第8回 テーマはふりかけ
小説=料理と書いたので、早速使っていきましょうか。
今回のお題は、テーマについてです。
まずはテーマの定義について、調べてみましょうか。
ググってみたところ、テーマとは「主題」のことだそうで。
「作者がその作品で伝えたいこと」、これはわかりやすい。
何かしら伝えたくて、人は小説なりを書くものです。
この点、梶野も異論はございません。
この定義で行くと、書きたい動機であれば何でもテーマなんですね。
いちゃいちゃが書きたくてラブコメ。テーマはラブラブ! とか。
ひたすら読者を怖がらせたい。テーマは恐怖!のホラーとか。
まんまかよ、と思わんでもないですが、まあいいでしょう。
定義的には、これも一応、テーマの範疇らしいので。
ただ、この手の単純なテーマは、飽きられるのも早いです。
何より面白くない。たいてい浅いんです。
書きたいものを、ただ書いてるだけなので。
梶野の考えるテーマとは、「小説の深さ」です。
私はエンタメ派なので、何よりも「面白さ」を重視しています。
笑ったり泣いたり、驚かせたり。
その中で、テーマの持つ役割とは、「読者に考えさせること」。
問題提起したり、選択を迫ったり、現実を突きつけたり。
映画館を出た後、余韻がズーンと心に残ってること、ありませんか?
帰りの電車に乗っても、まだ映画について考えてるみたいな。
私は、あれがテーマだと思っています。
表面的な感動ではなく、ボディブローのように、体内に残る感じです。
テーマの破壊力は絶大で、うまく決まれば内臓が破裂するほどです。
ですが、実際に使うとなると、一筋縄ではいきません。
以下に、テーマの取り扱いについて、梶野なりの見立てを書きます。
・エンタメでコーティングする必要がある
食材に例えれば、テーマは栄養担当です。
小難しくて、普通に読んでも面白くない。単品だと味は不味い。
これを面白さで包んで「美味しく読ませる」のが、エンタメ小説です。
テーマだけで面白いと思える人は、研究書とか論文を読むべきです。
・構成時点でテーマを徹底させる
テーマは、小説全体を通して伝えることに意味があります。
一点でも綻びがあると、テーマは説得力を失い、面白さは色あせます。
伝えるべきテーマの観点から、物語の構図全てをチェックしなければいけません。
テーマがなければ「面白ければよし!」なので、そこはかなり違います。
・テーマはふりかけ
はい。ここでタイトル回収です。
テーマのある小説を考える時、たいていの人はまずテーマを決めます。
私もそうでした。
ですがその手順で、面白い小説が書けたことは一度もありません。
だいたい堅苦しい、予定調和みたいな作品になるんです。
あくまで梶野は、ですけどね。
何度か試した結果、梶野はテーマから入ることをすっぱりあきらめました。
まずは面白い小説を考える。キャラとか場面、起承転結まで。
その上で、「この話なら、こういうテーマも盛れるな」と思った時。
脳内で完成している小説に、テーマをふりかけるのです。
あ、私みたいに公言する必要はないですよ。
読者には「この小説の着想はこういうテーマで~」とか言っとけばいいんです。
その方がかっこいいですから。
よく考えたら当然なんですよ、これ。
「面白さ」というものは、そう簡単には見つかりません。
それだけで読者を惹けるレベルとなれば、上ネタです。
縛りなしでも大変なのに、テーマ縛りで見つけられるわけがない。
逆にテーマの方は、後から幾らでも取り繕えます。
そりゃ簡単じゃないですが、慣れれば余裕です。
拘束状態で上ネタ捻り出すより遥かに楽ですしね。
まず「面白さ」を担保すべし。これが梶野の結論です。
「テーマはふりかけ」の一例をご紹介しましょう。
梶野の持ちネタの短編設定に、こんなのがありました。
タイトル:「立ち
内容:舞台は田舎の高校。
「立ち漕ぎ野郎」と呼ばれる謎の高校生を軸にする物語。
自転車通学の彼が、サドルに座る姿を見た者はない。
常に全力の立ち漕ぎで、授業も体育も全力。
口数少なく、友人も少なく、放課後は全力で帰宅してしまう。
そんな彼に興味を持った学友が、一人また一人と彼に近づき……
みたいな作品です。オムニバス予定。
内容は大雑把にしか考えてませんが、この話にはテーマがありません。
とりあえず、変わったキャラを中心に恋とか騒動があれば面白そう、程度で。
ただ、もう一味が足りていない。
そんな自覚があったので、お蔵入りしてたんです。
それから数年。
私は社会問題を取り上げたノンフィクションを愛読するようになりました。
現実の話を書く上で、いろんな意味でネタの宝庫だと気付いたもので。
最近、興味を持ったのが、「ヤングケアラー」です。
親にも子供にも事情があり、弊害がある。けれど、それをよしともする風潮。
これは考えさせられる問題だな、と思っていた時に、閃いたんです。
「立ち漕ぎ野郎」に「ヤングケアラー」をふりかけたら、と。
深みのなかった設定に背骨が通り、全力立ち漕ぎに意味が生まれました。
まったく別の小説とテーマを合体させた方が、完成度は高くなるようです。
今、わくわくしながらプロットを再構築しています。
梶野はどうやら、こういうタイプの書き手のようです。
あまり威張って言えたスタイルでもないと思いますが。
そういうわけで、「テーマはふりかけ」の話はおしまいです。
テーマにこだわりすぎて煮詰まった、そこの貴方。
ひとまずテーマなんて忘れて、もっと面白いことを考えましょう。
なーに、テーマなんて後付けで大丈夫。私が保証します。
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