【05】風音(伊草いずく) その後のやりとり


【05】風音(伊草いずく)

https://kakuyomu.jp/works/16817330653422384796



□伊草いずくさん:

まずはお礼から。ガッツガツに読み込んでくださって、また細部までご指摘くださって、ありがとうございました。


一番いただけて助かったのは「文章が凝りすぎ」というご指摘でした。

日本語を自分の心地よいように崩して使っていて、それが読者の方に違和感(や、あとたぶん不快感)を与えてしまっている。

「かなり崩した日本語を使っているらしい」までは自覚があったのですが、それも気づけたのは最近のことで。具体的に「ここはこう引っかかった」と仰っていただけたことで、よりはっきり認識できるようになりました。

体言止め多すぎ問題は引っかかる方と引っかからない方が明確に別れていて、かつ引っかかる方には「かなり引っかかる」とご意見頂いてて。つまり内容以前の問題で読者の数をゴリゴリ減らしているわけで。

目下落とし所を探して矯正中なのですが、その辺もっと気をつけたく思いました。


次にありがたかったのが、「読者に伝えたいことは、もっとしっかりはっきり伝える(くらいに心がけた方が自分にはよさそうである)」。

一つには「それはもっとはっきり書かないと伝わらないよ」という意味で。もう一つには、「要はどういうことなのか、を頭の中で整理しそこねかねない」という意味で。もっと要点を整理してから、そこが伝わるようきっちりイベントとして表現しなよ、と。


そして最後に、「話の起伏、イベントの連続としてのお話作りという視点」を頂けたのが大きな収穫となりました。

「こんなゆっくりイベント一個一個を消化してて間に合うの!?(そして案の定間に合わなかったように読んだ)」というご指摘はためになりました。

その観点からすると、イベント一つ一つの目的も分かりづらかったり機能不全起こしてたりするし、紙幅をもっと大事に使うべきなのに表現も贅肉だらけで使い切っちゃうし、となるのだなと。

長編のテンポで書いている、というお言葉もこれと合わせて受け止め、納得しました。

紙幅がギリギリになるだとか、内容が薄いだとかいう点が課題にあったのですが、自分では上手く掘り下げられずにいて。

それが今回、上で挙げた強調と要点整理の課題と合わせて、イベント一個一個の練りに際する意識のあまさ、観点の少なさ、そしてそこから来る管理のずさんさ(浪費癖)としてまとめられたように思います。


ありがとうございました!



他にも拝見したことで、「ここは胸をお借りしていくつか伺った方がよさそうだ」と思った部分があったので、以下記していきます。


□伊草いずくさん:

・“アリ”だと思っていた表現や作りがダメだった理由について(前提を間違えたのか? 単に下手すぎたのか?)


表現でいうと、「甘えありきの言い訳」や、「勤務時間」の辺りです。

作りでいうと、「全編通して、出来事ではなく男性側の心情とその背景を書いて終わる短編」だったところです。


ダメだった原因の一端は、自分の下手さ、つまりイベントをもっとはっきり伝わるように処理しなかった自分のユルさにある、と認識しています(さすがに何も起きてなさすぎ、お茶飲む以外は雑談しかしてなくない? あと〆が心情の変化を促すイベントなしで変化っぽいこと起きてるけど? とか、まさに)。

しかし同時に、“アリ”だと思っていたものが“ナシ”だったのだろうか? という懸念も持ちました。そのありなしに関わる部分の理解を深めたくて、お話伺えたらなと。


何が“アリ”だと思っていたかというと、一つはスパン、文面をさらっと読んで意味のまとまりを取る時の、取るスパンが長めなことです。

もう一つは起伏のありなしです。極端な出来事は起きていないけれど、日常の何ということもない時間経過の中に読者の興味をそそる情報があり、それらを味わったあと変化のきざしを書いて終わる。そういうタイプの、明瞭な起伏が薄いお話(僕の今回のは変化のきざしが唐突に出てきてて起伏以前の問題ですが、置いといて)。リアリティラインが現実寄りで、会話がシンプルで端的というより、入り組んでいるぶん含意に富む、というような。それでいて男性が女性に都合よく脱臭されているくらいの塩梅は、作家でいうとよしながふみとかヤマシタトモコ辺りの少女漫画文脈から持ってきたつもりだったんです。


