【13】コックロビンよ、さようなら。(小鹿) 読みながら感想
【13】コックロビンよ、さようなら。(小鹿)
https://kakuyomu.jp/works/16817330648772750884
昨日は一日空きまして、申し訳ない。
疲れからか気力が抜けてしまって、余暇時間をぼんやり過ごしてしまいました。
やはり睡眠三時間は、脳に来るのでよろしくありません。
それに今回は、気力充実した上で臨む他ないお相手ですから。
ということで、十三回目の作品は、満を持してのご登場、小鹿さんの「コックロビンよ、さようなら。」です。
小鹿さんは二度目の参加で、前回の企画をご覧になられた方なら忘れがたいインパクトを放っておられました。
前回参加の作品は「ハンガリー寄宿舎BL」という、どの要素を取っても梶野の専門外の本格派。技術的、文章的に梶野より遥か格上の作品でした。元々西洋の歴史研究が趣味という方で、今年、社会科教諭になられたそうな。当時から歴史の造詣深く、はっきり言って「何故うちの企画に参加を……」と思ったくらいですw
言うまでもなく梶野にそんな知識はなく頭を抱えましたが、あくまでエンタメ書きの門外漢として、理解が難しすぎると感じた箇所の指摘や改善案を絞り出したところ、近況ノート五枚くらいの返信をいただき、さらにその後のやりとりで、「アフターサービス用」のノートの大半が埋まるという事態に。小鹿さんの専門知識に、私が漫画知識で突っ込むというアレな展開は、今見ても涙をそそります。私が「ラスボス」と恐れる所以ですw
ですが、作品以上に長いやりとりを続けたおかげで、ジャンルは違えどお互いの考えや方向性を理解できた気がしますし、勉強にもなりました。趣味は違えど、これぞ本物という感じで、最後は尊敬の念すら覚えたものです。熱意はあれど物腰は丁寧な方でしたし。
ちなみに去年のやりとりは、過去ログからご覧になれます。
興味持たれた方はこちらからどうぞ。小鹿さんは【22】です。
私も思わず読み返しましたが、本当にすごいですよ、もう色々。
https://kakuyomu.jp/users/kamemushi_kazino/news/16817330647890943183
今回、再びじっくり感想企画を開催するあたり、やはり考えたのは小鹿さんが再び参加されるどうかでした。
最高に大変だった半面、大いに刺激を受けたのも事実。とはいえ、流石にもう文学素人の企画に来られることもないか。
そんな風に考えていましたので、参加表明を受けた時は跳び上がりましたね。ついに「ラスボス」が来た!とw
順番的にはまだ後があるので「中ボス」ですが、私としましては気合を入れざるを得ません。
そんな小鹿さんのアンケート回答はこちら。
お久しぶりでございます
小鹿です
今回も文字数が少々オーバーしておりますが、手紙形式の短編作品にて参加させていただきました
よろしくお願いします
『コックロビンよ、さようなら』
・特に意見が欲しい部分
主人公サミュエルとロビン、それぞれのキャラクター設定(生い立ちに基づく価値観、判断など)が、読み手にどのように受け取られるか
今回の作品も、社会体制や育成環境が個人のアイデンティティーに大きく影響するという前提のもとに書いています
一応、前回よりはライトにしたつもりなのですが(笑)、どうでしょうか
また、弁明の手紙という特質上、全編を通して、どうしても説明的になってしまうのですが、このあたりも読み苦しくなかったかどうか、ご意見お願いいたします
・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か
アドバイスお願いします
しかしながら、本作の舞台設定、キャラクター設定のままでは梶野さんも答えづらいかと思われますので、
「別ベクトルに感受性豊かな二人のキャラクターをどのように書き分けるか」
に対して、方策やご意見をお聞かせいただけると嬉しいです
私としては、手紙という一対一の密室を作ることで、
感情の発露をより引き出せる→感受性の違いを表現できる、
と考えて、今回の形式を選びました
(しかし、読者への前提提示+感情の弁明のため、ダブルで説明過剰になりがちというデメリット有りです)
梶野さんのご感想、とても楽しみです
よろしくお願いします!
