【15】天使と男と女と悪魔(小豆沢さくた) 総評


【15】天使と男と女と悪魔(小豆沢さくた)

https://kakuyomu.jp/works/16817330661982192119



⬜️全体の感想


・タイトルについて

「酒と泪と男と女」って歌があったのを思い出しました。

悪くはないですが、いかんせん地味。

とはいえ、私もいいタイトルが思い浮かびません。

「天使と悪魔と男と女」と並び替えるか、「天使と男、悪魔と女」と切るか。

うーん、どっちもイマイチ感が拭えませんね。


タイトルが決めきれないのは、この物語にテーマがないことも一因だと思います。

そこら辺は後ほど語るとしましょうか。


・文章について

基本的には破綻なく書けていると思います。

ただ、それは最小限の話で、テクニカルとは言い難いところ。

まだまだ文章修行が必要だと感じられます。

まあ、今回は童話風なので、押さえて書かれたのかもですが。


構成という意味では、多少なり無駄な部分が気になります。

不必要な情報を削り、必要な情報を欠かさないのは短編の基本です。

特にこの企画ではキャラの説明が省かれ過ぎな作品が目につきましたが、今作も例に漏れずです。


男女の愛憎が物語の中心である以上、ここの説明は絶対に必要です。

女が何故それほどまでに男に惚れ込んでいるのか、男はどう思っているのか。

両者のスタンスを事前にはっきりさせておかなければ、読者は思い入れできません。

説明次第では男より女の方が正しいという見方もあり得るわけですから。

短編にはダイエットが必要ですが、必要な筋肉を落としては本末転倒。何が必要で不必要かを見極める目を養ってください。


童話(昔話)調については、最後まで徹底すれば、売りの一つにできると思います。

現時点では一部小説風の表現だったりで綻びがあります。文字数も少ないですし、貫徹するのもアリでしょう。童話にもバッドエンドはあるので、意外性はあれど違和感はありません。


ただその場合は、漢字の開き方にはもっと注意が必要ですね。

対象年齢によってどの程度開くかは変わりますが、基本は難しい漢字から開き、ルビを振ることです。基準がブレると見苦しくなるので、入念にチェックすべきだと思います。



・内容について

まずは、読みながら気になった部分と改善案を挙げていきます。


>女について

ぶっちゃけ、この二人は恋仲にした方が、展開がスムーズになると思います。

女の嫉妬や怒りも納得できますし。

現状だと「したたか」のせいで、どうにも女に感情移入できません。

双方とも事情も言い分もあるのが男女の泥沼です。その上でバッドエンドに突き進む方が、現実味とカタルシスがあると私的には思うのですが、どうでしょう。


まあ男の不実度は上がりますが、天使という超常的存在が相手ならやむなしかと。というかこんな感じの神話あった気がする。


>女と悪魔の設定補強

として、こんな感じでどうでしょう。


「女は都会の出身。知識階級で悪魔の知識がある(信仰者にするか悩めるところ)。

 革命の騒乱から逃れてこの村に辿り着き、女教師として村に溶け込む。

 この際、世話を焼いてくれた男と懇意になり、恋仲になる。」


悪魔信仰ではなく研究をしてて、悪魔の危険さはわかっていたので契約してこなかったが、恋心ここに極まって契約を決める……みたいな設定をさらっと出すくらいがいいと思います。


>男を救う天使

ここの展開はゲーム的なチープさがあって、好きになれません。

男が一瞬で無傷で戻るとか、まさにRPGライク。

神や悪魔といった超常的な存在は、そうそう気安く人間に肩入れしないものです。まして献身は考えにくい。天使は神の使いで信仰対象ですから、一人のために身を投げ打てば、大勢の信徒を見捨てることになります。