スパンについては、「いくら何でも長すぎ、そんな長いスパンで読んでくれる読者はいないと思う」かどうかを伺えたらと思っていて、起伏については、「こんな短編はない(実在するお話のタイプを曲解していると思う、それこそ長編の一話目とか)」かどうかを伺えたらと存じます。

あるいは、「スパンや短編のあるなしのような、前提の間違いが原因なのではなくて、ひとえにイベント処理の下手さだけが問題だった」というご指摘とか。


以下はスパン、読者の興味をそそる情報、についての具体例です。


「甘えありきの言い訳」は、

1.受けるかどうか迷っているのを(親しい仲なので)気取られる

2.何故迷っているのか(風香を意識し始めたせいで仕事に支障が出ている)を色々な意味でまだ言えないので、「すみません聞かないで下さい」の意を込めて婉曲に誘いを断る

3.最終的にこの件の返答は保留。「目処立ってない」仕事が終わらないのか終わるのか、あと少しでわかるので「片づき次第(この件引き受けるかどうかの)連絡入れます」で会話終了


というつもりの内容でした。

ここでは、「主人公と綾子は親しい仲である」「少し入り組んだやり取りがされる(作風の示唆)、仕事の相手であると同時に私的な繋がりもあると示される」「以前主人公は綾子に恋をしていた」辺りが興味をそそってもらえるつもりで配置した情報でした。

以下はイベント処理ベタとスパンの話です。

「迷っているのではなく断ろうとして言葉に詰まった」という解釈をさせてしまったのは、イベント処理が下手だったせい、つまり2が文意不明だったせいでしたでしょうか(そこで詰まって、1に遡って解釈を修正したりしたせいで、3まで一まとまりで読む、ということが出来なかった、とか)。

それか、やり取りが「片づき次第連絡入れます」の前に完結するのが普通だと(スパンの常識から)判断されたせいでしょうか。


「勤務時間」の話は、

1.風香の仕事が始まるにしては早い。ので家主側としてお茶を出そうとする。風香に「俺は仕事やってるからよろしくー」とするタイプではない、と表現する

2.次のやり取りは、「私が来たのだから“よろしくー”でいいんですよそこは」「そういうわけにはいかないよ」「じゃあ湯飲み暖めるところまではやってもらったんで、残りの工程は私がやりますよ、折半ならいいでしょう、ほらほら」という会話で、風香がペースを握りにいく関係性であることを示す

3.で、勤務時間って何? という疑問を持ち越して、風香って主人公の何なの? 相当打ち解けている感じだけど、で後半の最初に繋げる


という内容でした。

「男性としてちゃっかりしたところがない」「年の差、20歳くらいの女の子相手にキョドったり緊張したり、ディスコミュニケーションを生じさせたりしない」「そうなる恐れがあると内心びくつくほど女性全般に不慣れだったり、気心が知れていなかったり、性欲に代表される異性視を促すような下心があったりしない(少女漫画でよくいる、どうあってもキモオタには育ちそうにないタイプの根本的な女慣れがある男性である)」「のでこの話はある種の少女漫画文脈で読んでよい」「この話の主人公は、女性が恐怖を感じず魅力だけを安心して味わえる男性である」「その主人公がどのように風香に魅せられ、陥落しかかるほど情を寄せているかに焦点を当てて読んでもらっていい」というような辺りが、興味をそそる情報として配置したものでした。

ここでの3(で、勤務時間って何?)はスパンの話で、2について「いやそれなら3時半か、せいぜい3時過ぎって書くべきでは?」が下手さの話だと思っております。ちゃんと詰めないで書くからわかりづらくなるのだ、と。


以上でした! いかがでしょうか。


□伊草いずくさん:

すいません言葉足りなかった部分の補助書き込みです!


