【08】猫の母の恩返し(バルバルさん) 総評


【08】猫の母の恩返し(バルバルさん)

https://kakuyomu.jp/works/1177354055349743213



⬜️全体の感想

・タイトルについて

「鶴の恩返し」などの昔話のオマージュ、というかまんまですね。

このタイトルの時点で、内容はほぼ読めるわけで。

展開を隠す気があるならナシなタイトルですし、逆に昔話との違いを読ませるつもりならアリだと思います。


本作の場合は、内容的には明らかに隠す気がないと思えるのですが、昔話との差別化や意外な展開もさしてないので、どちらにも取れない平凡なネーミングになってしまっています。


まずは内容をどちらに寄せるか、決めてからタイトルにこだわるべきです。


・文章について

まだまだ書き慣れず、固い表現が目立つ印象です。

同じ言葉、同じような内容が繰り返されるので冗長に感じますし、説明的になりすぎるきらいも感じました。


反面、丁寧に説明を尽くそうという姿勢は感じられ、そこは長所だと思います。


切れよく、それでいて過不足なく情報を出す文章の習得には、まずは読者の視点を意識することが大切です。バルバルさんにはそれが備わっています。


次にすべきは、読者視点から見て、必要なものとそうでないものの選別です。


情景を思い浮かべるのに、どんな情報が求められているのか。

逆に、書くまでもなく読者が想像で補ってくれるものは何か。


この辺りを意識しながら。プロ作品を読んで自作と比べてみてください。歴然と違うはずですし、学ぶところは多くあるはず。


文章が上手いとか魅力とか個性だとかは、その後の話です。


なお、繰り返しはダメと言いましたが、意図して繰り返している狙いがあるのはわかります。昔話的な雰囲気を出す狙いだと思いますが、それは評価します。ただしそれは限定的に、はっきり読者に伝わる部分だけにしましょう。冒頭と締めくくりのように、明確に伝わる形ならアリということです。


それ以外の、普段の文章運びの中で同じ言葉が繰り返されるのは、読者にはくどく冗長に思われるだけなので。


・内容について

ありていに言って、「鶴の恩返し」のフォロワーという印象を超えられていません。

この手の名作をベースにした作品には二種類考えられます。


一つは原作を元に新たな物語に仕立て直したり、新要素を加えて別の面白さを引き出すこと。


もう一つは、名作と見せかけて裏切る展開。読者の意表をつき、驚かせることで価値を生むタイプの作品です。


今作は前者寄りですが、残念ながら別の面白さを引き出せた、というほどではありません。丁寧に書かれていますが、「鶴の恩返しと大差がない」と言われても仕方ない部分があります。


その理由は、めぼしい新規要素が「母親であること」「すでに死んでいること」しかないことでしょう。細部を変えただけで物語の展開はほぼ同じです。


ラストも悪くはないのですが、テーマが読み取れるわけではないので、男が救われるというだけに思えます。読後感はさっぱりしても、満足度が低いのです。


男の思考が丁寧に掬われている点は褒められますが、普遍的な人物だけに意外性はなく、物語に起伏を起こすに至りませんでした。


「仕立て直し」か「裏切り」か。

そして、どういう要素を持ち込んで、読者を惹きこむのか。

まずは、そこを見つめ直してみてはいかがでしょうか。



以下、細部の気になった点、改善提案を書いていきます。


>隠すか隠さないか

本作はタイトルからして、「鶴の恩返し」的な物語であることを隠していません。

本文中でも、子供が仔猫である示唆が露骨に繰り返されていましたし、そこから昔話を裏切る、予想外の展開に発展していたなら、タイトルも示唆も大正解だったと思います。


ですがそうではなく、本作のアレンジは発展型でした。

こうなると全てが逆風です。タイトルから「鶴の恩返し」をイメージし、読みながらも母娘の正体はバレバレだとわかった上で、最後にどう違うオチが来るのかと思っていたら、「鶴の恩返し」と大差ない終わり方をするんですから。

むしろ何故、このタイトルを選んだのかって話にもなります。


発展型を選ぶなら、まずタイトルは「鶴の恩返し」を想起させないものにすべきです。そうすれば展開が読めず、ある時点で気付くまで、読者はわくわくして物語を追えます。過度の期待も抱きません。


内容的にも、母娘の正体については可能な限り隠し、ヒントもわかりにくいものにすべきです。いかに後半まで「鶴の恩返し」であることを読者に悟らせないか、という工夫こそが肝要です。読み終えた後に「これ、鶴の恩返しだ!」となるくらいが理想ですね。


