【15】天使と男と女と悪魔(小豆沢さくた) 読みながら感想


【15】天使と男と女と悪魔(小豆沢さくた)

https://kakuyomu.jp/works/16817330661982192119



三十作限定の半分まで来ました!

とはいえ今年は応答あった方しか受付してないので、参加率が芳しいとは言えません。その代わり、今年は返信率が相当高い。まあバーターなのかなとも。

何にせよ十五作目。記念すべき折り返しの参加作品です。


作品名は、「天使と男と女と悪魔」。作者は小豆沢さくたさん。

さっそく、アンケート回答を見ていきましょう。



初めまして。小豆沢さくたと申します。

昨年の感想企画から実は気になっていて、ユーザーフォローをさせていただいておりました。

このたび思い切って参加させていただきます。


・特に意見が聞きたい部分。

エンタメ作品の小説として成り立っているかどうかと、文章のおかしい部分などご指摘お願いします。読み直しすぎてわけがわからなくなってきました。

思い入れのある作品なのですがバッドエンドなので、万人受けしないことは重々承知しております。

(バッドエンドが苦手でしたら大変申し訳ありません! その際は参加不可にしてください)


・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。

ぜひお願いします。


よろしくお願いいたします。



ふむふむ。昨年の企画見ての参加は嬉しい限りですね。

梶野はバッドエンドにさして忌避感はありません。

エンタメ的にも、ハッピーエンド前提みたいな読み方は嫌いです。

どうなるかわからない、ドキドキがあるからこそ面白くなるものだと。

自分でバッドエンドはあまり書きませんが、感動を生むために必要なら、躊躇なく選ぶべきだと思っています。

なので、バッドエンドだからどうとか、考えたこともありません。

面白いか面白くないか。感動したかしないか。それだけです。

感動させれば正義。それがエンタメってもんでしょう。


コメントから察するに、小豆沢さんは真面目に小説を書いておられる様子。

まあ相手の如何に関わらず、全力で正直に感想を書くのが当企画です。

忖度など一切なく、遠慮なく本音で書かせていただきます。


それではじっくり感想、開始しましょうか。



⬜️読みながら感想

二読後の感想を、読みながら書きます。


>昔々、あるところに、広大な土地を有する大国がありました。


ここから始まる国と村の説明が、まず冗長です。

「広大な土地を有する」は「大国」で十分連想できます。

この話の舞台設定で求められるのは「辺鄙な山村」だけなので、わざわざ国の広さに言及する必要もないんです。辺鄙な村がある時点で、ある程度広いのだろうとわかりますから。


