【22】深夜放毒(ゆげ) 総評
【22】深夜放毒(ゆげ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662283997497
⬜️全体の感想
・タイトルについて
中国語で「飯テロ」くらいの意味ですね。
オリジナリティは抜群ですが、残念ながら今作にはそぐわないと感じました。どうしても「放毒」はキツいイメージが先に立ちます。
これが猥雑なコメディならベストマッチなんですけどね。
もっとゆったりした、味わい深いタイトルの方が合うのではないかと。
「西紅柿雞蛋麵」の方をタイトルに格上げすることを私は推します。夜に食べる手作りのラーメンが、テーマを内奥してる気がしますし。
「深夜放毒」は、一話目のタイトルにどうでしょう?
別に二話目のタイトルを考える必要はありますけど。
・文章について
前回同様、派手でも個性的でもない、でも味のある文章ですね。
いかにもゆげさんらしく、懐かしい感じがします。
去年の参加作品と比べて、伏線の貼り方や仕込みが上達したように思います。
男の娘については、残念ながら先にタグを見てしまったので、リアルタイムの驚きは得られなかったんですが、分析する限り、問題なく隠せており、ヒントも過不足なかったかと。
特に両親との過去のくだりを、肝心の要素を抜いて語りながら、読者に違和感を与えない工夫は秀逸で、舌を巻きました。
文章に執着する人間にしかわからないかもですが、相当のこだわりがないとあんな文章は書けないはず。いや、大したものです。
繊細かつ大胆な主人公の感情表現も、ストレートに胸にくる感じで絶賛します。
不幸な半生と今の自由、まだ抜けない棘のような両親と実家の存在が、余すところなく描かれていました。まあここは内容にも被りますが、平易で味わい深い文章表現あってこそだと。この組み合わせは、なかなか強烈でしたw
細部は突っ込みましたが、例によって重箱の隅なので気になるところだけ見てもらえれば。
この上手い人への定番コメントを、ゆげさんに書いてる時点で、成長が窺えるというもの。感慨深いです。
・内容について
完成度の高い、感動的な物語だと思います。
正直、ここまでお見事な作品が出てくるとは思いませんでした。
ゆげさんの作風である、素朴さや素直さでヒューマンドラマを内包する作りは変わることなく、完成度を高めて来たのですから、誉める他にありません。
今回は特に、物語の設定におけるきめ細かな配慮、読者の望む情報の過不足ない、そして巧みな配置を高く評価します。前回突っ込んだ部分ですが、見事に克服してきた感があります。細部には穴もありましたが、ほぼほぼ問題ないレベルでした。
男の娘の主人公と心を病んで休職した兄との交流に、思い出の深夜ラーメンを合わせてくるのもいいセンスです。夜中にラーメンを食べたことのない人はまずいないでしょうが、あの独特の安心感、満足感は強い共感を呼べますし、この物語のテーマにもマッチしています。
台湾料理という変化をつけつつ、材料がなじみ深いので味を想像しやすく、身近に感じられるよう計算されてるのもお見事。まあ計算じゃないかもですが、だとしたらセンスだという話です。前作同様に食べ物の描写は的確で、グルメものとしても楽しく読めました。
性同一性障害、でいいんでしょうかね。
結構重いテーマではありますが、これをふんわりとかき卵のように包み込んだ、柔らかな語りが魅力的です。そして時々見え隠れするトマトの酸味。その苦みが、単なるハッピーエンドではない現実味を与え、物語を奥深くしていると感じました。
これをあらかじめ計算づくで書き上げられたなら、脱帽ものです。
細かなツッコミは「ながら感想」で終えてしまっているので、こちらで特筆すべき部分はまったくないくらいなんですが、あえて言うなら「男の娘」タグですかね。
前述した通り、タグを先に見てしまったせいで、仕込みを楽しめなかった面はあります。私ならタグを消してしまうと思いますが、「男の娘」の話をこそ読みたいという読者もおられるでしょうし、悩ましいところ。
まあ、これは二択の問題なので、ゆげさんが決められるべきことだとは思いますが。
・アドバイス回答について
>一話目にちょこちょこ疑問に思われる描写があるかと思います。掘り下げて突っ込まれるかもしれませんが、それが伏線として機能しているのか、それとも不自然に感じられるのか、梶野さんの感想を伺いたいです。
「男の娘」に関する部分ですよね。
先にタグを見てしまったので主観的ではないですが、客観的に読む限り、問題があるとは思いませんでした。むしろ見事に隠されているなと舌を巻いたくらいです。
まあ、ゆげさん的にどこでバレる想定かにもよりますが、梶野的には太鼓判を押せると言っておきましょう。
⬜️総評
・兄妹の傷ついた心に、夜のラーメンが効く。
・素朴だが巧みな文章力。伏線の隠し方も絶品。
・ハッピーエンドに収まらない現実味が味わい深い。
読んで心温まる、そしてそれだけではない作品でした。
完全復活を名乗るに相応しい出来栄えではないでしょうか。
絶賛します。
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