>意識させるに至る風香のアタックと主人公の葛藤を(描いて)こそ


この辺り、「どういうジャンル(どんな風にリアリティラインが引いてある、どういう作画のお話)か?」の提示を自分がミスったのだな、と思っていて。

「女の子がアタックしまくって男側がタジタジ」をもっと強調するにはどう書くか、考えてみたんです。そうすると自分の実力では、短い紙幅の中でこなすにはキャラの……なんだろう、トゥーン度というか、フィクション度合いが必要だという結論になってしまったんです。

「響のマンションに近い大学に通う」「自宅からの通い。電車を挟むので授業の合間にはキャンパスで勉強する」「響の面倒見るついでに部屋で勉強させてもらう」辺りがやはり、今回選択したリアリティラインではギリギリの「ガンガン行く度」かなと。

そこを越えると女性側から、「“年上の男性に恋する子としてどうなの? 応援できない”度が高まり、引っかかって没入出来ない」「相手の迷惑(事案的な意味でも、それ以外でも)を考慮出来る、賢くてしっかりした女の子じゃないとねえ」が出ると思ったんです。

ただ、これは女性読者向けの(細かい男性の事情はあまり引っかからない)配慮であって、男性が主人公を「同性としていいやつ」と読めるような配慮ではない。自分(男性)なりに好きになれる同性を描いてみたけれど……と。


その文脈で、少女漫画も読まれる男性であるカメムシさんがどう取るかを知りたくお尋ねしたという背景があったのですが、そこ以前の「こういう少女漫画のノリなんです、を提示する」がそもそもしくじったせいで、こういうご指摘をもらうに至ったんだなと。


この点、「あーそこを間違ってたのね、じゃあこうかな」的なのがあったらぜひ!



■梶野:

>伊草さん


おおう、てんこもりw

とりあえず一枚目にお答えしときます。



>体言止め多すぎ問題


何を隠そう、私も昔は体言止め多用野郎でした。

雑話で紹介したマインスイーパとか、まだ体言止めの嵐ですよ。それでも受けたんだから、何が悪いんだと当時は思ってましたっけ。


私が体言止めをやめた理由は、やはり後輩です。「読むに耐えない」とかねちねち言われ続けて。でも私に言わせれば、体言止め多用するプロもいるわけで。結局趣味の問題だろうと、当時の私は譲らなかったんですよ。


私が自分の文章を見直しを考え始めたのは、復帰後です。読む趣味がラノベから一般文芸に移ると、確かに体言止め多用する作者は少ない。でもってちゃんと面白い。結局体言止めが駄目な理由は何なのか、自分なりに考えました。


結果、私なりに出した結論は、体言止めというのは、漫画の大ゴマとか集中線なのだと。

ここぞという時に使うからこそ効果的な体言止めを無駄に多用すると、ここぞという時の効果がなくなってしまう。


文章リズムの問題とかもありますが、私はそう納得して、体言止め制限のルールを決めました。


・基本的に体言止めは使わない。できるだけ置き換える。

・どうしても使うしかないところは、許容する。

・ここぞと言う時は躊躇わない。


以上が私流の体言止めルールです。参考になれば。

まあ使わなくなると、確かに体言止め多用文章が鼻をつくようになったのは事実です。後輩に負けたみたいで悔しいですがw


他の意見も、概ね伝わってるようで安心しました。


個別の質問も面白そうな話で楽しみなんですが、スマホでは限界なので対応明日にさせてください。夜は来客あるので。



□伊草いずくさん:

>体言止めルール

ありがとうございます! 頂いた感想、あらためて読み直しておりました。

自分がやりたいリズムの都合で体言止めを使ってしまっていたのですが(冲方丁の和製クランチ文体がとても好きで)、「体言止めはそもそも大ゴマや強調線としてまず捉えるのがお約束なのであって、リズムのために体言止めを連打するのは定形外使用(定形外だとわかってもらうための心づくしあってこその用法)」と今回学べました。僕のは心づくし以前に、どう受け取られるかわかってないもの。論外だ。

してみると本当に仰る通り、まずはきちんと体言止め使わずに表現できてから、作風に合わせて調節できるようにすべきで。

とても納得のいくお話でした、ありがとうございます!


