【04】魔導古書店店主の偏愛と憂鬱(ヨシコ) 読みながら感想


【04】魔導古書店店主の偏愛と憂鬱(ヨシコ)

https://kakuyomu.jp/works/16817330653896544936



さて、四回目となりますは、「魔導古書店店主の偏愛と憂鬱」。

ヨシコさんの作品です。ジャンルは異世界ファンタジー。

紹介文は、

「路地裏の狭い地下一階。本を偏愛する店主が心を込めて応対致します。」


ふむふむ。KACの今年の企画お題、「本屋」に参加されてたんですね。私も書きましたっけ、そういえば。


最近は書かなくなりましたが、元はファンタジー畑から創作を始めた私です。

今回は多少なり、建設的なことが言えそうかなと。

作者のヨシコさんは私と同じエンタメ主義だそうですしね。

そうそう、アンケートのお答えを見ておきましょう。



・特に意見が欲しい部分。

特にここを、という部分はないので、何か気になったことなどあれば教えていただきたいです。


・「梶野ならこう書く」アドバイスは必要か否か。

基本的には不要です。

ですが、アドバイス込みの方が指摘しやすい場合もあるかと思いますので、梶野さまの書きやすい方でお願いします。


以上でよろしくお願い致します。



──なるほど。ならアドバイスは最小限にしましょうか。

「梶野ならこう書く」をしなければ大丈夫かな?

