【19】怪物(六花ヒカネ) 読みながら感想
【19】怪物(六花ヒカネ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330654639185690
九月の延長戦に入りました、じっくり感想企画です。
八月末で応募者も十八人に留まり、それ以上の参加もなさそうだったので、ひとまず終了宣言をしちゃいましたが、そこに滑り込みでニューチャレンジャーが現れました。もちろん大歓迎です。
そういうことで十九回目。六花ヒカネさんの「怪物」です。
ジャンルは現代ファンタジー。
一話ごとに主人公の変わる短編集のようです。
そんな六花さんのアンケート回答はこちら。
初めまして。六花ヒカネと申します。
感想をいただきたく参加を申請しました。
短編集「怪物」(現在短編2本のみ、合計7965文字)での参加となりますが大丈夫でしょうか。
・特に意見が欲しい部分。
特にありません。
・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。
いただきたいです。
以上となります。よろしくお願いいたします。
ふむふむ。特に注文はなしと。
バトル大好きな私にとっては、どストライクなジャンルです。
その分、見る目も厳しくなりそうですが、より深くアドバイスができるとも言えるわけで。
まずはどういう方向性の、どんな物語か見ていきましょうか。
じっくり感想、始めます。
⬜️読みながら感想
二読後の感想を、読みながら書きます。
>Case.赤島瞬二
視点の主格がサブタイトルにあるのはわかりやすいですね。
「Case1.赤島瞬二」とナンバーを振る方が主流な気もしますが、まあ同じ人が出ないなら必須ではないかも。
>あー、突然話しかけてごめんな。
ここの自己紹介は段落を変えたほうが自然です。
>ほい、お待たせ。……え? オレがなんでラボに入ったか?
展開がちょっと強引に感じます。
先に「赤島がそばにいて、一緒にコーヒーを飲む」という状況の説明があった方がいいかと。例えば「俺も飲みたかったから」などと添えれば、赤島もコーヒータイムを取り、それで話を振ったんだと伝わります。
>それからバイトの現場まで行くために、普段は通らない近道の路地裏に入って——それがいけなかった。
悪夢を見て早起きしたのが、近道をする理由になっていないのが気になります。普通は「遅れそうなので近道する」ものでは。
悪夢を見る必要性は(先の伏線かもなので)わかりませんが、もし外せないなら、「早く起きたあと二度寝してしまい、バイトに遅刻しかけた」などの説明のほうが理解しやすいはず。
>硬そうな毛に覆われた、毛むくじゃらの人型。一番近いのは、写真とかでしか見たことないけどヒグマとかかな。あれよりも毛が長い、犬で言うと長毛種か? 体毛の隙間から見える目が爛々と光ってて、生温かそうな息をゆーっくり吐いては吸ってを繰り返している。
適量ですが、欲しい情報に欠けます。
この場面で読者がまず欲しいのは「危険かどうか」「どう危険なのか」です。
そこから見て足りないのは、サイズ(体高)と爪の描写ですね。「ヒグマのような」では大きさのことかわかりません。爪も後から説明が出ますが、ここで描写した方がインパクトがあります。
>いやー死んだと思ったね。
>だって明らかにやばい。
正直、今の説明では、そこまで怖くありません。
>このままじゃ絶対に死ぬ。そう思って、一か八かその毛むくじゃらの横をすり抜けた。
意外性より違和感の方が先に立ちます。
ヒグマと出くわして、脇を抜けようとする人間は普通いないかと。その先すぐに避難先があるとかならわかりますが。
引き返すと道に迷う展開にならないという問題は、「気が動転して戻り道を間違えた」で解決できると思います。
>たしか角を右に曲がった後、その先が袋小路だったんだ。
動転から道を間違えたものと察せますが、説明が欲しいところ。バイト先に向かうと明言してましたしね。
>あれは危なかった。もう少し深ければ首を斬られてた。
「斬る」は武器や刃物に用いる表現なので、熊の爪だとやや違和感があります。かと言って「切る」も迫力不足なので、「首が飛んでいた」とかどうでしょう。
>後ろには壁、目の前には毛むくじゃら。
進行方向的には前後が逆に思います。
それか、赤島が振り向く描写を入れるかですね。
>きっとあの毛むくじゃらの爪。
こう書くと爪が毛むくじゃらみたいに見えます。
>あの黄ばんで、なにかがこびりついた爪で
ここは汚れより、尖さや威力の描写が欲しいところ。
>そう、黄鷺先輩!
