【22】深夜放毒(ゆげ) 読みながら感想


【22】深夜放毒(ゆげ)

https://kakuyomu.jp/works/16817330662283997497



二十二回目はゆげさんの作品、「深夜放毒」です。

まずはアンケート回答をご覧いただきましょう。



こんにちは。

企画お疲れ様です。


梶野さんの感想を読んだり、気になる作品にお邪魔したり、楽しく勉強させていただいています。

今回は参加は厳しそうだと思っていたのですが、盛り上がりを拝見してやはり自分もという気持ちになり、少しずつ書いておりました。

参加表明させていただきます。

(間に合ってよかったです)


・特に意見が聞きたい部分。


一話目にちょこちょこ疑問に思われる描写があるかと思います。掘り下げて突っ込まれるかもしれませんが、それが伏線として機能しているのか、それとも不自然に感じられるのか、梶野さんの感想を伺いたいです。


・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。


ぜひお願いしたいです。


よろしくお願いいたします。



ゆげさんは前回の「じっくり感想」の参加者で、それ以来何かとご縁が続いている関係です。

ですが、とある理由で(私も詳しくは知りませんが)カクヨムのアカウントを消し、休筆しておられました。最近、ようやくアカウントを復活され、リハビリ的にぼちぼちと書いておられる感じで、今回の企画も応援いただいたり、参加者の作品を読みに行かれてはいるものの、ご自身の参加はまだちょっと……という感じでした。


ですが私は、ゆげさんがいずれ参加されると、どこかで期待していました。

確信というほどではないですが、奇妙な予感があったので。

なので個人的には、満を持してのご登場です。

俳句とかを除けば、久しぶりに書かれた小説のはずです。


ですが……先に謝っておきます。

ようやく復活されたゆげさんが相手でも、私は優しい言葉なんてかけられません。

感想は正直に書きますし、問題を感じれば突っ込まざるを得ない。

この習性は性分なので変えられません。たとえ相手が余命わずかでも、正直な感想しか言えないと思います。


とはいえ、ゆげさんは、そんな私のことを百も承知で参加されたはず。

その点も、奇妙な確信があります。

なので遠慮なく、忌憚ない感想を書かせていただきましょう。

まあ、要するに通常運転ってことです。


謝るといえば、もう一つ謝っておきたいことがあります。

実は今作を読む前に、タグを見ちゃったんですよ。

そこにがっつり答えが書いてあって、伏線をリアルに楽しめない体になってしまいました。考えが足らず、本当に申し訳ない。


ということで、今回の「読みながら感想」では、例のアレは知ってる前提で読んでるものと考えてください。

もちろん、最後にアンケート回答にはお答えしますので。


それではじっくり感想、開始します。



⬜️読みながら感想

二読後の感想を、読みながら書きます。


>インスタントラーメンと、トマトと卵

インスタントラーメンが、袋麺かカップ麺か気になるところ。

まあ袋麺とは思いますが、早めに明記した方がイメージしやすいかと。


>幼い私は兄のラーメンにどれだけ勇気づけられていたことか。


これくらい強い印象なら、「たまに作ってくれる」ではなく「いつも」の方が合ってそう。


>両親、特に父は私のことを娘だと認めてくれたことなんて一度もなかった。


ここから始まる過去語りは、現実と分ける意味で、何かしら差別化した方がいいかも。

前後を二行空けるとか。

入りは気になりませんでしたが、ため息のところでちょっと引っかかったので、ため息前に二行開けるくらいでちょうどいい気がします。なくても大丈夫ですが、読みやすさを優先するなら。


