【05】風音(伊草いずく) 読みながら感想


【05】風音(伊草いずく)

https://kakuyomu.jp/works/16817330653422384796

 

 

五回目は伊草いずくさんの、「風音」。

歳の差恋愛ものです。

おっさんの私には、なかなかリアリティあるジャンルです。

おっさんの許容範囲って個人差激しい気がしますが、概ね社会的な建前なので。

梶野の許容範囲? ノーコメントでw


さて、伊草さんのアンケート回答をば。



こんにちは、伊草と申します。

ダッシュボードから偶然企画を拝見しまして、参加希望させて頂きました。30作品も感想書かれるというの、すごすぎる……!

自分も主戦場は長編バトル物なのですが、短編には別ジャンルのものしかなく。書き下ろしている間に埋まってしまいそうなので、そちらで応募させて頂きます。

 

・特に意見が欲しい部分

年の差恋愛ものなのですが、「この年齢差で男側が年上&視点人物はキモいでしょ」がどの程度生じたか(中和できていたか否か)。

 

・「梶野ならこう書く」アドバイス

大変だと仰っていたので、もし可能なら、なのですが、お願い致します。

その際、

①視点人物は男性側で固定(主な想定読者層が女性)

②視点人物が年上なのも前提

③可能なら設定年齢を動かさない

という縛りの上で、どう「大人(中年男性)が子供に手を出す構図やんけ」感を抑え「年の差恋愛というお話の美味しさ」を引き出すか? という観点からアドバイス頂けたら幸いです。



ふむふむ。しっかり作品を客観視されてるご様子。

これだけ具体的だと、アドバイスしがいがありますね。

それでは、さっそく始めましょう。



 ⬜️読みながら感想

二読後の感想を、読みながら書きます。

 

 

>不惑には程遠い

 

>この間三十五になったから、あと五年。

>折に触れて考える。それだけの時間で、自分は果たして、迷いのない人間になれるだろうか、と。

 

私は不惑ぶっち切ってますが、実際のところこんな感じ。

三十歳の時には「三十歳ってもっと大人だと思ってた」。

四十歳の時には「四十歳ってもっと大人だと思ってた」。

……やめましょう。何の参考にもならないw

 

ただまあ体感としては、三十の時点で「この調子で四十なりそう」と予想はつきました。肉体的には色々変わりましたが、精神的には何も。不惑とかまるで関係なかったです!w

 

>回線越しに聞こえていた、よく通るアルトが転調。

ここの体言止めは普通の表現にした方がいいです。

文章の流れが切れるだけで、プラス効果がないので。

続きがかなり凝った言い回しなので、連続すると違和感の方が先に立ちます。

 

>予測変換の範疇にあった事務連絡

表現自体は凝っていて面白いです。

ただ、この小説のこの場面で、この凝った表現が必要かと言われるとかなり疑問です。思いついた表現を文脈考えずに突っ込んでいる、腕自慢のような感じです。

 

私なら、ここは読みやすさを優先して平易な表現にします。

全体の雰囲気を見て、この表現があってるかどうか見直し、合わないと思えば平易に直す判断も大事です。(せっかく考えたのに!となるのはわかりますが)

 

>疑問符付きの呼びかけへと変わったことに遅れて気が付き、俺こと末野 響は顔を上げた。

 

ここまで読んだ時点で、すでに「表現が固い」「説明が多い」「長くなりそう」と感じられます。短編のピッチではない予感がします。

 

例えば、ここで主人公は上司と会話中に気が逸れていました。

「何故、気が逸れていたのか」という部分はスルーされていますが、話の密度を考えるなら、無駄な要素は省くべきです。「気が逸れていた」という要素は、ストーリー進行に必要ではないので。

もしくは逆に、「気が逸れていた」ことを話の展開に利用すること。

 

私なら「気が逸れていた」理由を考え、それを主人公に思い出させることで、話の展開を早め、スムーズにします。例えば寝不足。何故、寝不足になったのか。理由は綾子には言えない。なぜなら──

からの綾子に問われる展開に繋げれば、その後の説明は大幅に短縮できるはず。

 

短編は、いかに無駄を削り、物語をシンプルにするかが肝要です。

私は文章ダイエットと呼んでいますが、削るのは贅肉だけで、必要な肉は残すのがコツです。

 

>と経験が判断を下す。

意図してのものかもですが、「経験から」の方が違和感はないですね。

 