スマホで対応して下さり、なおのこと感謝です。

明日またとのこと、承知です。お待ちしております。



■梶野:

お待たせしました。

それではお答えしていきます。


その前に。

まずこれだけしっかり考えた上で小説を書いておられることに敬意を表します。

書き手には、電波を受信したように頭に浮かんだものを書きまくる直感型と、脳内で作品デザインを完成させてから書き始める計画型、或いは二つのハイブリッドが存在すると私は考えていて、伊草さんはがっつり計画型、もしくはハイブリッドなんですね。私も同じタイプなので、とても親近感があります。


話の設計について、これだけ詳細にがっつり話を振って来られるのは久しぶりで、これだけ感想を書いていても、なかなかお目に掛かれません。私的には本当に望むところで、嬉しく思っています。縁が生まれたのが引退直前のタイミングなのがあまりにも残念ですが、これだけ打ち込んでおられる方なら、いずれまた戻って来られると確信しました。


それでは改めて、私なりの考察と説明を書きたいと思います。

技術不足で恥ずかしいことを言うかもしれませんが、指摘いただければ訂正・謝罪する気マンマンなので、遠慮なくおっしゃってください。



>もう一つは起伏のありなしです。極端な出来事は起きていないけれど、日常の何ということもない時間経過の中に読者の興味をそそる情報があり、それらを味わったあと変化のきざしを書いて終わる。そういうタイプの、明瞭な起伏が薄いお話(僕の今回のは変化のきざしが唐突に出てきてて起伏以前の問題ですが、置いといて)。


少女漫画の雰囲気優先タイプですね。

あまり読まないジャンルですが「Papa told me」(少女漫画)とか。

もちろん、こういう作風もありだと思います。

ラブコメ方向でなく、こっちを書きたかったわけですね。


>リアリティラインが現実寄りで、会話がシンプルで端的というより、入り組んでいるぶん含意に富む、というような。それでいて男性が女性に都合よく脱臭されているくらいの塩梅は、作家でいうとよしながふみとかヤマシタトモコ辺りの少女漫画文脈から持ってきたつもりだったんです。


まあBL系は押しなべてこんな感じw


つまり、ここら辺のイメージを目標として書かれてたわけですね。

では、そこを念頭に、改めて評してみましょう。


まず、そういったジャンルは普通のエンタメとは違うスキルが求められます。

おだやかな日常ということは、事件やバトルで盛り上げられない。

つまり、ハンデを背負った上で、読者を惹かなければならないわけで。


そのためには、一般のエンタメ以上のキャラの魅力、ユーモア、台詞回しの巧みさが求められます。


文章においては、簡潔にして水のように浸み込む最上級の文章力、一文字まで神経を巡らせた繊細な言葉選び、ハイセンスで斬新な描写技術、舞台選択、アイテム選択などの巧みさ、が求められるかと。


そして言うまでもなく、深いテーマを念頭に物語を構築し、それでいて重みを感じさせることなく、ユーモアの間に差し挿むようにして読者にするりと呑ませてしまう──これくらいの技量が必要だと思っています。


まあ画力については千差万別ですが、センスがあるのはどの作品でも共通かと。よしながふみとか、さらっと描いてみえてセンスの塊だなーと毎回思います。簡単に真似できる代物じゃありません。


そういう作品と比べると、まず今作は余計な前情報が多すぎます。

5000字の内、過去の説明約2000文字。

三分の一強が説明で終わる形式で、雰囲気系は無理があるかと。

過去は数行にまとめて、二人の交流に紙幅を回すのは大前提です。

もしくは、もっと長く書くかですね。


文章に体言止めとか、絶対ありえないでしょう。

私の感覚では、あれはハードボイルド寄りの雰囲気作りに資するもので、少女漫画に寄せた作品とは真逆の感性です。

凝った言い回しもそうですが、文章が真逆の方向(特に序盤)だからこそ、私はこの作品を少女漫画的に捉えなかった、というのは大きいです。


台詞回しのセンスもまだまだ足りません。

そのキャラならではの、何気ない、でも印象深い台詞が必要です。

事件で起伏を起こせないので、キャラの魅力が最重要視されます。

解説が長いせいもあり、風香の描写はまるで足りていません。


わかりやすいラブコメ路線を選ばないなら、落ち着いた雰囲気を維持してなお、長く長く主人公を追い続ける風香の強い想いを描き出す必要があります。もちろん「好き」なんて台詞は禁止です。「含意に富む」のを目指すなら、キャラの仕草やさりげない行動でそれを示す必要があります。