確かに、あまり書きすぎるとやる気を折ってしまいますからね(最近経験した)。


それでは、読んで参りましょうか。



⬜️読みながら感想

二読後の感想を、読みながら書きます。



> その先にある何の印も飾りも、ドアノッカーさえない、分厚く頑丈なだけが取り柄の扉


短編にしては装飾過剰に感じます。

冒頭の店の位置までは、雰囲気作りもあるので許容範囲ですが、この調子で続くなら、明らかに短編向けではない、長編向けの書き方だなと。

この小説は3500字ほどですが、このペースで話を書き終えられるのか、不安になります。長編の第一話か番外編のようです。


>その棚の上から下までをびっしりと、様々な魔導書が整然と埋めている。


ファンタジー世界の本屋としては、ごく平凡な描写です。

この辺りで読者の興味を惹くには、「さすが魔法書の本屋!」とわくわくするような、現実に有り得ない情景が欲しいところ。

現実も偏執的な古書店になると、床の大部分を本のタワーが埋めてたりしますからね。どうやって取るんだというような。魔法ありならもっとすごいものが書けそうです。


>慎重とも粗雑とも取れる手付きで捲った。

形容が重なりすぎて、どんな手つきなのかわかりません。


>その長い爪は光沢のない黒一色。

本屋の仕事に不便そうと思いましたが、まあ魔法が使えるなら関係ないかな。


>指と同じく青白いばかりのその顔は、

ここの「ばかり」の使い方は、違和感があります。

「ばかり」には色々な使われ方があり、念のため調べてみましたが、これに該当する用例が思い当たりません。

あえて言うなら限定(「大きいばかりが能じゃない」など)ですが、この後に美貌だと続くので、「青白いだけ」じゃないですよね。

「指と同じく青白いその顔は」で十分かと。


>本来絶世の美貌を誇るほどのものではあるものの

ここもステップを間違えたような、イマイチな表現です。


>その相貌は「陰鬱」或いは「不吉」。

ここまでの描写を見る限り、「陰鬱」はともかく「不吉」(縁起が悪いこと。不運の兆しがあること)は感じられません。


>癖一つなく真っ直ぐに伸びた長い髪と、

髪は普通なんだな、という印象。


>暗さのせいでその色さえ判別の付かない相貌を縁取る白金の色だけが、


ここ、白金の意味が不明でしたが、二読してやっとわかりました。

「相貌」が「双眸」の誤字なんですね。

後に白金の睫毛と書かれていて、やっと理解。

書き方としては、ここで睫毛と明言したのち、二度目に「縁取る」と書くべきです。縁取るだけならアイシャドウとも読めますから。


> そしてその視線の先の扉がみし……ぎぎぎ……、と音を立てて開かれた。


ここまで、カメラが入店する視点で描写が続いているので、この描写でそれを打ち消すのは勿体ないです。

この一文を削り「入って来たのは」に繋げれば、来客者の視点描写と認識され、スムーズに、会話シーンに入れます。


>中肉中背の一見した限りでは魔導士風の男。

イメージが全然湧きません。

背格好より最優先すべき情報は年頃です。

魔法使いといえば、老人のイメージも強いですし。


>ところどころ擦り切れ着古したぼろぼろのローブ。手入れされ何度も修理跡のある長靴。


貧乏という描写ですかね?


> 男を余計に貧相に見せている丸めた背を、追い縋るように前方へと伸ばした。今にも掴みかからんばかりの勢いで、カウンターにその両手を叩きつける。

「男を~」の一文は不要です。

描写が過ぎて、テンポが悪くなっています。


>「魔導書を、魔導書を売ってくれ……こ、ここでは特別なものも扱っていると聞いた……!」


何か、切羽詰まった理由があるんでしょうか。


> その身体の勢いとは裏腹に、上擦った声で呟くように男は喋り出した。そして自らの声に背を押されるように、言葉尻だけが勢いを得る。


ここも、後半の一文が不要です。

理由は同じ。


>言われた方の店主は実にゆったりとした動きで肘を下ろし、

「本を下ろし」の方がわかりやすそう。


>その男をカウンター越しに見える腹の辺りから頭のてっぺんまでをゆるりとした視線でもって見定めるかのように嬲った。


冗長に思います。


>当の本人すらも気付かないぐらいの素早い動きで男の両手をカウンターから払いのける。

この剣幕の客がカウンターに置いた手を、本人に気づかれず払いのけられるイメージが全く想像できません。

「魔法的な何か」として書いた方がいい気がします。


>「そう、そうだ。特別な本が欲しい……本当に、あるのか」


この客、熱意を見せているわりに、求めるものは「特別な本」としか言いません。

品揃えが自慢のこの本屋で、目的や種類を特定しないのは、強烈に違和感があります。

図書館の司書に「なんかすごい本教えて」と言う子供のようです。

せめて「こういう目的でこんな本を必要としている」情報があるべきでは。


>うっそりと微笑むその相貌が

ここの「うっそり」は、いいと思います。


>危険なものへと印象を変える、とはいえそれは一瞬のこと。

「印象」は不要です。

あと「、」は「。」か「──」の方がよいかと。


>男が気付くまでもなく、普段通り口角を下げた店主は

「気付くより早く」が正解です。


>白金の髪を揺らし

えっ、店主の髪、プラチナなんですか?

そんなド派手な情報、冒頭に書いておくべきでしょう。

睫毛の色よりよほど目立つじゃないですか。


>カウンターの脇に設えられている跳ね上げ扉をから、

「を」は消し忘れかと。

「設(しつら)えられている」は、ルビを振るべきだと思います。


>出てきた店主が男の前に立つ。

ここで店主がカウンターから出てくる理由がわかりません。

立った姿を描写したいのであれば、立つべき理由をこしらえるべきです。


>中肉中背の男から見て、その顔は首を反らし見上げるぐらい高い位置にあった。


うーん。デカいのか。

正体不明なのはいいんですが、予想外の情報が多すぎてイメージが落ち着きません。


>底の知れない威圧感を湛え、静かにそこに立っていた。


なんでいきなり客が威圧されてるのか謎です。

慌ただしく入って来たから?


>「どのような本であったとしても、インクの付着した紙の束に過ぎません。魔導書、読本、艶本、あるいはそれが禁書の類であったとしても同じこと。貨幣を対価とする原料代については当店よりのサービス、ということにさせていただいております」


くどいのにわかりづらい台詞です。無料ということ?