>ふと顔を出した懸念が喉に引っかかった。

上手くない言い回しです。

「懸念が顔を出した」か「懸念が喉に引っ掛かった」どちらかですね。

 

>思いがけず一瞬、言葉がつかえる。まずい。

くどく感じられます。

「思いがけず」で十分。

続く言葉が出ていないので、「一瞬」じゃないですし。

 

>仕方なく、甘えありきで成り立つ防衛線(いいわけ)を晒さらす。

>“悩んでいるが、守秘の関係で話せない。そういうことにさせてほしい”という、いい歳の人間が使ってはいけない、私的な配慮要求を。

 

ここの説明、いまいち意味がわかりません。

凝った書き方をしているので余計に。

主人公は嘘の言い訳をして、社長である綾子の持ちかけた話を断ったんですよね?

その行為のどこが「甘えありき」「私的な配慮」なんでしょう?

 

これが例えば、綾子が主人公のスケジュールを把握しており、嘘の言い訳だとわかっていながら見逃してくれている。そのことに主人公も気付いている──という場面なら、この説明も理解できますが、そういった描写がないので。

 

もしそういう想定だったとするなら、綾子の返事を『……ふうん?』などにして、この説明の前に入れておけば、ある程度そう読めるかと思います。

 

>『相談したい時はいつでも言って。昔と違って、時間も場所も取れるし、取りたいから』

 

この台詞からは、嘘を見抜いているのか信じているのか、判別できません。

 

>かつては理由を付けてでも食いつきたかった提案を、

いまいちな説明です。

「かつては何を置いても食いついただろう提案を」くらいか。

 

>時計を見ると、午後三時前だった。危ないところだ。

何が危ないのか、二度読みしてもいまいち掴めませんでした。

 

>ボタンを押して応答。

>返事の代わり、玄関の方で電子ロックが解錠される気配。

体言止め二連発はやりすぎ。

どっちかは普通の文末にした方がよいです。

 

>風香は今日もいつも通りだった。

後の展開を考えると、「風香は、今日もいつも通りやってきた」の方が、いつも通っていることがニュアンスで伝わり、理解が早まるかと。

 

>大学一年生とはとても思えない、地に足のついた風情。

 

ここはちょっとよくわかりません。

大学一年生にそこまで浮わついたイメージがないんですが、私だけ?

 

>と言って置いた紙袋に印字されていたのは、名前だけうっすらと記憶していた饅頭屋のロゴ。

 

説明が長いです。

「その手には、名前だけ知ってる饅頭屋の紙袋。」

 

>豆の袋を開けなくて正解だった。俺も風香も、こういうのは緑茶と合わせたい派だ。

 

何気ないですが、この一文はよいです。

 

>脱衣手洗いうがいを待つ間

風香って同棲してたっけ?と思いましたが、これは上着だけって意味ですかね?

脱衣って書くとどこまで脱ぐか伝わりづらいかも。

 

>「勤務時間は半からでしょ」

主人公と風香、どちらの勤務時間なのかわかりづらいです。

さっきまで業務連絡受けてた主人公は、あれ仕事ですよね?

だとすると半からではないですし。いや、あれは業務時間外ってこと?

風香だとしても、会話の繋がりが微妙だし。うーん?

 

というか、在宅の作曲家に勤務時間とか決まってるもんですかね。

傍点はジョークとして言ってるということ? 傍点の意味もわかりません。

 

> ――嘘ではないんだよな。

> 言うに言えない理由だ、ってだけで。

 

ああ、嘘ではなかったんですね。

つまり風香が気になって、仕事がおぼつかないと。

……大丈夫ですか、プロとして?

むしろ嘘だった方がよかった気が少しします。

 

>饅頭と本当によく合い、文句の付けようもないほどに美味しく、感想に困るほどだった。

 

前半、風香とお茶しただけで終わっちゃいましたが。

後半だけで尺足りるんですかね。この文章ペースだと終わりそうにない気が。

 

 

>放すには能わない

 

>特別な先輩だった。

八つ年が離れてたら、同じ学校に在籍してたことないのでは?

まあ、同じ芸大とかに入っていたなら、年代違っても先輩呼びはアリか……?