──うはっ、流石に心得ておられる。お気遣いに感謝します。
覚悟を決めて、読ませていただきましょうか。
これぞ、大一番。
じっくり感想、始めたいと思います。
⬜️読みながら感想
二読後の感想を、読みながら書きます。
言うまでもないですが、私より文章が達者な方なので、細かな誉め言葉は省きます。特に感じたところに触れる程度です。
>一、ロビンからの手紙
>艶やかな象牙の、未だ何にも形作られていない一本牙のような精神と君に評された僕だ。
二読してみると、なかなかの皮肉ですね。
象牙は白人の横暴の象徴ともいえるものですからw
>“Be patient till the last.”
「最後まで辛抱してください。」
こういうのがさらっと出てくるのが怖いw
>サミュエルよ、オークヴィル校に得た青春の友よ!
この一文でもうロビンの気質が感じられます。
生真面目で熱意溢れて、そしてうざそうw
>君が述べる。運動にはインディアの貧困が根底にあり、それは英国の重商主義に基づく圧政によると。
植民地時代の是非ですね。
高校に世界史がなかった程度の知識なのが残念ですが、アフリカの貧困とか現代に通じる話でもあるので理解できます。
日本人的には、欧米諸国の植民地と一線を画す方針でやってたこともあり、サミュエルの意見に賛意を示すところですが、当時の英国人にすれば、トーマスの見方が常識だったんでしょうね。
英国はいまだに身分制度が残ってるお国柄ですが、そこら辺もこの認識に影響してるでしょうか。いや、米国も奴隷制度とかあったし、白人系の傲慢という話なのかな? 先生にお尋ねしたいところです。
>君が反論する。貧困の連鎖は、断ち切らねばならない、と。
ここら辺、現代日本でも問題になっていますよね。
富裕層は子供を塾に通わせられるので、結果的に機会の不平等になってるとか。
最近は教育無償化の流れが地方から始まってますが、少子化対策とは別に国が関与すべき問題だと思いますね。
おっと話が逸れた。ともあれ、興味深い話題です。
>少年たちは学校に行けず、無学ゆえに、低賃金な茶摘み労働にしか就けない。
言っても英国側としては生活向上とかは建前で、国力つけさせたら独立されるのが分かってるから搾取に全振りしてるもんだと思ってました。エゲつないですが今も大差ない気はします。中国とか。
>君がインディアンの血統を汲む者だと噂が流れた。
文脈的に間違えることはないと思いますが、念入りに誤読を防ぐなら、「インド人」にインディアンのルビを振ってもいいかと。
>君は徹底してインディア個人の視点に立ち
ここは「個人」は不要では。
インディアは国名ですよね? 「日本個人」と言わないように。
>一瞬、悲しみの情動を認めた。
ここはもう少し口語に寄せていい気も。
いや、感情が昂って詩的に書いてる可能性もあるか……
>「君には決してわかりえないだろう、君は恵まれた人間だから」
同じく、手紙形式に台詞だけ引用すると、小説的に感じて微妙に違和感があります。「君の言葉だ。」のような説明があると和らぐんですが。
>それなのに、君は微笑んで、実に静かに僕の境遇の幸いなることを肯定した。
一読目はあきらめの境地なのかと思いましたが、最後まで読んだら最後通告でしたw
>こうして親の貧困が、負の遺産として子供に受け継がれていく。
ここら辺、現代でも変わりませんよね。
資本主義の宿痾なのかもしれません。
共産主義以外の解決策はないものか……
>一月後に訪ねてみたが、簡単ではないと思い知らされた。
そういや、当時の日本の識字率の高さは寺子屋制度が大きかったとか聞いた気がします。