童話(昔話)めいた語り口なのに、「広大な土地」など固い表現が多いのも気になります。

童話調にするなら徹底すべきです。ここなら「大きな大きな国がありました」など。

物語を牧歌的なタッチで描き、バッドエンドとのミスマッチを狙う構成自体は悪くないと思います。少なくとも前半は童話を装うべきでしょう。


>村は、自然豊かな山々に囲まれていました。空はすべてを浄化してしまうかのように、どこまでも青く高く広がっています。

>人々は、わずかな平地に寄り添うように、穏やかに暮らしていました。


ここも童話的に見れば長いです。

「青い空、緑の山々、そのすき間のわずかな平地で、村人はおだやかに暮(く)らしていました。」


>めったに争いごとなども起こらない村にとって、これはもう、天地がひっくり返るほどの大事件です。

>戸惑うばかりだった村人たちでしたが、聖職者たちの粘り強い説得により、徐々に新しい宗教を受け入れ始めます。

>村の暮らしに、再び平和が訪れようとしていました。


ここら辺、行を割いて説明してるので本筋に絡むのかと思いましたが、全然でした。

天使の絵を隠した理由でしかないなら、不要とすら言えます。

「過去に信仰され、今は忘れ去られた天使の絵」でも成立しますからね、この話。


>この村の、一番大きく古い建物があります。

文章がおかしいです。

「この村の中央には、一番大きく古い建物があります。」


>その建物の管理を務める、ひとりの男がおりました。

小さな村で専業の管理人というのは考えにくいですね。

普通は持ち回りかと。普段は掃除程度しかすることないでしょうし。


特に物語に必要な設定でもないので、「掃除を任された男」くらいで十分かと。

行動的に若そうなので「若者」でもいいかもしれません。仕事の合間に掃除してるとか。


>すっかり埃を払ってしまうと、男は新しい宗教の洗礼を受けたことも忘れ、神聖な気持ちで天使を眺めました。


ここら辺、男の宗教観が気になるところです。

強制的に改修されたことへの不満とか、天使信仰との距離感とか。

男の反応は完全に恋愛のそれですが、まだ信仰があれば、そうはなりにくいものではないかと。宗教と無関係なら理解しやすいんですが。


>その時男は、一瞬だけ見た天使の微笑みに、熱烈に恋をしてしまったのです。


なので、ここで恋と断言してしまうのは多少違和感を覚えます。

私なら、信仰とも恋とも取れるくらいに説明を濁すはず。

その方がありそうですし、どのみち本筋に影響しないので。


>あの微笑みをもう一度見ることはありませんでしたが


男の行動のように読めて、伝わりづらいです。

「天使が微笑んだのはあの一度だけでしたが」


>天使とのふたりきりのひとときをとても幸せに思いました。


ここの漢字の開き方が謎です。

基本的に難しい漢字から開くものですが、「二人きりの一時」を開く必要性を感じません。

よくて「二人きりのひと時」ですかね。

むしろここを開くことで「何故もっと難しい字は開かないの?」と疑問を覚えました。


>誰かに見つかろうものなら、

「教会に」の方が的確かも。村人なら見逃してくれるかもですし。


>ただちに焼き払われ、

「絵は」と書いた方がいいですね。


>女はずっと以前から、ひっそりと、そしてしたたかに、男のことを愛していました。


「したたかに」が強烈な違和感を放っています。

したたかに愛するって、どういう状態なんでしょう。

私にはイメージできません。私なら「執拗に」、子供向けなら「ヘビのように」。

女の感情の説明がないので、どの表現が適切か迷うところですが。

女のスタンスが謎が多すぎて、いまいち感情移入できません。


>男が心を奪われているものが、こんな場所にあるのだろうかと、女は不思議に思いました。


この一文も不要ですね。

それより女についての情報がもっと欲しいです。

行動が異常なわりに、女の動機というか「何故そこまで好きなのか」「何故気持ちを伝えないのか」という部分が説明不足で、薄っぺらくなっています。後述。


>女はその道を慎重に進み、たどり着いた壁に立てかけられている、やはり埃だらけの板をどかしてみました。


ここも不要です。削っていい文章です。

女が屋根裏を探索する場面を、何行も描写する必要はありません。


>怒りに燃えた女は肖像画を手に屋根裏部屋を飛び出し、その足で教会に駆け込みました。


まあ、そういう性格だといえばそれまでですが、恐ろしく短絡的ですね。

このまま男が逃げたら、二人の関係は何一つ触れられないので、話が深まりません。

私なら、ここはもう一捻りします。

例えば、

「女は男を呼び出し、肖像画を見つけたことを話す。

 教会に知られる前に焼いてくれれば、このことは二人だけの秘密にする。

 何故なら、あなたを愛してるから」

という感じで恩を売りつつ告白に持ってく。で、

「男にはその気がないものの、自身が危ういことを改めて認識。

 焼くと約束して肖像画を返してもらうも、絵を抱えて村を逃げ出す。

 女はそれを知って激怒、教会に通告した上、悪魔を呼び出す」という感じ。


肖像画は男が持って逃げた方がドラマティックな気がします。

そのせいで追いつかれたという理由づけにもなりますし。


>ああ、天使なんか殺してやりたい! そのためなら――悪魔とだって契約してやる!

>以前、村の極一部で秘密裏に行われていたという悪魔信仰は、村の禁忌でありました。

>悪魔は天使の消滅を目論み、天使を祀る人々を不幸に陥れる存在です。


いきなりの悪魔登場、唐突感が否めません。

全員顔見知りだろう小さい村で、悪魔信仰とか可能ですかね?

天使の絵を隠し通す以上に至難だと思いますが。

それに、人口の少ない村で悪魔信仰を増やす合理的な理由も見当たりません。

悪魔だって教徒が簡単に増やせる都会を狙いそうなもんです。

というか、新宗教についてはだんまりなんですかね、この悪魔。


なので私なら、女の個性の肉付けにそこらの説明を用います。

後述。


>憎しみのあまり、女が口にしてしまった悪魔の名。

>その強烈な負の感情を受け取り、悪魔は人知れぬ闇の中で、永い眠りから覚醒しました。


ここの描写はなかなかいいですね。


>――呼んでいる者がいる。この悪魔との契約を望む者が。


判断に迷うところですが、私なら悪魔に内心や台詞は与えないと思います。

その方が神秘性があり、想像の余地が膨らむので。

邪悪な笑みとか、表情で十分表現できそうですし。

天使も同じで、今作でしゃべらせなかったのは正解だと思います。


>ついには、谷底の見えない崖縁にたどり着いてしまいました。


簡潔でわかりやすい場面転換。よいかと。


>本来ならば、天使のきまりとして、人間の前に姿を見せることはご法度です。屋根裏部屋の絵に宿ってひと休みした時に、男に姿を見られたことは、天使の過ちでした。


「絵に宿って休む」という設定は、独創的でとてもいいと思います。

聞いたことがないですが、不思議と説得力があります。


>憎しみに顔を醜くゆがめた女が、大鎌を手に現れました。


大鎌といえば死神のシンボルですが、まあいいでしょう。


>咆哮を上げたのは、天使を庇った男でした。


ぶった斬られて咆哮をあげるのは変です。悲鳴かうめき声、もしくは無言かと。

私ならここは鮮血を受けて「それは天使を庇った男のものでした。」

で、声については説明なしで繋げます。無言てことですね。


>しかし次の瞬間、辺り一面に白い羽根が舞い上がり、男の体は無傷で崖の上に戻されました。

>自分を庇った男に命を譲り、天使は羽根を残して消えてしまったのです。


ここの展開はゲーム的なチープさで、好きじゃありません。

天使の対応にも疑問を覚えます。後述。


>女の心は改めて、嫉妬と憎しみに燃え上がりました。

>女は迷うことなく、再び男に大鎌を振り下ろします。


女性心理として、浮気の際に女は憎んでも男に手は下さないものです。

……なのですが、まあ悪魔に唆されたと考えればアリかなーとも。

「憎い天使は、まだ男の中に生きている。」は、なかなか心を抉る台詞ですしね。

ただそうすると、悪魔は喋らせざるを得ないのかw


>これでもう、私たちの邪魔はいなくなった――さあ、一緒に帰りましょう。

>女の伸ばした手は、血に濡れた羽根を掴むばかりで、男に届くことはありませんでした。


ここ、何が起こったのか全然わかりません。

女が動けなくなるとしたら悪魔に魂を取られることくらいのはずですが、そうなら明記すべきでしょう。

羽根も何かの暗喩とは思いますが、効果はイマイチ。

わかりづらさが先に立っています。


>すべてを見届けた悪魔は、不気味な嗤い声を残しながら、どこかへと消えていきました。


筋的に無理はないですが、面白みはないですね。よくあるパターンです。

どうせバッドエンドにするなら、このテンプレくらいは打破しておきたいもの。

後述します。

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