先輩と言うかOBですけどw

 

> それから十年、縁は途切れていたが、色々あって、シングルマザーになった綾子さんと、その娘の風香と、俺は“お隣さん”として付き合いを持ち、親しくなった。

 

むしろこの時代の方が小説にしやすそうですw

独り身になった片思いの相手と、五年間お隣で、何もない方が不思議なんですが、どうなんでしょ。少なくとも現時点での主人公の気持ちは知りたいところですね。

 

>仕事の関係で話す綾子さんと、“仕事”の名目で家を訪れるようになった、風香と。

 

せっかく対比にしてるので、前後の文字数合わせた方が綺麗ですよ。

「仕事の関係で話す綾子さんと、“仕事”の名目で訪れる風香と。」

 

>そしてこの頃は、“それ”のせいで悩む日々が続いている。

 

何故この頃なのか、という説明が欲しいところ。

急に意識するようになった理由を軸に物語を組むべきでしょう。

 

>嘘偽りなく、日々の業務に支障が出かけるくらいに。

「支障が出る」でいいかと。

実際、仕事が滞っているんですから。

 

>おもてには素直な喜色が満面に現れている。

凝り過ぎて変な方向に行ってます。

 

>「そういえばこないだの新曲、大学での評判上々でしたよ」

 

ここの新曲、どういうシチュエーションで聞かれているのかわかりません。

風香が友人に主人公の曲を聞かせたのか。

普通に町に流れるレベルの曲を手掛けている売れっ子なのか。

冒頭のシーンからは、ゲームミュージックとか手掛けてるのかと思ってましたが。

どの程度売れてるとか有名なのかとか、そういった情報がないのが面食らった原因かなと。どこかで主人公の立場の説明を入れるか、この場面で流れる経緯に説明を加えるとともに、立場の説明もこなすのがベストかと。

 

>風香が不満げに言い募るので、理由を口にする。

この一文は不要です。

 

>三十くらいまでは、まだ大学生と感性が通じていることを肯定できた。

>しかしこの歳になると、そんなことで自分は大丈夫なのか、という気持ちの方が強くなる。

 

うーん。まあ個人差あるので問題とまではいいませんが。

私見としては、プロに重要なのはニーズを維持できるかで、若い感性で仕事取れるなら大丈夫、というか悩む意味がないです。仕事取れなければプロ失格なので。

むしろ若い向けに曲作ってた人が、時代に取り残される方が一般的な恐怖かなと。

 

まあここの趣旨は「大人になりきれない主人公」からの恋愛話への導入でしょうからうるさくは言わないですが、より自然な導入がないか考えたくはなりますねー。

 

今は若者受けする音楽で食っているが、本来はもっと大人向けの仕事が欲しい、とか。

 

>いつまでも子供のままのおじさんになっちゃったらきつすぎるでしょ。

少し長いですね。

「いつまでも子供のまま、おじさんになったらきつすぎるでしょ。」

 

>そして言う。

この一文は不要です。

後の「聞いた俺は」で読み取れるので。

 

>私、そういう響さん好きですし。

ここで「」を外すのは、いかにも「つぶやいた」感じで、雰囲気あっていいと思います。

 

>さらっと言おうとしていたくせに、徐々に顔が赤くなる気配を見せている。

 

よろしくないです。

「さらっと言おうとしていたくせに、真っ赤になっている。」

 

>なるべく自然に、相槌ついでに目線を下げて、メールチェックに注意を振り向ける。

 

動きを見せるなら、これより前に主人公がPC(スマホ?)に向かっている描写をしておくべきです。

 

> 温水が皿を鳴らす音がする。

風香の手が止まっている、という表現ですかね?

うーん。「温水がシンクを叩く音」の方がわかりよいかも。

風香のドキドキ感にも通じますし。

 

>綾子さんが初恋だった俺が言うのもなんだけれど

「なんだが」ですね。

 

>だが、恐らく気の迷いなどではない。

ここまで説明があって、「恐らく」もないでしょう。

「しかし、残念だが気の迷いではない」とかの方が。

 

>食い下がる風香に譲歩する形でやり取りをし

何を譲歩したのかわかりません。

設定があるなら開示すべきですし、ないなら削除すべきです。

この一文を抜いても話は成立します。

 

>その甲斐あってか、風香の方から俺に話しかけてくる回数は徐々に減っていった。

引っ越し後の話ですよね?