そして言うまでもなく、主人公の変化には理由と物語が必要です。

この作品では「風香はオレが好き。オレも最近は……」みたいなノリですが、その理由を完全に伝えつつ、気持ちが切り替わる瞬間をとらえて最大限に磨いた上で読者に提示しなければいけません。


……とまあ、雰囲気系を目指すなら、こんな感じですよ。

私に書けるかと言いますと、いやー、難しいでしょうね。

少なくとも5000字にはしません。2000字以下にまとめます。

そうすればボロが出ませんからw


とりあえず、間違いなく言えるのは、ガチで書こうとするなら普通のエンタメよりよほど難しいし、失敗すると本っ当に面白くなくなるということです。わかりやすい武器を最初から封印してるわけですから。



>スパンについては、「いくら何でも長すぎ、そんな長いスパンで読んでくれる読者はいないと思う」かどうかを伺えたらと思っていて、起伏については、「こんな短編はない(実在するお話のタイプを曲解していると思う、それこそ長編の一話目とか)」かどうかを伺えたらと存じます。


後述しましたが(先に各論を書いた)、勤務時間とかの件なら、スパンの問題でなくネタの質の問題です。答えを聞いて「ふーん」としかならないネタをフックにしても、読者がしらけるだけです。それなら最初から効果を期待せず、スパンを置かずにさくさく出してしまえ、という話だと私は理解しています。


情報開示の順番という話なら、そもそも5000字程度の短編で、そこまでスパンを気にする必要はないと思います。必要十分な情報を開示した上でなら、という前提ですけど。


読者が引っ掛かってる時点で、情報が足りてないんです。伏線とは「少し待ってくれ、後で盛り上げてやるから」という約束手形ですが、これは大きな疑問なく読者が読み進めていることが大前提。話がよくわからないのに、作者から無駄な謎かけをされたら、読者は普通にブチ切れます。「馬鹿な事してねえで情報出せ!」と言われるのがオチでしょう。


>あるいは、「スパンや短編のあるなしのような、前提の間違いが原因なのではなくて、ひとえにイベント処理の下手さだけが問題だった」というご指摘とか。


箇所によって違うので一概には言いにくいですが、後者寄りな気がします。詳細は以下にまとめましたので、それをご覧の上で判断してください。



■梶野:

>「甘えありきの言い訳」

では、以下の説明と照らし合わせながら、再読感想を書きます。


>1.受けるかどうか迷っているのを(親しい仲なので)気取られる


主人公の迷いに社長が気付いたのはわかります。

ただ、「大丈夫?」の意図が明確に読めません。


スケジュール的に仕事が受けられるか『大丈夫?』

能力的に仕事を任せられるのか、『大丈夫?』

主人公の体調・メンタルは『大丈夫?』


二人の関係の情報が少ないので、絞れない感じ。


>契約を結んでいる会社社長としてではなく、一私人としての心配をにじませた声。


との説明も、

「社長ではなく個人的に心配している」のか、「社長の立場を越えて心配している」なのか。私は後者だと思い、業務上の話をしながらも個人的にも心配してると解釈したので、「大丈夫?」の内訳予想が絞れませんでした。「個人的に心配」なら最後のが濃厚だと思えるんですが。


言いたいのは、この描写だけでは、「社長は主人公が個人的な悩みを抱えていることを察している」とは読めないということです。


台詞を「大丈夫?」でなく「なにか悩みでもある?」にすれば、ここの問題は一発解決すると思います。


>2.何故迷っているのか(風香を意識し始めたせいで仕事に支障が出ている)を色々な意味でまだ言えないので、「すみません聞かないで下さい」の意を込めて婉曲に誘いを断る


前回の前提として、読者は社長が主人公の何を心配してるのかわかっていません。手掛かりが「大丈夫?」しかないですから。


でもって、「……抱え仕事が一個、目処立ってなくて」。


「忙しくなるが仕事はこなせる」と最初に解説していたので、「これは言い訳の嘘だな」と読者には読めます。


つまりこの時点での読者の読解は、

「社長は主人公を心配してるが、何を心配してるかは見えない。

 主人公には何か悩みがあり、嘘をついてまで仕事を断った」

です。


その後に、「甘えありきで成り立つ防衛線」。

表現が小難しいですが、要するに「聞かず察してくれ」ですね。


で、読者的には改めて疑問が浮かぶわけです。

社長、何か察してたっけ?

