【19】怪物(六花ヒカネ) 総評
【19】怪物(六花ヒカネ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330654639185690
⬜️全体の感想
・タイトルについて
イマイチですね。あまりに平凡すぎます。
とくに怪物に焦点を当てた内容にも感じられません。設定もよくあるやつですし。
叫刀や黙士の方がオリジナリティがあるので、そっちに寄せたタイトルの方が内容的にも合っているという気がします。
・文章について
おおむね悪くはない感じです。
時々引っ掛かる点はありますが、ほぼ無理なく読めました。誤字脱字もありませんでしたし。
映像的な文章表現の試みも、あちこちに見て取れます。すべて成功してるわけではないですが、何も考えず書いている人に比べれば、一歩前に出ている印象です。
とくにシーンを締めくくる最後の一文にこだわりが感じられ、高く評価します。私も同じタイプなので、そのセンスは伸ばして欲しいところです。
その上で、次に望むとするなら、表現をより豊かにすることですかね。
一人称ということもありますが、どうも全体的に平坦で、起伏に欠ける印象があります。一話だと赤島の感情の上下や怪物の描写など。
語彙を増やし、凝った言い回しや独特の視点を模索してみましょう。同じ場面でも切りとり方次第で、様々な演出が可能です。
基本は出来ているので、指摘した穴に気をつけつつ、色々試してみる段階ではないでしようか。読者視点でチェックしながら、試行錯誤してみてください。
・内容について
オムニバスなので、まずは個別に書きましょう。
>Case.赤島瞬二
主人公は黙士になったばかりの若者で、同じく新米の隊員との会話で、黙士になった過去を語るという展開ですね。
これ自体はわかりやすく、何も知らない読者に近い目線で説明できるので、悪くないと思います。
主人公である赤島も、平凡ながら元気がよく、読者の代理人として問題ないキャラだと思います。読者の浮かべる疑問点にも高確率で応えていますし、物語のナビゲイターをしっかり務めているかと。説明がわかりやすく好感が持てるという時点で、十分に合格です。
話の展開はいかにもよくある、捻りの足りないものですが、まあ一話目はシンプルな方がいいかも。
それより叫刀や黙士など、オリジナル要素の説明がほとんどないことの方が気になります。ここはかなりの肝なので、序盤にヒントを散りばめ、期待感を煽るべきです。まあここは後述しましょうか。
読みながら気になった点を、個別に書いていきます。
>黄鷺の名前について
戦隊もの然り、キャラものでは名前と特徴は連想しやすい方が基本的にはいいです。赤島が炎の剣というのがわかりやすい例ですよね。
ですが黄鷺は全身黒ずくめで、今のところ黄色との関連性は感じられません。
まあ絶対リンクさせるべきというルールもないのですが、では彼女のキャラに名前が合ってるかと言えば、正直、あまり馴染んでる気もしません。
もしか未使用だった叫刀の特性に合わせてるかもですが、むしろ一話目でこそ、その片鱗を見せてもいい気がします。
>叫刀と黙士
ネーミングは好きな部類です。
これで名前と能力が繋がり、さらにはテーマまで深掘りされていけば文句なしと言うところ。ただ、二話時点まで見た限り、その兆しが見えないのが気になります。
叫刀は、黙士選びに叫ぶシーンがあるくらいで、バトルでは特に叫ぶ
感じがありません。炎の刀とか、よくある奴です。
黙士に至っては、今のところ完全に名前だけです。
ここら辺、一話がなりたてのキャラなのですから、障りだけでも見せて欲しいところ。現時点では、「平凡な能力もの」の範疇なので。
例えば、そうですねえ。
叫刀は叫びのような黙士の「思い」を具現化するとか。そのために使用者の感情を食いつぶしていくとか。
黙士の方は、抜刀中は声を奪われ、言葉を話すことが出来なくなる。まるで刀の奴隷のようになってしまうので、厳重にロックがかけられ、時間制限で強制納刀される仕組みになってる、とか。
まあこれは私が今適当に考えたもので、六花さんにもまだ見せていない、独自のアイデアがあるのだろうとは思いますが。
いずれにせよ、一話目に期待感を押し出すのは重要です。隠し過ぎると、真実が明らかになる前に読むのを止められる可能性があります。
読者は面白くなるまで待ってはくれないと考えておくべきです。読んでもらえたタイミングで、最大限に琴線を刺激するのが最重要。少なくとも私はそう考えています。
