【16】Vitamin,(箱女) 総評


【16】Vitamin,(箱女)

https://kakuyomu.jp/works/16817330658137844300



⬜️全体の感想

・タイトルについて

接種必須の栄養素かなあ?……とかなり悩みましたが、少なくとも主人公にはそうなんでしょうね。無理に主人公のあだ名にする必要はないと思いますが、いいタイトルだと思います。


・文章について

雰囲気重視、あるいはそこを目指す文章ですね。

ところどころセンスも感じられるのですが、それ以上に冗長さが目立ちます。

語り口に凝ろうとするあまり、同じような説明を何度も重ねたりで、せっかくの良さを打ち消している印象です。油使いすぎの唐揚げみたいな。

意味不明というところまでは行っていませんが、冗長さは読者をだれさせ、センスによる軽やかさを弱めてしまいます。


理想解はセンスと読みやすさの融合ですね。 

文章センスが水準を越えれば、文字数を気にしなくてよくなります(読んで楽しいので)が、そのためにはやはり無駄の排除が必須なので、方向的には大差ありません。必要な情報を漏らさず、不要な情報を削ることです。


言葉遣いやリズムは、一定評価します。

このセンスをキープした上で、冗長さをなくすようにしてみてください。

凝り過ぎないこと。詰め込み過ぎないこと。引き算を考えること。

この辺りを意識して推敲するようにすれば、グッと違ってくるはずです。


・内容について

「雰囲気小説」ですね。

私はゲーマーでして、「雰囲気ゲー」というファン用語?をよく耳にします。

画面作りやグラフィックだけに全力を注ぎ、肝心の面白さが蔑ろにされたゲームへの蔑称ですが、これを小説に見立てたのが雰囲気小説です。私の造語です。


この小説にも同じ傾向が見られます。

文章センスや場面設定に力を入れ、ストーリーやテーマはおざなり。

三読しましたが、ついに最後までこの印象は覆りませんでした。

まあ私は文学クラスタではないですし、隠されたテーマを読み落としてる可能性もありますが、三回読んで気づかなければ、まあないと言っていいかなと。

もし具体的にあれば教えていただきたいところです。不明があれば謝罪しますので。


もちろん、主人公のお姉さんへの憧れなり、二人の時間への執着なりは感じられます。

でも、それだけです。少なくとも私には、それ以上の何かが伝わってきません。

凝ってるけど空虚なんです。まさにお姉さんの話のように。


こう感じる原因の一端は、今作の書き方にもあります。

この作品は長編の文法で書かれていて、短編のペースではありません。

短編が原則として起承転結を含む完成品なのに対し、今作は長編の起承転結の「起」を抜き出した不完全品です。「先を想像してエンド」というのは打ち切りエンドのようなものです。物語としてはまったく落ちていませんし、先を想像させるほど話も膨らんでいない。

まさに「何となくいい雰囲気」を味わうための雰囲気小説です。


私は別に雰囲気小説を否定しません。そういうプロ作品も多いですし、極まれば純文学と呼べるものでしょうから。私は趣味が違いますが、凄ければ凄いと認めます。

ただ、今作はそこまでの水準にはなく、物語性は希薄です。

なので、こういう評価になるのも仕方ない面があります。


以下、読みながら気になった部分について。


>遠いものを見上げるのが苦手

お姉さんとの距離感に絡めるなら、「遠いもの」という設定はなくして、「見上げる」こと自体を苦手にしてもいいかも。

そうすればシルエット関係なく、お姉さんの顔が見えない理由にもできますし、ラストでようやく顔合わせという部分にも特別な驚きを与えられるかと。


高いところにあるものって、たいてい高圧的だったり、どうしようもないものが多いですよね。学校で思い浮かぶのは時計とか朝礼の校長とか。太陽や月=時間なんかもそんなイメージ。「見上げるのが苦手」な主人公にとって、高い場所のお姉さんはどういう存在なんでしょう? ……みたいな。


>学校の友達について

学校生活の描写そのものは間違っていませんが、それは長編の場合。

短編である今作では、メインは路地のお姉さんなので、力を入れすぎてはいけません。

こちらに力が置かれ過ぎて、路地の話と印象が分断され、散漫になっています。


お姉さんとの時間が大切であることを押し出すなら、学校の描写は最低限にとどめ、友人関係も平凡にした方がいいかと。友人と気安い関係があるなら、そこまでお姉さんに入れ込む理由もないわけですからね。

「不満はないけど平凡。でもお姉さんは違う」という部分をもっと強く押し出すには、個性的な友人の設定が邪魔になっていると思います。あくまで短編で書くなら、友人はオミットすべきでしょう。勿体無いとは私も思いますが、剪定は必要です。


昼食部分を最低限まで削り、余った文字数をお姉さんとの踏み込んだ追加シーンや主人公の心象描写に当てた方が、物語としては深くなるはずです。


>お姉さんについて

雨に絡んで、お姉さんがどんどん普通の人になっていくのが、奇妙に思えます。

そういう人なら毎週深夜にやってくる少女を止めそうなものです。こちらが本来の性格なら、その辺りの描写は欲しいところ。


お姉さんがリアル寄りのキャラなのか、完全にフィクション属性なのかは気になるところなので。別にどっちもありですが、徹底すべきだと。

逆にフィクションで行くなら、部屋に上げる際も冗談めかして言った方が面白くなるでしょう。その方が主人公の気持ちの揺らぎも書けそうです。「近づきすぎること」への葛藤とか。


同じく二人の出会いなども、欲しい情報です。多くは語る必要がないですが、路地を通ることになったきっかけくらいは説明があった方が設定を飲み込みやすいはず。


おっと。言い忘れていましたが、この作品に百合要素は皆無です。

タグを「思春期」とかにすべきだと思います。ラブではないです。



・アドバイス回答について


>全体の雰囲気がラストの余韻までつながっているか。

>また余韻そのものに意味は見いだせるか。


ラストは綺麗に書けていましたよ。

そこまでに物語がしっかり描き切れていれば、満点で余韻に浸れたと思います。

残念ながら、そうはなりませんでしたが。


ということで、前者はイエス、後者はノーというのが私の答えです。



⬜️総評

・センスは感じるが、冗長さで相殺。

・雰囲気小説。テーマ的には空疎。

・長編の一部ではなく、短編として書く意識を。


雰囲気小説と断じましたが、逆を言えば雰囲気は書けてるとも言えます。


雰囲気小説というのは、例えれば「映え」です。

スイーツの写真映えがいくらよくても、味がまずければ意味がありません。

いくら食前酒が旨くても、メインディッシュが不味ければ星はやれないというのが私個人の認識です。逆の方がまだましなくらいです。


センスや雰囲気と、テーマやストーリーは矛盾しません。

両方を兼ね備えるのが重要で、一方だけ突き詰めても片手落ちです。

そしてテーマを含ませるなら、こんな悠長な書き方はしていられないはず。

あるいは今作を「起」とする長編にするか。どちらかでしょう。


どんな作風を選ぶかは箱女さん次第ですが、願わくば中身を兼ね備えた「雰囲気小説」を読みたいと私的には思います。


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