なんで社長が悩みを察してる前提で、話が進んでるの?と。

抱え仕事の話が、なぜ「聞かずに察してくれ」になるのかわからないという話は、感想でも伝えましたが。


主人公が、風香の悩みを母である綾子に話せないのはわかります。

ですが、「聞かずに察してくれ」という行動は、相手が自分が悩んでることを知っていて、尋ねられそうなときにするものです。


この時点で主人公から出たヒントは「言葉がつかえた」だけ。

綾子の反応も「大丈夫?」だけ。


この状態から、「綾子は主人公の悩みに気付き、問い質そうとしている。それを察した主人公は話すわけにはいかないため、「聞かずに察してくれ」と伝わるよう婉曲に断りを入れた」って読めるかというお話です。かなり無理があると、私は思うのですが。


感想で私が「その行為のどこが「甘えありき」「私的な配慮」なんでしょう?」と書いたのは、主人公が社長の行為に甘える前提がそもそもないし、台詞からもそんなニュアンスは感じられないと思ったからです。



>3.最終的にこの件の返答は保留。「目処立ってない」仕事が終わらないのか終わるのか、あと少しでわかるので「片づき次第(この件引き受けるかどうかの)連絡入れます」で会話終了


返答が保留だったとは、今言われて初めて知りましたw

仕事を振って「今手が空いてなくて」しか返事がなければ、社会人的には断られたと判断します。その後のやりとりも「相談のるよ?」「どうも」くらいですし。


「また、片づき次第連絡入れます」も、

「手が空いたら(別の)仕事ください」だと思いました。

社長が食い下がってるならともかく、これだけのやり取りから「保留」と読むのは難しいと考えます。



>ここでは、「主人公と綾子は親しい仲である」「少し入り組んだやり取りがされる(作風の示唆)、仕事の相手であると同時に私的な繋がりもあると示される」「以前主人公は綾子に恋をしていた」辺りが興味をそそってもらえるつもりで配置した情報でした。


「少し入り組んだやり取りがされる(作風の示唆)」というのが、人間関係の複雑さという意味でしたら、狙いが成功してるとはあまり思えません。

この部分を読み終えた時点での私の予想は、「昔つきあってた?」でした。それで社長の方はまだ気持ちが残ってる、みたいな。


この時点では風香の存在も知りませんし、オフィスラブにはよくある話なので、複雑な人間関係は、まるで感じませんでしたね。


そういう風に感じさせたいなら、この時点で風香の存在にさらっと触れ、主人公の家に出入りしていることを匂わせて、読者に、

「えっ風香って誰? 二人の娘? 三人はどういう関係?」

と思わせるよう誘導すると思います。私ならですけど。


>「以前主人公は綾子に恋をしていた」

これはないです。

この情報は後半からしか出て来ないので。

むしろ綾子の方が、主人公に未練があるまで思っていました。



>以下はイベント処理ベタとスパンの話です。

>「迷っているのではなく断ろうとして言葉に詰まった」という解釈をさせてしまったのは、イベント処理が下手だったせい、つまり2が文意不明だったせいでしたでしょうか(そこで詰まって、1に遡って解釈を修正したりしたせいで、3まで一まとまりで読む、ということが出来なかった、とか)。

>それか、やり取りが「片づき次第連絡入れます」の前に完結するのが普通だと(スパンの常識から)判断されたせいでしょうか。


ん?

