【05】風音(伊草いずく) 総評
【05】風音(伊草いずく)
https://kakuyomu.jp/works/16817330653422384796
⬜️全体の感想
・タイトルについて
ヒロインの名前……だと思ってたら違った!
最後に気がつきましたよ。危ない危ない。
風香のたてる物音、それに作曲家の自分への影響の掛け合わせですかね?
うん、悪くないと思います。語感もいいですし。
・文章について
言葉遣いに独特のセンスがあるのは感じます。
それ自体はうまく使えばオリジナリティを出せるので長所だと思いますが、制御しきれていない印象。
いわば才能の悪目立ちです。出さなくていいところで無駄に才能を使っているので、違和感が先に立っていると感じました。
今作がサイバーパンクSFとかなら、「予測変換の範疇にあった事務連絡」のような表現をバリバリ使った方がクールだと思いますが、さしたる事件も起きない現代恋愛ものですからね。まして語り口調とはいえ、一人称です。キャラが言いそうなことを前提として文章を組むのが本質で、果たして凝った言い回しを、あのキャラが日常的にするのかと思うと疑問を覚えました。(とくに序盤)
「主人公が変人」設定とか、純文学として書いてるとかなら、わかるんですけど。
要は使いどころです。物語の雰囲気を意識し、使っていい言葉、使うべきでない言葉をより分けて、必要なら表現を変えながら書いていけばいいだけです。
車で言えばハンドリングやブレーキ。スピードはちゃんと出るエンジンなので、そこはご安心を。意識さえすればすぐに慣れると思います。
表現力については、時々やけにぎこちない、初心者のような固い感じになるのが気になります。
書き慣れていないとも思えないので、凝った言い回しを考えすぎて、一周回って変な表現になっているのかも。
文章はまずもって読者に伝えるのが第一義。作者の個性はそれを邪魔しない上で発現すべきものです(自戒)。読みやすさと個性はバーターな部分があるので、何度も読み返して、物語に見合った文章なのか、読者にどう受け取られるかをチェックしてみてください。
今作のような恋愛日常ものでは、引っ掛かりなく読めるリーダビリティが最優先かなと、個人的には思います。
・内容について
初恋の人の娘にアタックされながら、年の差で受け入れがたい主人公。
内容的には一行で済みますね。
まあ、漫画だとちょいちょい見る設定ではあります。
私もおっさんで、主人公はおっさんの方が親近感湧くのでわりと読む分野ですが、
はっきりいって今作は序盤も序盤ですね。
漫画に例えるならキャラ紹介と設定を見せた第一話。
ドラマでいえば最初の15分という感じです。
序盤に感じた物語の運びの遅さにこうなる気はしましたが、やはり予想通り。起承転結の起で締めくくられていて、読み終えた率直な感想は「で、続きは?」です。
完成された短編ではなく、長編の一話目として書かれてしまっています。
何故、そういう印象を受けるのか?
まず文章が短編の書き方でなく、長編と同じだから。
急ぐ空気がなくゆったりとした進行速度は、長編なら余裕がありますが、短編では冗長なだけです。はしょった過去語りですら、まだ長い。マラソンのペースで短距離走を走られたような気分です。
次に、風香の積極性の少なさ。
「まったりしているのがいい」と評価する人もいるかもですが、この物語は締めくくりにもあるように、「風香の熱意に負けそうな大人」の話のはず。
ですが、長編風文章とまったり進行のため、風香の積極的な場面はほぼ出てきません。押しかけた経緯くらいで、過去話では盛り上がりようがない。好きと言って赤面したくらいで、リアルタイムで主人公を辟易とさせるようなラブラブアタックが一切なく、逆に主人公がちょっと意識してしまってる描写ばかり多い。つまり攻略された後の状態です。