英国はどうだったんでしょうね。植民地以前に階級下の方の教育制度って。まあ日本でも「職人は学校行く必要なんてない」てな時代もありましたがw
>君もそこにいたんだね。僕がオークヴィル校に通っていると伝えたら、博士は「サム」を知っているかと尋ねられたよ。
ここ、どのタイミングなのか、気になります。
ロビンは二年半つきあった末にサムに打ち明けられるまで、サムの出自について知らなかったと読めます。博士からこの事実を知ったのは、当然それより後、数カ月の間ということだと思いますが、明記があった方が読者に伝わりやすいかと。
>これが、不平等な社会の恩恵を受けて幸福に生まれ育った僕の、最大の還元だと確信している。
おおう……w
>君の苦労に思いを寄せ、君の悲しみに憐れみを示す。
そういうところだと思う。
>「この一本で始めた勉学が、君の人生を変える。生まれは選べないが、知識は君たち自身で獲得できるのだ。運命に抗いたまえ」
この台詞の、後半のひっくり返しぶりがいいですね。
ロビンが感銘を受けた言葉だけに。
>二、オリエンタル・スワロウへの手紙
>今の僕には、思春期の激情を受け止める余裕はない。
「思春期」は違和感を感じました。
もちろん意味合いは正しいんですが、思春期という言葉は大人が振り返るものの気がするので。思春期真っただ中の人間が一番使わない言葉でしょう。「この激情」で十分かと。
あーでも、自虐として使ってるかもしれないか。うーん。
いやでも、それでも私なら使わない、かなあ……
>生玉子を矢継ぎ早に手渡されると想像してくれたら、大きくは違わないだろう。
上手い例えですね。
>まず、ユーラシアンについて。欧亜混血児のことだが
説明が入ってるのはありがたい。
>僕の場合、母方の祖母がアーリア系インディアンで、母が一世のユーラシアンだ。
肌の色から察するに、インディアの血は四分の一なんですかね。
ここ、父親の情報はありませんが、白人かインディアンかだけでも知りたいかも。
祖母がユーラアシアンというだけなら、その娘はインディアと結婚したのかもですし。サムの父が白人かインディアンかで、かなりイメージ違ってきますので、必須でしょう。ここではっきり触れた方が、キャラの輪郭が立つと思います。「ユーラシアンお決まりの話」だとしても、読者の大半は知らないことですし。
>僕の引き渡しを拒否する母を責め続けた。
ここやこの後も母の存在は大きく描かれますが、父親は触れられませんし。死んでるのかレベルで。まあ父親も白人で放棄された状態かなと想像はしましたが。
>ちなみに、ダージリンは谷を挟んだ山向こうにあった。
へーへーへー。
>僕みたいに見た目がほぼ白人の子供は、養子の貰い手がまだあったんだ。
白い子供しかホームに行けないのかと思ってました。
>父は、アッサムの母を探してはくれなかった。お前の母はこの人(養母)だけ
なぜ義理の母は養母なのに、父は養父でないのかが不思議です。
それと何故、母を探す必要があるのかが謎。
「行方知れずになった」ならわかりますが、普通なら同じ場所に住み続けているのではないですか? もしそうなら説明が欲しいところ。
でなければ、「母の住む町に近づくことすら禁じた」とかの方が理解しやすい気がします。
>ともあれ、十三歳の秋、ベンガルの屋敷から出された僕は、
十一歳で拾われて、二年間の猛特訓ですか。
もっと幼少から拾われてたら、ロビンと変わらない家庭環境だったんでしょうが、二年ではねえ……生粋の富豪と成金みたいな感じですな。
>打ち解けきらない僕にも、温かく接した。
「接してくれた」だと思いますが、この前に「気に掛けてくれた」があるからですかね。でも「接した」は違和感。
>君はなぜ彼がロビンと呼ばれているか、ご存じかい?