「迷っているのではなく断ろうとして言葉に詰まった」という解釈はしていないと思います。詰まった場面の感想でも、「思いがけず」で十分くらいしか書いてないですし。

「迷いから返答に詰まり、断った」のだと思ってました。


というか、その部分の解釈については、ぶっちゃけどっちでもいいと思っていて。仕事を受けようが断ろうが、本筋にはまったく無関係ですから。


2の意味合いが読み取れず、右往左往したのは間違いないです。

理由は上に書いた通りで、それはまた別の問題かなと。

もし私が勘違いしてたら、改めて説明いただければ。



>「勤務時間」の話


では、こちらは簡潔に。


>1.風香の仕事が始まるにしては早い。ので家主側としてお茶を出そうとする。風香に「俺は仕事やってるからよろしくー」とするタイプではない、と表現する


前提として、風香の仕事の説明がありません。

なので、「風香が遊びに来た」くらいが普通の読み方です。

主人公がお茶を淹れ始めたのは、来客用の接待。

「いいのに。仕事やっててくださいよ」は、主人公を気遣ってと見えます。

そこから「勤務時間は半からでしょ」で、え?誰の勤務?となるわけです。


「じゃ、淹れるの運ぶのと洗うのは任せてください。ほら座って」も、親しい仲ならありそうな展開ですし、やはりどっちの勤務なんだかさっぱりわかりません。まあ在宅なんだから、主人公の方かな? 曲作り始めてるし……となるわけで。


>2.次のやり取りは、「私が来たのだから“よろしくー”でいいんですよそこは」「そういうわけにはいかないよ」「じゃあ湯飲み暖めるところまではやってもらったんで、残りの工程は私がやりますよ、折半ならいいでしょう、ほらほら」という会話で、風香がペースを握りにいく関係性であることを示す


むしろ、その台詞を作中で書くべきだと思いますw

それならそう伝わるでしょう。今の時点ではやりとり短すぎてそこまで伝わっていません。


>3.で、勤務時間って何? という疑問を持ち越して、風香って主人公の何なの? 相当打ち解けている感じだけど、で後半の最初に繋げる


どっちの勤務時間か伝わらないので、引きが機能していません。

それ以外はいいと思います。


>興味をそそる情報として配置したもの

私が感じ取れたものに〇してみましょうか。


「男性としてちゃっかりしたところがない」

?? 社長とのやりとりから、多少ちゃっかり感。


「年の差、20歳くらいの女の子相手にキョドったり緊張したり、ディスコミュニケーションを生じさせたりしない」


「そうなる恐れがあると内心びくつくほど女性全般に不慣れだったり、気心が知れていなかったり、性欲に代表される異性視を促すような下心があったりしない(少女漫画でよくいる、どうあってもキモオタには育ちそうにないタイプの根本的な女慣れがある男性である)」


「のでこの話はある種の少女漫画文脈で読んでよい」

??

少女漫画文脈を決定づける何かが前半に欲しい印象。


「この話の主人公は、女性が恐怖を感じず魅力だけを安心して味わえる男性である」

〇 悪人ではなさそう。


「その主人公がどのように風香に魅せられ、陥落しかかるほど情を寄せているかに焦点を当てて読んでもらっていい」


>ここでの3(で、勤務時間って何?)はスパンの話で、2について「いやそれなら3時半か、せいぜい3時過ぎって書くべきでは?」が下手さの話だと思っております。


どちらも違うと思います。

ここの解決は簡単で、

風香の台詞「いいのに。仕事やっててくださいよ」を、

「私の仕事、取らないでください」と言わせればいいだけです。


ああ、もしかして「勤務時間って何?」を謎として提示し、その答えを読者が得られるまでのスパンって話ですかね?


ぶっちゃけ、そんな引っ張るようなネタじゃないと思います。

むしろ普通に開示すべき情報で、それを隠して引っ張っても、

謎が解けたカタルシスより、喉に引っ掛かった骨が取れた感じ。

マイナスがゼロになるだけで、面白さに貢献しないと思います。

答えもさして驚きがないですし。


私がもし、今作前半でそういう伏線を張るなら、


>時計を見ると、午後三時前だった。危ないところだ。

ここを、

>時計を見ると、午後三時前だった。

にしますかね。

そうすれば、「私の仕事を取らないでください」「勤務時間は半から」発言で、いわずとも回答になるでしょうし。



■梶野:

>「女の子がアタックしまくって男側がタジタジ」をもっと強調するにはどう書くか、考えてみたんです。そうすると自分の実力では、短い紙幅の中でこなすにはキャラの……なんだろう、トゥーン度というか、フィクション度合いが必要だという結論になってしまったんです。