「インクの付着した紙の束」という言い回しは、「本への偏愛」とは真逆に感じます。むしろ客にそう言われてブチ切れるのが「偏愛」という気がしますが。


>「禁書! そう、禁書だ! 禁書が欲しい! それさえあれば、それさえ、それさえあればそれさえ……」


禁書と言うだけでは、どういう本なのかさっぱりです。

本が読みたいというより価値目的のような。でも金は幾らでも出すようだし。

この男の目的がさっぱり見えてきません。


>うわ言のように繰り返すその言葉を、男が気付くことのないまま店主の双眸がひやりとするような冷徹さで見下ろした。


文章の繋ぎが変です。


> 濃い隈と白金の睫毛に縁取られたその双眸は陰になって見えない。


陰になって目元が見えない状態が、いまいち想像つきません。

ランプの灯りの陰になっているから? 

でもそれだと、隈とか睫毛も見えなさそうですが。顔全体ならわかるんですが。


>「如何にも。その価値こそが、インクの付着した紙の束をそれ以上のものへと押し上げるのです。知恵であり知識。そしてわたくしの店で扱う魔導書に至っては、本そのものが魔導の真髄。本一冊でその魔法を発動するための術式の、陣と呪文とを担う媒体と成りうる。魔力さえあればどんな馬鹿でも術を発動できるお手軽アイテム」


あー、RPGでよくあるやつですね。

最後の「お手軽アイテム」といい、ここに来て一気にチープさが増した感。

説明に入ると一気に長台詞になるのは、ぽくていいと思います。


> 赤い表紙の一見して分かる古い本。赤い表紙の中央には黒いインクで魔法陣が描かれている。


「赤い表紙」が二度続いて、くどく思われます。

「黒いインクで」も、説明が重い感じです。


> 禍々しいまでの魔力を零すその本を、


ここまで過剰に描写しているのに、「禍々しいまでの魔力」を描写しないのが逆に不思議です。

零れる魔力がどんな感じなのか、書かれないと読者にはわかりません。


>店主はまるで恋文でも愛でるかのようその胸に抱き込むと、もう一方の長い指先で表紙の紙を愛撫した。


もう一方とは?

胸に抱きこむんですから、両手を使うものだと思いましたが。


>禁書などという馬鹿げた括り

そもそも禁書って、どういう扱いなんでしょうね。

所持者が処罰されるとか、焚書されるとかでしょうか。

あるいは軍事力として国が占有している状態なのか。

そもそもこういう本って、量が刷られているのか手書きなのか。

写本というのもありますよね。この辺りを情報に加えると深みが出そう。


>当然これを読み解き理解し、己が内に取り込むまでに同じだけの熱意と愛情とを求めたいと考えております。


ここの話の流れがよくわかりません。

この前の台詞では、店主は「どんな馬鹿でも術を発動できるお手軽アイテム」と言っていたわけで、要求と矛盾して思えます。


「お手軽アイテムだが、あえて読み解いてもらいたい」という意味ですかね?

もしそうなら、その意図は台詞の中で明確にした方がよいと思われます。


>であればひとまず三十六年をかけるのが道理でございましょう。


んな無茶な。

執筆にどれだけ苦労しても、読むのに同じ時間は必要ありません。

著者がそんなことを求めてるとも思えません。実用する魔導書ならなおさらです。


>よって三十六年の生を対価として差し替えた上で更なる三十六年を持ち得る方


ここもよくわかりません。

読み解くために三十六年はまあよいとして、更なる三十六年縛りの根拠とは。


>男が、そこまで語るのを聞かされてようやっと、

男「は」。


>こちらの本については既に余すところなく読み切って些か飽いておりますれば、そろそろ誰か他者の手に委ねたい


なんか私物みたいな扱いですが、商品ですよね?


>あるいはさんじゅ……………………………………………………おや」


さすがに「……」が多すぎます。


> まるで蛇に睨まれた蛙のように、男の脚が震えながらも半歩を後退る。


「蛇に睨まれた蛙」は「恐怖で身がすくんで動けない」例えです。


>どんな魔力貧困魔導士でも洗濯物が瞬時に乾かせる風の術が使えるようになります。


急にギャグになった。

……え、これで終わり?


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