このロビンのエピソードは秀逸ですね。
ロビンの上流階級的な甘さを示すと同時に、英国側のシンボルとしてニックネームを与えている。お見事です。
それをサムが辛辣に評する気持ちも、よくわかります。
>鉛筆の一本すら、使用管理帳を付けて父に報告しなければ、削り出せない僕だ。
ここで伏線を撒いてるのも流石の一言です。
>貧困が学問対象になることにも、貧困を道徳規範に帰結させることにも、驚きと言い表せない不快とを覚えた。
ロビンに悪気はないんでしょうが、現地人にすればそりゃあねえw
>彼の手に湧き出でるシェケル銀貨よりも、僕のレプトン銅貨二枚の方が尊いと、心の中で訴えながら。
うへっ。見事な表現過ぎて舌を巻きました。
>サミュエルたる僕は喜びと憧れに笑顔で応じるが、貧しいサム少年の心は彼を仇のように憎む。
大変わかりやすい心理描写だと思います。
>ノイローゼになっていた。英国人を演じて、疲れ果てて、夜も眠れない。
うううむ。さもありなん。
>会の主催者は、ロビンが生まれたときに産着を贈ってくれた人物らしく、夫人は懐かしそうに、「坊やも大きくなったわね」と言いながら、彼の頬へと手を寄せた。
ここ、「会の主催者は~」から「夫人は」と続くので、主催者の夫人かと誤読しました。その後のロビンの台詞でわかるとはいえ、「彼の母親は」の方がスムーズに読めるかと。
>悲しみと孤独とに冷えた頭は不思議と冴えて、心理的忍耐の限界が近いことを報せ、ロビンから離れるか、自身の感性構造を変革させるかの二択に迫られていることを警告する。
ここは悪文寄りだと思います。
>「祖国の同盟相手をご存知ないか? 覚えておきたまえ、大日本帝国さ。そして、僕はスズチカ! 侍の一族、アオイ家の長男だ!」
かっこよすぎるw
英国貴族と日本の武士(士族)は、わりと共通点多かったと聞いた気がしますね。
>君は言ったね。人はよく知らない者を侮る。もしくは、恐れる。しかし、侮られることは恐れられることより、なお幸いだ。
なかなか個性的な論です。
確かに恐れられていては、友人にはなれませんね。
>英国人の無自覚な差別というか、無関心ゆえの偏見な認識を、ひとつずつ解いていった。
こういうキャラが一人いると、物語の風通しがぐっと違ってきますね。
>二月の末、孤児院からの手紙で、その少女が脱走したと報された。ロビンは僕へと紅茶を注ぎながら、救貧は入れ込んではいけないと諭した。
贈った靴のおかげとも言えますよねw
まあこうも無邪気に悪しざまに言われては、サムがキレるのもわかります。
>ダージリンが注がれた白磁のノリタケには、藍にて園亭パヴィリオンと柳とが描かれ、空には燕スワロウが飛んでいた。
ここの暗喩。園亭と燕はわかりますが、柳がわかりません。
なんだろう?
英国社会の風の中で耐えてきた、サム自身?
>出自を恥じない強さが欲しいと思った。ロビンを愛するからこそ、ロビンにも「サム」の心を知ってほしいと思った。
こう思う気持ちもわかる気がします。
ただ嫌ってるのではない。彼が悪いわけではないと理解した上でなお、互いの出自から来る違いに耐えがたい、ということなんだと理解します。
ここでブチまけたのも、ヤケクソだったのでは、とさえ思います。
>オリエンタルは、美としてのみ愛されるんだよ。
ここら辺は英国というか欧米の偽らざる本音でしょうね。
シノワズリとか。
ああっ、また先生から長い返信が返って来そうな予感w
>心理的忍耐の限界は、なんとも静かに訪れるものだと知った。
ここら辺の「静かな臨界点」という描写は、実感溢れていて、説得力がすごいです。キャラにも合っています。
人間関係が本当に終わる時って、逆に大騒ぎじゃないですよね。自分の中でピリオドを打つ感じ。少なくとも私はそうです。
>僕は、少なくともインディアの貧困は、英国社会に富を供給する植民地としての役を負わされる限り、解決の糸口も掴めない問題だと思うのだけど
私もこちらに同感。
個人の資質でなく、社会構造の問題だと。
>僕は白磁器チャイナのように東洋美として彼の側にありたいわけではないけれど、僕をどのように愛するかは、彼の物語において、彼の自由だから。
うへえ。上手すぎる……
>と、言いつつ、こうして長々と手紙を書いた僕は、美しくないままに愛されたいという弱さを律しきれなかったわけだ。
ここら辺の矛盾が、人間らしくて愛せますね、サム。
> 君の厄介な上級生、サミュエル・ボウより
ううむ。控えめに言っても傑作ですな。
めちゃくちゃ面白かったです。
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