内容的にはごく自然で、問題はまったく感じません。


>両親はその分だけ年老いていて、あれほど怖かった父の背中が前よりも小さくなって見えた。


「両親はその分だけ年老いていて」は、後の描写で十分だと思います。

あえて入れるなら母親の変化でしょうか、白髪増えたとか。


>駅まで迎えに来てくれた両親は初め、

用法は「初め」で正しいですが、私ならひらがなに開きます。


>実家ではおしゃれなんて絶対に許されなかったから。長い髪をふわっと巻いて、きらきらのトレンドメイクをしていた私は、まるで別人に見えたに違いない。


ここら辺、とても上手い書き方ですね。

話に無理なく、巧みに事実を隠せています。


>私がメイドカフェで働いていると知ったときの驚いた母の顏、震える父の拳。


ここもお見事。


>「わあ、しわっしわのかっさかさだよ、見て」

ネギとか生姜って、使い切らないと忘れ去られがちですよねw


>でもね、私がトマトに手こずっているのはたぶんネイルのせいじゃない。久し振りの実家だから? それとも兄がじっと私を見ているから? 手が震える。


ううむ。

ここら辺の感情表現は見事ですね。文句なしです。


>「うーん、あんまり期待しないで楽しみにしとく」


ありますよね。こういうやりとりw


>でも、野菜室に冷えたトマトを見つけたときにピンときた。あ、これだって。


この次の行、「職場近くの~」から先は改行して、『西紅柿雞蛋麵』の段落を独立させた方が、読みやすく印象も強まります。


>味付けは付属の調味料を使うから絶対に間違いない。


それはどうかとw

トマトに合わせるとなると、それなりに種類を選ぶ気もします。インスタントも味はたくさんありますし。

私なら「多分、大丈夫」くらいにしときます。


>兄は小さいころから優等生だった。真面目で正直で、そして優しい。いつも後ろにくっついて回る私を、兄は邪険にすることなく甘やかしてくれた。


ここから無断欠勤の話に飛ぶのは違和感があります。

会社の話に繋げるなら、兄の普段の仕事ぶり、真面目さ、職種を語るべき。

このエピソードは、兄を頼って家出した時くらいに回した方が自然です。


>寝ぼけたままぼんやりと電話に出た私は、まるで心臓を直接掴まれたかのような衝撃に飛び起きた。どこか緊迫した重々しいその声は確かに私の名前を呼んだ。咄嗟に「番号が違います」そう言おうとしたのに、全く声が出ない。ものすごいスピードで心が凍り付いていく。うっかりしていた。実家の電話番号に気付かないなんて。


ここの描写は微妙。

名前を呼ばれて「番号が違います」は無理があるというか、「(名前が)違います」くらいがよくある対応では。あと、装飾がやや多いです。私なら、


「寝ぼけたままぼんやりと電話に出た私は、緊迫した声に飛び起きた。未登録の番号だが、確かに私の名前だ。驚きすぎて声が出ない。うっかりしていた。実家の電話番号に気付かないなんて。」


>少しの間があった後、父は続けた。

「少し間を置いて、」の方が。


>普段の勤務態度から、心配した社長がじきじきに兄のアパートを訪ねた。


朝に出社しなくて、その日のうちに社長が訪ねてくるのは、流石にリアリティがないです。

二日や三日連続で出社しなければ、異常事態だと思うのもわかりますが。

社長が訪ねるのもかなり不思議に思いますが、まあ小さい会社だったり、個人的な親交があるとかならアリですかねえ。あるいは家が会社のすぐ近所とか。


>兄のスマホはまだ電源が入っている状態だった。


ここはどうやって確かめたのか気になるところ。

おそらく電話をかけた結果だと思われますが、「電話は通じても出ない」のか、「電波の届かない地域か電源が入っていない状態」なのか、あるいは「お客様都合で使えない」のか。

父が連絡した上での情報でしょうが、ざっくりでいいので説明したほうがわかりやすいはず。


>冷静に考えて、行方が分からなくなってまだ一日も経過していないはずだった。


ここの根拠がよくわかりません。

この日は月曜なので、週末が休日なら、一日以上空いている可能性があります。土日休みならなおさら。前日が仕事なら、「兄は日曜出勤したのち」などと添えるべきです。


>私の電話番号も、兄とは近くに住んでいることも、両親は把握していた。私が知らなかっただけで、私の周囲にはまだつながりが残っていたのだ。


ここら辺、リアリティがあっていいですね。


>最近の履歴にいたっては、互いの誕生日に「おめでとう」と「ありがとう」が交互に並んでいるだけだ。


ここら辺もすごくリアルw


>バッグにスマホを突っ込み部屋を飛び出す。

ここは「兄の家へ向かった」とした方が、話が早いです。


>やっとの思いで到着した兄のアパート、私はただドアの前で途方に暮れていた。


とりあえず、中に入れるかどうかは確かめるものかと。


>「……え、お兄ちゃん見つかったって……?」

ここら辺のあっさり解決する展開も、リアリティが感じられてよいと思いますね。


>ストレスとプレッシャーによる心身の不調。

「兄は失踪中どこにいて、何故電話に出ず、今連絡が通じたのか」の説明がざっくりとでも必要です。


>私たちはタクシーに乗った。

アパートから遠くないのにタクシーを使うのは、歩けないほど憔悴してるということですかね。ここら辺も、病院に来るまでの経緯がわかれば想像しやすくなるはず。


>今はその鉢も枯れて、積み重ねたゴミ袋の陰に埋もれている。


これは会社がブラックな予感……


>私は静かに立ち止まった。

「私は静かに中に入った」の方がスムーズ。


>「部屋、綺麗になってる。たか、あ……えっと……ごめん」


ま、普通はここで気づくかと思います。

バレたら困る筋書きでもないですし、頃合いではないかと。


>本当はこんな姿誰にも見られたくなかったよね。


ここら辺の兄妹らしからぬ気遣いも、彼女の生い立ちの説明があるので、共感できます。ああいう人生を送っていれば、知られたくない気持ちに意識も向くだろうなと。とてもいい場面だと思います。