言いたいことは、まあわかりますw

その上で、「過激派にする必要はないですが、風香の個性を考えつつ」と感想に書いたつもりですが。


別に、リアルに即したアタックは幾らでもあるでしょう。

世の中の女性がやってる程度の話でいいんですよ。

バレンタインに手作りチョコ作るとか、手作り菓子を持ってくるとか、誕生日にサプライスするとか、その程度のことを基準にして。

その上で、風香ならではの、ひいては伊草さんオリジナルのアイデアを書けばいいのであって。


はっきり言いますが、派手なラブコメ系アクションの方が書くのは簡単です。ほぼテンプレですし。

そこをあえて選ばないのですから、ハードルが上がるのは当然です。

少女漫画なんかは、その辺りの個性だけで勝負してますから。なんせ恋物語なんて世に溢れていて、代わりはいくらでもある。そこを突出しないと話にならないんです。


>「響のマンションに近い大学に通う」「自宅からの通い。電車を挟むので授業の合間にはキャンパスで勉強する」「響の面倒見るついでに部屋で勉強させてもらう」辺りがやはり、今回選択したリアリティラインではギリギリの「ガンガン行く度」かなと。


これは最低条件くらいですねえw

お手伝いさんやただの家族と違いがありません。

そこから先に行くには、風香の行動が必要なはず。

そうでないのに主人公がグラついたら、それこそ「身近な女子高生にぐらつくクズ」の印象が強まりませんか?


>そこを越えると女性側から、「“年上の男性に恋する子としてどうなの? 応援できない”度が高まり、引っかかって没入出来ない」「相手の迷惑(事案的な意味でも、それ以外でも)を考慮出来る、賢くてしっかりした女の子じゃないとねえ」が出ると思ったんです。


私は女性ではないので、女性の感覚は想像しかできませんが。

同じ女性でも好きなタイプは違うように、女性読者も様々じゃないんですかね。万人受けするヒロインを書く必要ってあります?


女性読者を意識するより、主人公が風香を好きになってしまうのも仕方がない。そう共感できるキャラクターや行動を考えることの方が優先されませんか?


例えば「西洋骨董洋菓子店」(漫画)のキャラとか、許せるかどうかのラインはそれぞれ違ってそうですが、魅力的ですよね。魅力と言うのは突出するもので、「いい子ちゃん」では得られないものだと思います。


>ただ、これは女性読者向けの(細かい男性の事情はあまり引っかからない)配慮であって、男性が主人公を「同性としていいやつ」と読めるような配慮ではない。自分(男性)なりに好きになれる同性を描いてみたけれど……と。


対象読者が女性なら、男性の魅力の方が必要なのかもしれませんね。

私的には今の主人公でも共感できるので全然いいんですけど。

女性的には「よくあるキャラ」に見えるかもしれません。


>その文脈で、少女漫画も読まれる男性であるカメムシさんがどう取るかを知りたくお尋ねしたという背景があったのですが、そこ以前の「こういう少女漫画のノリなんです、を提示する」がそもそもしくじったせいで、こういうご指摘をもらうに至ったんだなと。


>この点、「あーそこを間違ってたのね、じゃあこうかな」的なのがあったらぜひ!


ということで、少女漫画寄りの作品にするならどうするか、を書いておきました。参考になればいいんですが。



まだわからない点、伝わってない部分や質問などあれば、いくらでもどうぞ。引退前に未練を残して欲しくないですからねw



□伊草いずくさん

こんばんは! 細かく見て下さり、ありがとうございました。


説明が多すぎること、キャラクターの練りが甘すぎること、セリフの質がまずすぎること。大きくこの三つが問題と受け止めました。


ほか頂いたご指摘についても、おおむね未練なく消化できたように思います。

おかげさまでさまざま参考になりました。企画に参加してよかったな、と感じております。



ありがとうございました!


■梶野:

>伊草さん


ならよかったです。休日潰した甲斐がありました。

雰囲気小説は純文学に片足突っ込んでるイメージなので、どうしても指摘が厳しくなりすみません。私にしてからがそんな領域でもないのに。


またお会いできる日を待ちながら、私は私の小説を書いておきます。




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