【09】天道虫を抱いた男(島流しにされた男爵イモ) 総評
【09】天道虫を抱いた男(島流しにされた男爵イモ)
https://kakuyomu.jp/works/16817330657477085255
⬜️全体の感想
・タイトルについて
プロ作品のような、素晴らしいタイトルです。
強いインパクトがあり、引き込むような訴求力があります。
どこか退廃的な空気も感じられ、作品の雰囲気にも合っていると思います。
お見事という他ありません。
・文章について
総じてレベルが高く、安心して読めました。
SF的な捻りの利いた比喩、センスある言い回しも見られ、ニヤリとすることも度々。書き慣れておられる印象です。
指摘するとすれば、まず一本背負い前の男の動き。
まあ手を加えればすぐ解決すると思いますが。
あとは、セクサロイドに対する表現の揺れから、男の心理がぼんやりとしか読めない感覚はありました。まあこれは狙い通りなのかも。
そうそう、男の心理描写について。
ナンセンスというタグがついていたので、もっとイカれてるかと思っていましたが、そこまででもなく読めました。
これがちょうどよかったのか、作者的には失敗なのかの判断はお任せします。私的にはもうちょい狂気を含んでもいいかも、とは。
セックス描写については、この作品では問題を感じません。むしろ雰囲気作りに必要だと思います。
・内容について
導入部については、文句なしです。
謎めいた「天道虫」というキーワード、わかりやすい男の動機や行動、セクサロイドの描写など、ぐいぐい興味を惹かれました。
中盤辺りから、特にセクサロイドの設定について、ん?と思う部分が増え始めました。終盤、ミステリーのようにおよその真相は明かされるわけですが、
・セクサロイド派遣会社は、何故主人公を訴えないのか
・派遣されたセクサロイドの対応が無理やり
・秘密の隠し方がイマイチ
・「柔道プレイ」を忘れるとか、ありえない。
・「頭から天道虫」が不可解
・結局、「天道虫」の条件とは何だったのか。
くらいが疑問として残り、すっきりはしませんでした。
ミステリーとしては片手落ちの内容かと。
そうではなく、あくまで不条理小説、「天道虫」に血道をあげた男の狂気を主軸に物語を評価するなら、まず「柔道プレイ」が雰囲気を台無しにしてるのがマイナス評価。そこまでのハードボイルド寄りの空気が、一気にスポーツライクになりましたw
セクサロイドを殺すカタルシスと言うのは予想してましたし、例えば首をへし折りながら絶頂するとかなら、予想内ながらも評価したと思いますが、あの死に方だと、もはやセックス関係ないですしね。絶頂とだけは結び付けた方がよかった気がします。というか、その前に天道虫が頭に出て満足してるのは一体……柔道は本当に必要だったのかと言いたいです。
もう一つは、ラストシーン。
セクサロイドが復讐するという展開も謎過ぎですが(三原則とかどうなってんの?)、そこはまあ置くとして、川に沈めて天道虫に繋げるのは無理があり、最後の一押しがイマイチに終わっています。
アドバイスなしなので多くは言いませんが、この展開ならどんな殺し方でも繋げられるはず。もっと天道虫に相応しい最期を選ぶべきだと思いました。
「作者の意図が読み取れたか」という質問については、読みながら感想で細かく書きましたので割愛。ナンセンス系読み慣れない一個人の感想として、そこから読み解いていただければ。
⬜️総評
・文章力は十分。導入は完璧。
・「天道虫」の謎ときは消化不良
・細部に残る謎をナンセンスで片付けるべきか
私はナンセンス系はわからないので、かなりミステリー寄りの評価になりました。
全体的に「惜しい」という感想ですね。
ミステリの構築も情念を突き詰める部分も、最後の方で詰めを誤ってしまっているというか。前半がいいだけに余計に勿体ない。
これだけの文章力がおありなので、後は言い訳を逐一考えて物語に混ぜ込み、真相を読者からぼかし切ることを意識されれば、もっとよくなると思います。ミステリ的な書き方、発想ですが。強化ポイントは「騙す技術」ですね。
あとは、前半に見合う後半のインパクトの比重。
なまじ前半が良すぎたので、ハードル上がった感は否めません。
さらなる研鑽に期待します。
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