが。
>私はその手を振り払い、残りの学校生活もいじめられて過ごす覚悟を決めた。
そこまでして登校に固執する理由がいまいちわかりかねますが、まあ誇り高い性格なんでしょうね。
>好きなところはいくらでも出てくるが、どれだけ出しても不十分だし、不適切な気がした。無口なところも、歯並びがいいところも、名前が鈴子ということすら愛していたけれど。
悪文寄り。
私なら「好きなところはいくらでも言えるが、どれだけ並べても足りない気がした。無口なところも、歯並びがいいところも、鈴子という名前も愛していた。」
>同じくらい違うベクトルで鈴子のことを好きな私にも良くしてくれた。
「違うベクトルで同じくらい鈴子のことを好きな」の方が読みやすいはず。
>だから、私は私の愛のため、どれだけつらくたって、中学校を一度も休むことなく卒業した。
流石にこの感覚は理解できません。学校と鈴子は全く無関係では?
>私はあえて中学の同級生が誰も選べないような、偏差値の高い高校に進学した。
「あえて」の意味がわかりません。
普通は可能な限り偏差値の高い学校を目指すものです。ランクを下げたとかなら「あえて」もわかりますが。
>頭のいい人なら偏見もないだろうという偏見もあった。
皮肉が効いていて、いい感じ。
>私はいずれ県外に出る。具体的には大学に進学するタイミングだ。
進学しなければいいのでは?
鈴子のそばにいる以外、他にやりたいことがあるようにも見えませんし。
>当然、そこに鈴子を連れて行くことはできない。
どちらの意味から見ても、常軌を逸した発想です。
まあ主人公が壊れかけている描写としてなら、一応納得はできます。
>温厚な鈴子の母も、このときばかりは渋い顔をした。いや、誤魔化すのはやめよう。あのとき、あの人は、はっきりと嫌な顔をしていた。
どっちの意味でもそりゃそうだとしか。
私が母親なら合鍵渡したのを後悔するレベル。
>夫に先立たれた私には、鈴子しかいないの。
いや、それ以前の問題でしょう。
>それにもうあの子も長くないわ。
一読目は「親の言うことか!」と思いましたが、飼い犬ならまあわかります。逆に上手いかも。
ただ、主人公がこの発言を完全にスルーしてるのはおかしいです。進学で別れる以前の大問題のはずですが。話の帳尻を合わせるなら、削るべき発言でしょう。
>私と鈴子の関係を嘲笑い、蔑み、見下してきた世界に、持て余すほどの怒りが湧いた
ここも一読目は共感できたんですが、噂が誤解だとわかると腑に落ちません。作られた怒りのように思えます。
>もし鈴子と私が、誰にでも理解される関係だったらきっと、事故に遭ったときすぐに電話をもらえていた。
それはどうでしょう。
ぶっちゃけ母親の配慮にも一理あるので、あくまで母親個人の感覚の問題なだけと思えます。
相手が男性だったとしても連絡をためらいそう。急死ならなおのことです。合鍵を渡してることから見ても、二人は家族同然のつきあいなんですから。
「普通の恋人同士なら連絡がもらえた」と確信させるためには、このケースでは難しい気がします。
「主人公は母親と親しくはなく、鈴子の死を遅れて知らされ激しく憤るが、逆に母親に引かれてしまう」ような展開でないと。
>そもそも鈴子への愛情を誰かに共有できたはずだし、お母さんだってもっと私の気持ちを重く受け止めてくれたはずだ。
いやあ、母親は最大の理解者に思えますよ。
何年も鈴子のために毎日通い詰める隣人に合鍵渡しちゃうんですから、相当な深さの理解だと。普通なら不審者扱いでしょ、こんな人。
>身を引き裂かれるような悲しみが、脳が溶けそうな怒りが、血の吹き出しそうな悔しさが、涙を作り続けた。
文章自体はとてもいいと思います。
ただ、怒りの出どころがふわふわしてて、よくわかりません。ここまで激しい怒りなら方向がはっきりしていそうなものですが、そうでもないし。いじめはこの件は無関係ですし、母親もここまで恨まれることしてませんしね。
>構内ですれ違う誰も彼もが刹那的な楽しみに身をやつし、過去の挫折も苦悩も、栄光でさえ擲っている。
擲つ(なげうつ)はルビが欲しいところ。
Fランクならともかく、そこそこ上の大学なら、こんなことはないと思いますがねえ。もちろんこういう人がいるのは間違いないですが、全てではないはず。周囲に集まるのはやはり類友が多いものです。
ま、主人公の主観であると言えばそれまでですが、主人公の人生の薄さが気になります。
>いつまでも鈴子の死を心にぶら下げて規則的な苦しみに悶え、
「規則的」より「周期的」の方が。
>周りと合わせて人生を謳歌することもできず、
平穏だった高校でもそんな話はなかったので、元々そんな望みがあったようには見えません。
>かと言って首をくくれるほどの情熱もなく、私はいつでも中途半端に死んでいた。
そもそも、そこまでして大学に通う意味が、この主人公には感じられないというか。このメンタル状態で通学する必要があるのかとすら思えます。
>男子からはAVを見させられ、逐一感想を聞かれた。
普通に問題行動だと思いますが。
クラスの女子がこれに全スルーとか、あります?