男に会いに来たり、助けたりはわかりますが、命を投げ出すのは無理矢理感を覚えます。


私ならここは、もっとシンプルにこうします。


「(山狩りなどで)崖っぷちに追い詰められた男だが、そこに天使が現れる。

 男に手を差し伸べ、その翼で奈落を越えようとする二人。

 だが、その背後に女が出現。空を飛びながら、天使を大鎌で斬り殺す。

 崖下へ堕ちる天使と男。女は男に手を差し伸べるが、男は最後まで天使の手を離すことなく、ともに谷底へ消える」


結果的には同じですが、RPG感は多少抑えられるかと。


>ラスト

「悪魔の一人勝ち」というのはよくあるパターンで、斬新さに欠けます。

女がどうなったのかもよくわからないので、そこら辺を私なりに改善するとしたらこんな感じ。


「ともに消えてしまった天使と男。

 男だけでも戻せと、女は鬼気迫る様子で迫るが、悪魔は嗤うばかり。

 怒髪天をつき、女は悪魔をも大鎌で斬り倒す。

 もはや男を救う術がないことを知り、自身も谷に身を投げる。

 そして、天使も男も悪魔も女も、誰もいなくなった」


まあ一例ということで。

変化の方法はいろいろあると思います。


以上、気になる点と改善案でした。


>テーマについて

さて。ここからが本題と言いますか。


これだけ長々と評したり改善案を書いておいてなんですが、ここまで手を入れても、この話が平均点以上になる気がしないんです。

形は取り繕えても、魂が入っていないというか。


ズバリ言うと、この小説にはテーマが欠けています。

この場合のテーマは、読者への示唆、強い共感、作者の思いの提示くらいに定義しておきます。

小説に必ずしもテーマが必要とは、私は思いません。

ハッピーエンドなら、とりあえず読者は気持ちよくなれますからね。

ですが、バッドエンドには絶対に必要です。

幸せになれない以上、他の部分で「何かを得た」と読者が思わなければ、「読んで損をした」と評価されるからです。例えば誰かの死というバッドエンドは、その死に様に意味が見出せるからこそ、感動的なわけで。これが無意味な死だったら、読者はブチ切れですよ。


今作を読み終えた時、正直バッドエンドへの悪感情は生まれませんでした。

登場人物の描写が少なすぎて、感情移入する前にバッドエンドを迎えたからです。

ここはまあ、私が書いたような改善を加えれば補強できるとは思います。


でも、テーマは補完できません。

私でもここまで書かれた作品に後付けするのは難しい。書き直した方が早いくらいです。


もしかすると、小豆沢さんには想定されたテーマがあり、私が読み取れていないだけの可能性もあります。その際は返信なりで教えていただき、改めて感想を書き加えてもいいんですが、おそらくは「天使絡みの男女のもつれの末の悲劇」というところかと。


ただこれは、世の中にありふれ過ぎたテーマなんです。

古今東西で擦られ倒したもので、「よくある話」でしかありません。

これで読ませるには、小豆沢さんのオリジナリティなり新たな切り口が必要ですが、今作にはそこが圧倒的に足りていません。


そして残念ながら、私も新たなアイデアを持ち合わせておりません。それ故に改善が難しい。

逆説的には、そこで勝算を持てない間は、このジャンルで書かないということです。私なら。


必要なのはオリジナリティ。「小豆沢さんならでは」という発想とアイデア。

次に書く時は、ここを意識してみてはどうでしょう。

文章のスキルなんて、何年も書き続ければ私が言うまでもなく上達しますが、アイデアはそうは行きません。

才能に加えて努力なり長い時間なりを注ぎ込んで、ようやく得られるものなんです。

だからこそ、その結晶には価値があるわけで。

「これぞ小豆沢作品」というものを、次回は見せてください。

それを念頭に書かれた作品なら、来年も喜んで感想書かせていただきます。


・アドバイス回答について

>エンタメ作品の小説として成り立っているかどうかと、文章のおかしい部分などご指摘お願いします。


すでに回答済みのようなものですが、改めて。

文章の問題は「読みながら感想」にて指摘しました。


エンタメ作品として成立してるかと言うと、新しさと言う意味でハードルに届いていない印象です。少なくとも小説や漫画を読み慣れた人間ならそう思うかと。

基礎的な技術はあると思いますが、読者を驚かせよう、ここで感動させよう、という意識がまだ足りないと感じました。そここそがテーマなり主軸になり得るので、次作では「挑戦」を意識して書かれてみては。



⬜️総評

・文章は及第点。無駄を省き、必要な説明を意識すること。

・テーマの欠如が最大かつ根本的な問題。

・「よくある小説」の壁を破れるかが、次の課題。


真面目に、真摯に書いておられるのは伝わります。

ですが、大事なのはその次の段階。読者を楽しませられるかどうか。

ここの意識が大切であり、私などはそこを注目しています。

読者に受けるか、人気を博するかどうかはわかりませんが、挑戦が感じ取れれば私は評価しますよ。

どこにでもある作品ではない。「この作者ならでは」の価値こそが大事だというのが、私の考えです。


これからも弛まず、執筆を続けてみてください。

再び作品を読ませていただく機会を楽しみにしています。


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