>「私があなたに接触してからのようです。このことから我々はあなたが、新たな黙士もくしである可能性が高いと考えています」
設定が開示されていないので確定は出来ませんが、いまいち説得力を感じません。
「黙士」だとわかるのはいいんです。互いに黙士なので。感覚的に通じるものがあるんだろう、とか想像できます。
でも特定の「叫刀」が、直接接触すらしていないのに叫び出すのは変です。どうやって赤島のことを知ったの?となります。
条件が合う相手と接触するたびに叫ぶんでしょうか。黙士になりたがらない人間の方が多そうですし、記憶は消せても叫ぶ刀は黙らないんでは?と思うんですが。あくまで想像ですが、色々問題が多そうな設定です。
ここら辺、しっかり設定があるならそうとわかるよう開示した方がいいです。全部でなくてもそれとわかる程度は。
私なら、判別できるのは「黙士の才能があるか」までにします。例えば「黄鷺の叫刀が震え始めた」とかで。
そして赤島が研究所に呼ばれてから叫刀が叫び出し、灼赫に選ばれる、という展開の方がスムーズに読めるかな、と。
>怪物について
タイトルにもなっている割に、怪物の描写に熱を感じられません。デザインも適当な感じです。
毛むくじゃらの方はもはやデカい犬くらいの印象で、まるで怖くないですし、爬虫類の方もデザインが多少違うかなくらいです。序盤のやられ役とはいえ、怪物に焦点を当てる予定ならおろそかにすべきではありません。ガンダムで言うザクを目指して、アイデアを投じるべきかと。
例えば個性付けの基本として、攻撃方法を変える手法が考えられます。対する主役のアクションも変化し、読者を飽きさせない工夫です。或いは二匹登場させず、一匹目が叫刀との共鳴で檻から逃げ出し、赤島と再戦闘させるという展開もありでしょう。これなら毛むくじゃらを造り込むだけで済みますし、一度目は逃げるしかなかった相手へのリベンジということで、燃える展開と言えます。
>Case.永山和樹
さて、二話目の方ですが、こちらは一話より私の評価は低いですね。
内容的には謎めいた少女をかくまい、心を通わせた男の逃避行とその末路、という感じですが、とにかく主人公たち気持ちが舌足らずで伝わってきません。せめて二人が出逢った経緯と過ごした時間について、ダイジェストでいいので回想が欲しいところ。疑問の大部分は氷解するはずです。回想に抵抗があるなら、疑問に応じるヒントを随所に散りばめる必要があるでしょう。
とくに「なぜ少女はいままで主人公を襲わなかったのか」「少女が人を殺したのはこれが初めてか」「人食いと知っての上で暮らしていたのか」などは、明言はされずともそれとわかるヒントを読者に与えなければ、読後にすっきりできないと思います。
あと、一話と二話で、怪物としての共通点がまるで見当たらない点も気になります。
怪物がタイトルでテーマとするなら、何かしらデザインや特性に同一性、方向性を与えていくものです。でなければテーマを表現できないので。
もちろんまだ話は序盤で、これから出てくるのかも知れませんが、三体のデザインや特徴に共通点を設けることで、伏線とすることは可能だし、重要かなと。少女は倒す前後に本性を現すとかにすればいいですし。
一応、あらすじには「人食いの怪物」とあったので、これがテーマかなとも考えたのですが、一話目にはヒトコトも語られてなかったし……もしそうなら一話に加えるべき要素ですね。
締めくくりの書き方は、こちらでもよかったと思います。コーヒーは指摘しましたが、雰囲気という意味での方向性は間違ってませんし。
⬜️総評
・文章は中程度。締めくくりのセンスが光る。
・内容は平凡。命名に設定が追いついていない。
・序盤にこそ面白さを詰め込み、期待させるのが大事。
文章より内容が問題という、珍しいパターンです。もう少し捻りを入れたり、変化球を投げることを考えていいかもしれません。
オムニバスですが、内容的にはどれも不完全燃焼な部分があります。基本的な設定が開示されていないので、それがわかるまでは評価のしようがないというか。そういう意味では、二作とも独立した短編としては物足りません。
短編集というからには、それぞれの物語を過不足なく完結させ、その上で残った謎をリレーさせるべきです。
一話目で叫刀について、二話目で怪物について、三話で黙士について、基本的な情報は全て出すくらいがちょうどいいかと。その上でテーマの深奥に一歩づつ迫るような感じが合うのではないか、と思いました。
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