私は男性なので女性の反応はわかりかねますが、男に関して言えば百合への反応は理解かスルーですよ。いじめに加担する展開が想像できません。他の理由があるとしか。
>「大丈夫? 具合悪いなら一回でよっか」
>そう言って私の手を引いた。
思い出させる展開としては順当。
>「私は、あなたの秘密を知ってる。だからそんな邪険にしないで」
いきなりのクズ発言でびっくりします。
なんなんだこのキャラ。
>そして、残虐にする。
ここは改行せず、前文から続けたほうが流れが綺麗だと思います。
>「改めて、あのときは本当にごめんね。私ずっと後悔してたんだ。あのとき私が、ちゃんと分かっていればいじめなんて起こらなかったかもしれないのに……。祥子ちゃん、まだ女の子が好きなんだよね。まだって言い方も失礼か。ごめん。鈴子ちゃんだっけ? 付き合ってたんだよね。まだ続いてるの?」
超早口で言ってそう。
クズ発言がなければ、まだしも耳も貸せるんですが。
>「そうだね。死別だけど」
普通に考えれば、こんな相手に絶対言いたくない話だと思いますが、まあ騙すための撒き餌なんでしょうかね。
>そんな、足とか胸とか出しちゃってさ
そういうのを「夏らしい、涼やかな格好」とは言わない気がします。足はともかく、胸は。
>「なんで目逸らしちゃうの? 詩織ちゃんかわいいのに」
この先の口説き場面は、悪趣味過ぎて辟易。
>「そんな悲しいこと、もうこれからは私が言わせないから。私だけはあなたを分かってあげられるから」
ちょっとやられ役が鼻につきすぎますね。
>私はあとでしてあげようと思って、こう言った。
ここは流石にやりすぎだと思います。
主人公は詩織に一発かます気しかないので、内心でこんなことを考えるとは思えません。ましてや趣味でもないんですから。
>唇を離し、私はささやくように続けた。
やっちゃうんですか。大学のカフェで。
「過去をバラされたらヤバい」と思ってついてきたのに。そんな嗜好もないのに。
果てしなく理解不能で、共感が一切なくなりました。
>「そっか、言ってなかったっけ。鈴子はゴールデンレトリバーの名前だよ」
一読目は完全に騙されました。
その点は褒められるんですが、どうもカタルシスがないというか。話の本質から遠ざかったというか。
>しまった、という顔したが、それ以上に彼女の中で嫌悪感が勝ったようだ。口を洗い流すように、ジュースを一気に飲み干した。
えっ、ペットとキスする人、結構いません?
まあ衛生上よろしくないとは思いますが、ここまで嫌悪感が出ますかねえ。眼の前で犬とキスした後とかならまだしも。
それより、普通はまず「犬が好き」の程度について訊ねそうなものです。頭から信じられる話でもないでしょうから。
>言いかけたのを、キスして遮った。詩織は私を突き飛ばすようにして離れた。
主人公がキス連発するのも謎過ぎますが、この状況でキスされてしまう相手も大概です。普通は距離を置きます。
ここまでの嫌悪感を引き出したいなら、「犬と性的関係にある」ところまで振り切った方が、納得できると思います。
>女同士の恋愛が普通だと思う人がいるし、犬との恋愛が普通だと思う人もいるの。
犬との恋愛というか、犬(メス)との恋愛、なんですよね? でないと「女の子」と連呼していたこととの整合性が取れないので。
>詩織は震える手でおしぼりを受け取ると、グロスが取れるほど執拗に唇を拭った。
ここはなかなかいい描写。
>「……もう二度と話しかけてこないで。金輪際。一生」
啖呵はかっこいいですが、私には「大学中に犬好きの噂が広まる」未来しか見えません。こんなことして大丈夫?
ううーん。
読後感はなかなかに最悪ですね。
狙ってこれだと言うなら何も言えないんですが……ううーん。
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