後は、ミスディレクション型という手法も考えられます。

母親の描写に妖怪ぽい部分があったので、それを膨らませて妖怪系のホラーだと思わせての人情話とか。猫の性質をうまく利用すれば、そう難しくもないかと。


逆に恋愛物に寄せてホラーエンドという方向も考えられるでしょう。題材が共通してるのは強みだと思います。


いずれにせよ、重要なのはオリジナリティです。

丁寧なだけでなく、強い作者の主張、アイデアがあってこそ、ベースありきの作品は評価されるものです。今作で何を訴えたかったのか、改めて見直すべきでしょう。


>夫婦のような事でもしてみるか。問題

これを男から言い出すのは、やはりよろしくありません。もちろん気が大きくなったとか、フォローを試みているのは伝わりますが、家主がそれを言い出すと普通に人でなしに見えてしまいます。


というかわざわざ口にしなくても、チャンスは幾らでも作れるでしょうから、それとなく接近させて、致してしまえばいいと思いますよ。


ちなみにここの二人が赤面する描写は、嫌いじゃなかったりします。過程が問題というだけですね。


・時代はいつ?問題

全体的に、いつの時代かを特定するワードが少ないです。推測ですが、元は昔を前提に書いていたのを現代に変更した名残りとかじゃないですかね。


イメージ的には昭和の田舎町って感じですが、やはり短編だと想像が難しくなるので、早いうちに特定出来るような描写を入れた方がいい気がします。


これがなかなか難しい指摘でして、時代をあえて特定させないことで、読者を驚かせる構造にもできそうなんです。今のところそういう効果はないんですが、意図的に特定される単語を排除すれば、面白い仕掛けを作れそうな予感もあります。せっかくの時代不明の舞台、おもしろく使いたい気もするので悩ましいところ。


とりあえず、現時点のシナリオなら時代説明すべきでしょう。

舞台を現代にするなら、もう少しリテラシーを増やした方がらしいかもしれません。



・アドバイス回答について


>ラスト付近の是非等について、特に意見をいただきたく思います。


前述したように、「鶴の恩返し」を超えてはいない印象です。まあ感情の機微とかは超えてると言えますが、物語の大筋とかテーマの部分ですね。


新たなテーマとか、すぐには出ないでしょうし私も出ないので、「梶野ならこう書く」含めて、この流れからのラストの強化を考えてみましょう。

ラストに猫が現れるオチはいいと思うので、これを強化しましょうか。(現状の締めくくりでも、特段に問題がないとは思っていますが)


まず前提として、母の過去話の際に、「乳が出ずに他の子は死んでしまった」と薛明させます。猫は多産ですからね。


その上で、最後に現れる仔猫をたくさんにします。

色は基本白で、ちょいちょい違う色も。


つまり、母親は男の子供を身ごもっていて、すでに死んでいる母娘は天に召された(宗教違うけど)が、お腹の子供は仏様の計らいで無事生まれたと。読者なそう読めるように描いて、物語を終わらせます。

もしかするとバルバルさんも、そういう設定で最後に仔猫を出したのかもですが、それを強化する感じです。


まー人間と猫で子供が出来るのかとか、色々疑問はありますが、そこは昔話パワーで。まあやることやってましたし、いいんじゃないかとw


わいわい増える仔猫に翻弄される方が、男も悲しむ暇がなくていい気がします。たくさん牛乳買って来ないといけませんね。


……みたいな感じで、いかがでしょうか。



⬜️総評

・丁寧な話運びだが、フォロワーの壁は超えていない。

・文章はまだまだ。でも読者視点はある。

・課題があるとすれば、アイデア、オリジナリティ。


読者視点というのは、「読者が何を知りたがっているか」を感じ取る技術で、独りよがりにならない為には必須ですが、これは意識しておられると見ました。後は慣れでしょう。


文章も、背景を心情になぞらえたり、工夫しているのが伺えます。ただし曇天とかは訂番も定番なので、バルバルさんならではの表現を探すのが次の課題でしょう。それがオリジナリティに繋がるはずです。


物語の構成やテーマも同じく。常に「他にはない、自分だけの何か」を追求してください。例え挑戦が失敗しようとも、無難にまとめるよりずっとましです。


今作も大きな穴がなく、奇麗にはまとまっていますが、驚きや感動は乏しく小ぶりです。そこに名作フォロワーとして新しいものを要求されたがために評価を落としてる面はあります。文章同様、作品全体にも読者視点を働かせれば、作品を俯瞰して改善しやすいと思いますよ。


次があるなら、完全オリジナルの作品を見たいものですね。応援しています。


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