黒一色なのに名前は黄色なんですね。謎。
赤島は炎の剣なので、余計そう思います。
>毛むくじゃらはいとも簡単に吹っ飛んで袋小路の壁に衝突して、ぐったりと倒れた。
ちょっとバトルあっさりすぎる気はしますかね。
叫刀についての設定を、一つくらいチラ見させてもいい感じ。
>ぐったりと倒れ込んだ毛むくじゃらを、なにかでかい容器に詰めて持っていった。
人間より大きいだろう怪物を詰められるサイズの容器が出てくるのは違和感があります。小型車くらいありそうなので、「運搬車」とかの方が。人間大なら担架とか遺体袋なんてのも考えられます。
>途中で冷静になって、これって誘拐? 拉致? って思ったけど
ここら辺の「普通の感覚」はよく書けています。
>「叫刀きょうとうが騒ぎ出しました」
叫刀と黙士。具体的な内容は不明ですが、抑えの効いたネーミングで悪くないと思います。
若干地味ではあるので、設定や活躍で覆して欲しいところ。
>「私があなたに接触してからのようです。このことから我々はあなたが、新たな黙士もくしである可能性が高いと考えています」
設定が開示されていないので確定は出来ませんが、いまいち説得力を感じません。
「黙士」だとわかるのはいいんです。互いに黙士なので。
感覚的に通じるものがあるんだろう、とか想像できます。
でも特定の「叫刀」が、直接接触すらしていないのに叫び出すのは違和感を覚えます。どうやって赤島のことを知ったの?となります。後述。
>わからないことだらけで、今までの日常には戻れないと思った。
ここは「予感がした」の方が適切な気がします。
>久我さんは当時からやっぱり威圧感があってさ。学校の厳しい先生みたいだなって思った。
一言で人物像が浮かんで、いい描写だと思います。
>「叫刀がうるさくてかなわない。さっさと黙らせてくれ。
ドラマティックな展開。ナイスですね。
>とんでもない絶叫で満たされてた。
ちょっと口語から離れすぎ。小説ぽくなっています。
「とんでもない絶叫で耳が痛くなった」
>一般的にイメージされる日本刀と、ほとんど変わらない見た目をしてた。けど、わかるかな、刀の柄、鍔、鞘にかけて、銀色の小さい機械で覆われてたんだ。
「見た目」じゃなくて「形」ですね。
見た目はどう見ても変わってますから。
>じいっと見て、多分「握って」と言ってるんだと思った。刀の方指差してたし。
ここは「握る」というジェスチャーの方がいいかと。
指さして「握れ」だとは思えませんから。
>絶叫はまだ続いてた。あんなの、人間の肺活量じゃ無理だと思う。
耳から手を離したので、その驚きと苦痛の描写が欲しいところ。
> 黄鷺先輩が呟いたのが、声の止んだ部屋にやけに大きく響いたのを覚えてる。
場面の締めくくりとして、なかなかのセンスだと。
>灼赫
炎系の刀なんだな、とわかりやすいネーミングで好感。
>久我さんからスイカ食べる擬音みたいな言葉が出てくると
これ自体は面白いネタですが、いじるのが長すぎに思います。
もっと短く流した方が効果的なはず。
>「叫びが止まったなら君は黙士で間違いないだろう。——怪物が出た。仕事をしてもらう」
急展開ですが、まあテンポ考えればアリかな。
>どうも叫刀が叫ぶと、怪物が寄ってくる……らしいんだ。
ちゃんと説明がされてるのはグッド。
>オレも研修とか欲しかった。
ここら辺、読者の疑問に応えてる感じでいいですね。
> 黄鷺先輩から、
>「叫刀は誰でも扱えるものではありません。まず選ばれなければなりませんから。しかし、あなたは黙士として選ばれたのですから大丈夫でしょう」
> って、励まされたけど。オレパンピーだったんだけど。
言いたいことはわかりますが、文章のつなぎはイマイチ。
私なら、
「オレパンピーだったんだけど、黄鷺先輩から、
「叫刀は誰でも扱えるものではありません。まず選ばれなければなりませんから。しかし、あなたは黙士として選ばれたのですから大丈夫でしょう」
って、励まされてさ」
>連れてこられたのは郊外の森みたいなところで
ラボがどこにあるのか書かれていませんが、多分東京のどこかなんだろうと想像されます。
なので「怪物が寄ってくる」のに「郊外の森」というのは違和感を感じます。もっと都会にある無人の場所でいいのでは。
>ともかく爬虫類もどきはゆっくりとこっちに顔を向けて、低く唸り始めたんだ。姿勢もどんどん低くなって、まさに臨戦態勢って感じ。怖かった。
これだけ読むと犬みたいな反応ですが、二足で立ってるのか四つ足なのか気になります。
>その怪物は黄鷺先輩には目もくれず、オレめがけて襲ってきた!