そうではなく、意識させるに至る風香のアタックと主人公の葛藤をこそ、読者は読みたいのだと私は思うんですが、いかがでしょう。
私ならもっと風香に遠慮なくアピールさせますし、主人公にもがんがん拒絶させます。「うる星やつら」のあたるとラム的な関係です。まああそこまで過激派にする必要はないですが、風香の個性を考えつつ、距離を縮めたりお色気作戦したり、嫉妬心を見せたり、逆に嫉妬させたりなど、手は幾らでもあるはず。恋愛ものの王道ですが、伊草さんならどう描くのか、オリジナリティの見せ所かと。
後は、ドラマとして淡々としすぎなこと。
起承転結の山場が、この小説にはありません。
例えば「仕事が詰まっている」をもっと切羽詰まらせ、締め切り目前になっても書けない。ヤバい。風香が応援してくれるけど、原因は実はおまえなんだよ。マジでやばいからしばらく家に来るなと伝えると風香は勘違いして拗らせてしまう。対応に時間を取れず、プロとして大人としてどうすべきか、仕事と風香どちらに時間を割くかの選択を迫られ──! みたいな感じに盛り上げられたはず。
これくらいの話を同じ文字数で突っ込むとなれば、短距離走で書く必要性もおわかりいただけるかと。いや、これくらいだともう少し文字数欲しいですがw
他に気になったのは、情報の少なさ。
「読みながら」でも逐一書きましたが、重要な情報の歯抜けが多いです。
今作は短編で、全てが主人公の語りで説明されるので、情報を絞る必要がありません。必要な情報はくどくならない範囲で、簡潔に明示すべきです。特に二人の過去は情報が薄く、すりガラス越しのように解像度が低いです。三十五歳にしては恋愛クソ雑魚な理由も情報開示すべきです。
そうそう、初恋の相手である綾子への感情はどうなのか。
綾子の気持ちが不明なのはいいとして、現時点で主人公はどう考えているのか。
それを風香は知っているのか、などなどは物語で重要なウェイトを占めるはず。
普通ありそうな「風香は若い頃の綾子に似てきた」という描写がないのも、よく考えれば不自然ですからね。「初恋の人の娘」と言うファクターが抜け落ちているのは勿体ないです。
よい点としては、最後のまとめ方、不惑の使い方は大変よいと思います。
起伏のないこの内容で、なんとなく読んだ感じになれるのは、締めくくりが上手かったからです。終わりよければすべてよし。
ですがよく考えたら、小説内では何も進んでいない、現状説明で終わっているのが問題。起伏をつけた上であのエンドなら、なおよかったのは言うまでもありません。
不惑も、最初と最後に使ったのが綺麗でよいと思います。
私なら「自分が不惑になるのと風香に追いつかれるの、どっちが先か」みたいに書いたかも。
・質問について
>年の差恋愛ものなのですが、「この年齢差で男側が年上&視点人物はキモいでしょ」がどの程度生じたか(中和できていたか否か)。
気持ち悪いかどうかはかなり主観に寄るので、一おっさんとしての意見ですが。
>でも、そして、その後は、影響に身を任せてみるのも、悪くないのだろうか。それこそ、子供にでもなったつもりで。
ここについてだけは、感想書く際にかなり悩みました。
歳の差恋愛というより、大人としての責任放棄のように感じられたので。
そういう意味では、共感しづらい部分でしたかね。
まあ、一瞬思ったくらいですし、創作的な意味合いもあるかなと考えて、飲み込めたのですが。
それ以外は特に……というか、温度が低過ぎてまるで足りてません。
ああ、もしかして、おっさん主人公が気持ち悪くならないよう、盛り上がりを抑えてたんですかね?