>それから帰りの電車で、人目もはばからずにずびずび泣いたんだっけ。


ここは「ずびずび泣いた。」で切る方が自然。


>目が覚めたときの不っ細工な顔を見て今度はげらげら笑ったんだった。


ここも「笑った」の方がいいです。

ここまでの回想中、過去語り的な言い回しはなかったので。


この後の締めの一文で、回想であることは十分に伝わります。


>深夜放毒


>麺とかやくをぽこぽこと沸騰する赤いスープに入れ


おっ、麺もまとめて茹でちゃうタイプですか。

まあ深夜飯にそこまで手間暇かけませんかねw


>途端にたちこめるとんこつの香りが食欲を刺激する。


飯テロ開始。


>今まで食べたことない味だけど、すっごく美味しいよ、これ。


トマトラーメンも昔に比べて普及しましたよね。

酸味を卵の甘さで中和する感じが好きです。相性がいい。


>私も箸を握り直し、丼に手を添える。まずはスープから。うん、美味しい。濃いとんこつスープなのに、トマトが溶け込んでさっぱりしている。卵もふわっふわだ。でも何と言っても葱だろう。もちろん新鮮なものには味も食感もかなわないけど、萎びていたせいか噛み応えがあって、それが逆に絶妙なアクセントになっている気がするのだ。


確信的飯テロw


>嫌いなものは最初に食べてしまおうとするのは、小さいころからの兄の癖だ。


兄の真面目な気質が伺えていいですね。


>胸がつきんと痛くなる。

「つきん」ってなんだ?と最初は思いましたが、「ずきん」を軽くしたものですかね。

そう思うと、アリな擬音に感じられます。


>初めてだらけで不安と緊張でいっぱいだったころ


ここは「初めてだらけで」は抜いた方がいいです。全文の例で十分です。


>『西紅柿雞蛋麵』(xi hong shi ji dan mian)、発音が難しすぎて、何回食べても読み方は全然覚えられないのだけど。


一字ごとに振ってる辺り、ルビにこだわりが感じ取れます。

「読み方が覚えられない」という言葉で、地味に嫌味を消しているのもお上手。


>今は倉庫でのアルバイトもしている。

ここもヒントですね。


>兄の『いつか』は社交辞令なんかじゃないこと、私はよく知っている。だからきっと『いつか』本当に遊びに来てくれるんだと思う。そしたらそのときは、本物の『西紅柿雞蛋麵』を一緒に食べに行くんだ。


特別な表現があるわけでもないのに、この部分にいたく感動しました。


>「ううん、辞めないよ。実際仕事は大変だけどね、すごくいい会社なんだ。社長にも恩があるし、今の会社が本当に好きだから」


ブラックの洗脳入ってないか気になりますが、まあ社長が気にかけてくれたり、すぐ休みくれる部分で大丈夫ぽい、かな。


>ゆっくり体調を整えながら、兄は資格のための勉強を続けている。ずずっ、ずずっと二人分のラーメンをすする音が響く。


ここを一行にまとめると、ラーメン食べながら勉強してるようにも見えます。

勉強の話は既に出てるので、ここは省いていいかと。


>私も私だ。「久し振りに帰ってきたらどうだ」なんて言われて、のこのこ戻って来るなんて。


ここら辺の家族との距離感が絶妙ですね。


>『妹が作ってくれた』

この展開はポイント高いです。

私ならここに感動シーンを集中させるかも。

でも、自分に名付けた名を兄が初めて呼ぶと言うシーンもいいので、現状がベストな気もします。まあ贅沢な悩みですね。大変エモい場面だと思いました。


>なんで。なんで。もう無理だ。どでかい何かが一気に押し寄せてきて、あっという間に決壊した。


まさに押し寄せるような感情表現で、圧巻です。


>堰を切ったように涙が噴きあげる。

でも「噴きあげる」はどうかと思いますw

「溢れ出る」あたりで十分だと。


>そうだよね。間違いなんてないのかもしれない。でも私は。男の子として生まれてきてしまったこと、例え間違っていなかったとしてもすごく悔しい、悔しくてたまらないんだ。


ここら辺のくだり。単純に「間違ってない」で終わらない、終わらせられない思いが詰まっていて、息を呑みました。絶賛します。


>家の中にも残っているたくさんの、かつて孝志だったころの痕跡が、私を責め立てる。


細かい指摘ですが、「家の中に残されたたくさんの、」の方がいいはず。


>全部、見ないふりをして、私は必死に心を保っていた

ふううむ。そういうものなんですね。


>今はそれで十分なのかもしれない。

ここら辺のバランス感覚が、大変好ましい。


>兄を元気づけたいなんて、おこがましかったんだ。励まされたのは私のほう。私は自分が癒されたいがために、兄とラーメンを食べているのだろうか。それとも、私たちはただ傷の舐め合いをしているだけなのだろうか。わからない。


ここら辺も絶妙なバランス感覚だと思います。


>最後に丼をかかえてトマト色に染まったスープをすする。はあっと息を吐いて顔を上げると、先に食べ終えていた兄と目が合った。お腹が満たされる。生きていることを実感する。兄の笑顔が照れ臭い。私はわずかに残っていたスープを一気に飲み干した。お腹の底が、ずっしりと温かかった。


最後、私なら「温かくなった」にしますかね。

それ以外は文句なしの締めくくりです。

心を揺さぶられる、よい作品でした。


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