これだけアクションを書くなら、「どう襲ってきたか」も具体的に書いた方がいいかと。攻撃方法が見えないとピンチが伝わらないので。
>そいつはそのまま転びそうになりながらもこっちを向いて、
文頭1マス下げを忘れています。
>「当然です。叫刀には通常ロックがかかっています。解除した状態でなければ抜けませんよ」
先輩、天然なの?
>「あのすいませんやばいんで! 刀を抜けるようにしてください! パパっと! このままだと死ぬんで! お願いしますほんっとに!」
ちょっと面白い。初めてだとこうなりそう。
>何せ素人だったから、かっこよく居合! みたいなことはできなかった。
ここら辺もリアリティがあっていいですね。
>間合が届かなかったんだ……!
「間合いが遠かった」か「刀が届かなかった」かと。
>そしたら、すごいな叫刀・灼赫。こいつ火ぃ吹くんだよ文字通り。
まあ想像通りの能力。
捻りがないので、欲を言えば想像以上が欲しいところ。
>締まらないしかっこよくもない初仕事を終えて、オレはラボに所属することになったんだ。
バトル自体はさして盛り上がりませんが、まあ一人称だし初仕事なので、こんなものでしょう。
ベテランである黄鷺との違いに触れるのもいいかも。
>最初は慣れないと思うぜ
ここから続く段落を、最後に持ってきた方が綺麗に締まると思います。隊員が研修に向かうなら、何でも繋げられますし。
>怪物なんてそうそう見るもんじゃないし、見たとしても危ない目にも合うし。
記憶を消されるので、怪物を見た者はほぼいないのでは?
>……ところでこれはちょっと素朴な疑問なんだけど
話の流れ的にやや唐突感。
倒した怪物の回収場面から繋いだ方がスムーズですかね。
>防護服の人たちが色々撤収しに来てるけどさ。
「撤収」は意味合い的に変です。
「片付け」「後始末」などの方が。
>回収できると判断された怪物はそのまま研究所にまわされるらしいじゃん? 結局、それ以外ってどうしてるんだろうな。
むしろ回収された怪物がどうなってるのかの方が気になりますね。
一話目に謎を含んで終わるのは引きとしていいと思います。
>Case.永山和樹
>玄関を開けた先
玄関を開けてすぐ見えるのは普通玄関なので、この後テーブルが出てきて混乱します。仮にワンルームなら、最初に描写すべきです。
>赤の海に座り込んでいる
後に「赤い水溜まり」とあるので、海は比喩として大きすぎます。
私なら「赤い池」くらいに留めます。
>永山和樹ながやまかずきは衝撃を受けた。
あれ、この話は三人称なんですね。
てっきり一人称の視点変更形式だと思っていました。
>赤に座り込んだまま、理由を探している。
ここは「言い訳を」の方が。
>放っておいたら警察が来るかもしれない。その場合、真っ先に疑われるのは彼女だ。和樹の心は決まっていた。
彼女が怪物と知っているかどうかで反応が違う場面ですよね。
この感じだと、知ってると読めます。
普通はまず「彼女が殺したのか?」と思うところですから。
>「逃げよう」
冷静に考えると、逃げた方が不味そうなものです。
死体を隠匿した方が確実のような。
まあ咄嗟に逃げてしまうのはわからなくもないですが。
>彼女の手を取った時はじめて、赤い水が血液だと気づいた。
ここは流石に無理があります。目の前に死体(明言されてませんが)が、それも真っ赤に染まったのがあるんですから。
ましてや彼女の正体を知っているなら、何が起こったのかわかっているはず。血を連想しないわけがありません。
>けれどそれは、手を離す理由にはならなかった。
この繋ぎは綺麗ですが、血とわかっていても使えるはずです。
>もっと丈が長ければ、彼女の服に染み込んだ血の赤も隠せたのに、と和樹は思う。
むしろ着替えて出て来なかったのが驚きです。
そろいのマグカップは同棲していたと読めるので、着替えくらいありますよね? 逃げるにしても準備くらいはするものかと。
>「そうそう、スマホ。忘れてったよ」
>「あ、ありがとう……」
> 当初の目的だったスマートフォンを彼女に渡した。
ここの文意がよくわかりません。
後から家を出た主人公が、彼女の忘れたスマホを発見し、手渡したとも読めますが、「当初の目的」が意味不明です。ジャケットを着せるにかかっているんですかね?