二人の物理的距離を説明して、それを理由に充てた方がわかりやすいです。そもそも話しかけられる距離にいないんですし。

 

>風香のことは九歳の頃から知っている。そんな相手を、恋愛対象として見ろというのは無理な話だ。

 

それ以前に、十四歳は犯罪です。

 

>どんなふうに十代二十代の時間が曲がりうるか

「時間」は不適切な気がします。

私なら「人生」か「感性」ですかねえ。

 

>俺は自分のことがあまり好きではないけれど

ここまでの口調を見るに、「ないが」の方がよいと思います。

 

>けれど、風香は諦めてはいなかったらしい。

「らしい」は不要です。

 

>去年度末。

「昨年度末」が正しいかと。

 

>独り立ちすることを目指して仕事を続け、生活も安定してきた折。

ここで綾子の会社との関係、作曲家としての立場(成功など)を描くべきです。

 

>俺のマンションからそう遠くない校舎に通う

「校舎」は「大学」の方が。

 

>『忙しいって聞いてます。家事代わりにやるので、勉強部屋として使わせてもらっていいですか』

 

うん? 主人公は遠方に引っ越して、それを追って風香も大学を選んだと思ってましたが、勉強部屋ってことは、実家にそこそこ近い距離なんですかね。一人暮らしとかせずに?

どれくらいの距離に引っ越したのか、情報がまるでないので想像が錯綜します。

 

>この時生じた懸念を、「流石にない」と切った自分の間抜けさには呆れる。

流石にないw

 

>落ち着いて話す時間も持てないまま、

いやいや。

茶とか普通に飲んでますやん。

 

>今に至る。

今って何月なんですかね。春からどれくらい経ってるんです?

 

>強制の一つもなく、純粋に自分のしたいように音楽を作ってみよう

 

こう考えるということは、強制されていたり、したいように音楽が作れなかったりしていたと察せられますが、その理由も書くべきでしょう。

 

>落ち着かない誰かとの同居かで暮らしていた

「落ち着かない誰かと暮らしていた」

 

>風香がペンを繰るように鍵盤を叩いてみたいと感じて、俺は作曲を再開したのだ。

 

これ、風香がペンで何をしているかによって印象が変わります。

宿題だったら「自由に」じゃないので意味不明ですが、お絵かきだったらなるほどなと。私なら「自由気ままにお絵描きする風香を見て」という風に書きますね。

 

>馬が合う、というのだろうか。

この状態を「馬が合う」とは言いづらいとこですねw

私なら「波長が合う」とかにしますか。

 

>ほんのかすかに立ち位置を調節する距離感にだけ、時の経過を感じる。

ここもぎこちない表現。

「ほんのかすかに気にする距離感に、時の流れを感じる。」

 

>ノートはめくって、白紙のページに移ればそれで済む。

ふむ?

候補を書いたページは捨てる的な意味合いですか?

印のつけられた流れとか心情は理解できますが、ここだけ違和感。

「ノートはめくって、白紙のページに書き写せばそれで済む」ならわかります。

 

>ただ、言葉に印を付けられたことは、心に残る。

>風香の気配と音が、俺の頭の中の世界に、影響を与えているみたいに。

 

ここら辺の展開はいいと思います。共感できます。

 

>――いつか、白旗を上げる時が来るだろうか?

 

そもそもまず、風香に女性を感じてるかどうかという話だと思うのですが。

 

>深く潜った忘我の縁、意識の端で、浮かんだ益体もない疑問をもてあそぶ。

 

全然忘我じゃない!w

 

>その時はまず、信頼を裏切った綾子さんに謝らなければならないだろう。

 

どう見ても押し付ける気まんまんです。

 

>もしも、臆病な自分の大人としての意地が、風香の覚悟と執念に負かされる、そんな日が来たら――。

 

「臆病」は不要でしょう。臆病だから手を出してないわけでなし。

「覚悟」もいらないと思います。少なくとも小説上では覚悟は見えないので。

なので私なら、

「もしも、大人としての自分の意地が、風香の執念に負かされる、そんな日が来たら――。」

 

>でも、そして、その後は、影響に身を任せてみるのも、悪くないのだろうか。それこそ、子供にでもなったつもりで。


微妙な心の揺れ、という感じですね。

それをブラックのコーヒーで引き締め、不惑を目指す。

うん、ここから台詞を通じての終わり方は、綺麗にまとまっています。

読後感もとてもいいと思います。


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