だとしたら、それはミスというものです。
感情のアクセルを踏んだ分、ブレーキを踏ませれば相殺できますから。それでいて読者的には二倍美味しいですし。
私見ですが、一人称でカッコつけるキャラは読者の(この場合はおっさんの)共感を得られません。年甲斐のない恋も葛藤も、全て曝け出せるのが一人称の魅力なんですから。誰にキモがられようが、魅力的だと自分が思えるなら全て書くべきで、理性と抑制で中和すればいいのです。性欲に対する言及もゼロでしたが、男から見れば「そんな奴いるかよ」です。男性の共感を得られるなら、女性にキモいと言われてもいいのでは? ある意味、その方がいいものを書けている気がしますw
女性に受けたいなら、三人称か風香視点で描く方が無難でしょう。
>①視点人物は男性側で固定(主な想定読者層が女性)
>②視点人物が年上なのも前提
>③可能なら設定年齢を動かさない
>という縛りの上で、どう「大人(中年男性)が子供に手を出す構図やんけ」感を抑え「年の差恋愛というお話の美味しさ」を引き出すか? という観点からアドバイス頂けたら幸いです。
まず、梶野が思いつく年の差恋愛ものを書いてみましょうか。
・うさぎドロップ(少女漫画)
社会人の男が親戚の孤児を引き取り育てる。高校生になったヒロインが主人公に恋。
前半だけアニメ化されてますが、後半はかなりシチュ近いかと。主人公の男は歳の差に加えて親代わりなので葛藤がすごいですが、ちゃんと結論出してます。完結。
・末永くよろしくお願いします。(少女漫画)
書道家の男が仕事で縁のある女子高生を引き取る。ヒロインが元お嬢様にあるまじきパワフルアタッカーなのが魅力。連載中。
・先生、今月どうですか?(青年漫画)
予知能力のある女子高生のアパート管理人が、店子である青年小説家と将来結婚すると知る。未来を変えないよう、積極的にアピール。最近、小説家がよろめき始めた。連載中。
・少女ファイト(青年漫画)
中年漫画家が昔恋愛関係だった女の娘が惚れ込まれ猛アタックを受けるという、かなり状況近い展開がありますが、こちらは顛末見てません。連載中。
上記に共通してるのは、
・おおむね女性視点。「うさぎ〜」も後半はヒロインが主役。
・肉体接触は最後までほぼなし。あってもキス止まり。
・ヒロインはガンガンの攻め。男は被害者モード。
・男は最後の最後まで抵抗を続け、あきらめた時が試合終了。
ですかね。「先生〜」はやや違いますが。ご参考までに。
さて、アドバイスですが、まあ要するに、「主人公がキモく思われないようにしたい」んですよね?
まず上記作品を参照して今作に足りないのは、やはりヒロインの攻めですね。
ヒロインが暴走するかぎり、男は無罪ですし、そこに乗せられても不可抗力です。
キモさはかなり軽減されます。まあ基本スキルですね。
後、私ならキモさを引き受けるタンク役を用意します。
例えば主人公の気やすい親友。二人飲みで相談受けて「いらないなら風香ちゃんくれ」とか言っちゃうタイプ。こちらにキモさ含む男の本音を代弁させ、主人公はそれを否定しながらも、風香と向き合うことを考えていく……という感じです。
後、歳の差恋愛の醍醐味について。
私はこういう話書いたことないのですが、似たようなシチュに長編の方がなっていて。感想で指摘され気付かされたのが、「主人公の男を、可愛く描くこと」。
これは一人称でも可能というか、むしろ向いてます。
いわば恋愛クソ雑魚なメンタル部分をプッシュして書く手法で、女性読者向けと考えるなら有効ではと。「風香より主人公の方がヒロイン」を目指す勢いで。
情けなくない? なーに、大人としての矜持もちゃんと示せば、むしろギャップ萌えというものですw
長々と語ってしまいましたが、今作の感想は以上です。
⬜️総評
・文章はぎこちないも、センスは感じる。
・ほぼキャラ紹介で長編の一話目のよう。
・読後感はよいが、内容が充実すればなおよし。
これを一話目として、長編を書いた方が面白くなると思います。
もしくは最高のネタを突っ込んで、短編でオチまでもっていくか。
最後になりますが、作者の伊草いずくさんは近日中にカクヨムを退会されるそうです。
私は今回の企画で知り合った程度の縁ですので、理由などは窺い知れませんが、色々思うところがおありなのでしょう。それを知っててガッツリ辛口感想を書く情け容赦ない人間で申し訳ありません。しかしやはり、花向けはお世辞でない方がいいかと思いまして(どのみち無理ですが)。
一度小説を離れてた私のアドバイスとしては、小説なんて書かなくてもハッピーに生きられるなら、その方がいいってことです。それでも書きたくて仕方なければ、戻ってくればよいかと。
ただ、そうですね。
執筆を離れていても、思いつくネタは書き留めておくといいです。
それがいつか、道標になったりもするので。
それでは、ごきげんよう。
戻られたら、また連絡ください。その時は大いに盛り上がりましょう。
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