ここまでしてスマホを話に出す目的も謎です。
この後、スマホが話に絡みもしませんし。
特段の意味合いがないなら、この部分は丸ごと削っていいくらいです。
>じわじわと包囲網が狭まって行くような予感がした。
ここは「予感」より「感覚」の方が。
「じわじわと包囲網が狭まって行く感覚があった。」
>肩を押されたのだと理解し、何とか腕で体を支えて、肩を押した張本人である彼女を見上げた。
肩を押されて「倒れた」と書かれていないので、「肩を押されただけ」に読めます。「見上げた」でそれとわかりますが、読者の理解が遅れ引っ掛かります。
男性が女性に肩を押された程度ではまず倒れないので、ここは「突き飛ばされた」とした方がわかりやすいです。「倒れた」ことも体を支える部分で明言すべきです。
>足音に混じって何かが擦れ合う音が聞こえる。
これは意味が分かりません。何が擦れる音?
>いつかのドラマで見たような装備の人々は
不特定のドラマ基準だと流石にイメージが広すぎるので、ここは特定すべきかと。「ドラマで見た機動隊のような」とか。
>ダン、と音が鳴る。それが銃声だと気づいたのは彼女の額に穴が空いた時だ。
>ぐらついた体はしかし倒れず、和樹越しに撃った相手である機動部隊の隊員を睨みつけた。
男の背中越しに、寄りそう女を撃つとか、普通は誤射を恐れてやりません。まして専門職の人間が。非現実的です。
せめて位置関係を「機動隊>男>女」ではなく、「機動隊>女>男」にすべきです。
>額の穴からは一筋の血が流れて、その白い顔を汚した。
ここはもうちょい雰囲気を作れそう。
>彼女は立ち上がり、機動部隊へと肉薄する。
「肉薄」はすぐ近くまで接近するイメージです。
想定距離にもよりますが、まず距離を詰めた上で、「肉薄する」とした方が想像しやすいかなと。あるいは高速移動の描写をした上で「肉薄する」とするかですね。
>「――虚絡こらく」
刀の名前なのか、技名なのか気になります。
>男が鍵を回すかのように手首を捻り、刃の向きが水平から垂直へと変わる。
描写はかっこいいですが、回す意味は不明ですね。
刃の向きは上なのか下なのかが気になります。
剣筋の描写がないので、バトル好きとしては想像のヒントとして欲しいところ。
>彼女の体が、三つに分割されて落ちた。
ここも、どう分割されたかの説明が欲しいところ。
理由は上に同じです。
「どう斬ったか」を書かないのは正解ですが、「どう斬ったか」を想像させるヒントは大事ってことです。
>一瞬、鋭い光が奔ったように見えた。
>「あ、」
>和樹は一拍、理解が遅れた。あまりにも現実離れしていたからだ。
>彼女の体が、三つに分割されて落ちた。
悪くないバトル描写ですが、速度を求めるならまだ速くできます。
今でも十分考えられていますが、徹底するなら、こうです。
「鋭い光が奔り、彼女の体が三つに分割された。
「あ」
和樹は一拍、理解が遅れた。あまりにも現実離れしていたからだ。」
・「結果を先に書く」と、スピード感が増す。
・「落ちる」より割れた瞬間のみ書く方がインパクトがある。
書かずとも「落ちる」のは想像できる。
・「理解が後から追いつく」意味でも、結果を先にした方がよい。
>血が広がって、和樹の手前まで来た。
銃を撃つ距離なので、そこそこ離れてますよね。
なら、血が川のように流れて来る表現の方がいいのでは。
その血が、主人公の膝や床に着いた手に辿り着く感じにしたら、何かしら情緒的な暗喩にできそうな気もします。
>やっぱり、赤い血と色白の彼女のコントラストは美しかった。彼女に命が亡ないこと以外は。
いやあ、流石にこの場面を詩的に飾るのは逆効果でしょう。
男の悲しみまで薄いように感じられます。
むしろ「コントラストなんて目に入らなかった」くらいの方が、気持ちを表現できるのではないでしょうか。
>「永山和樹。君を保護しにきた」
ううむ。怪物の追跡どころか名前まで。
これを非現実的と取るか、超調査力と見るべきかは悩ましいところ。
>和樹は赤に手をつく。はじいた赤が頬に付着した。
この表現はいいですね!
>「僕が食べられたって良かったのに」
むしろなんで、ここまで和樹が食べられずに済んで来たかの方が気になりますね。この緊急事態下で我慢できないほどの食欲なのに。
その辺り含めて、ちょっと同情の気持ちは薄いです。
> 僕は何を忘れているんだろう。
ここは変です。
本当に忘れてる人間は、「忘れている」ことを認識できません。
せいぜい「何か忘れているような気がする」かと。
>コーヒーを一口飲む。舌に触れたその味は、いつもと変わらず苦かった。
忘却に対する不安とかすかな気付きの暗喩なら、「変わらず苦い」よりも「いつもと同じはずなのに、やけに苦い」方が適切という気がします。
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