[過去話]梶野カメムシって、誰? その4



「板遊び」を語る前に、TRPGテーブルトークについて説明しておきましょう。

TRPGは、いわゆるロールプレイングゲーム(役割を演じる遊び)の源流です。

ゲームのRPGからTRPGが生まれたと思われがちですが、実は逆なんです。


TRPGを一言で言えば「ルールつきのごっこ遊び」でしょうか。

基本は玩具の人形やロボットを持って遊ぶアレです。「おままごと」でもいいです。

キャラクターを演じる側が、プレイヤー(PL)。

進行と判定をする役を、ゲームマスター(GM)といいます。


小説を書く人向けにわかりやすく説明するとですね。

GMが小説を書き、主役級のキャラだけPLに動かしてもらうって感じです。

PLの行動は原則自由なので、物語はどこに行くやらわかりません。

でも、これをうまく誘導し、大団円に終わらせるのがGMの腕の見せどころ。

進行はリアルタイムなので、当意即妙なアドリブ力を求められます。

能力とか魔法、あと世界設定なんかは、使用するルール次第。

これがTRPGです。

どうです。ちょっとやってみたくなりません?


「板遊び」というのは、このTRPGを大型掲示板でやる感じです。

PLが掲示板にレスして、それにGMが返して……と交代で進めるんです。

正式名称は不明です。「なりきり板」とも呼ばれていました。

多分、元々は好きな漫画やアニメの世界を二次創作的に掲示板で再現し、参加者はキャラになりきって会話する……みたいな場所だったんだと思います。


ただ、私が参加した板は、かなり風変わりで面白いルールでした。

「ジョジョの奇妙な冒険」(さすがに説明不要かと)の板ですが、二次的な要素は「スタンド」の基本ルールだけ。それ以外の全て、スタンドすら完全オリジナル。


スタンドを作るのは「供与者」と呼ばれる存在で、板で遊びたい人は、まず供与者に志願して、スタンドを作ってもらう必要があります。

志願者はスタンドを選べません。与えられたスタンドで活動するしかない。

スタンド能力は、すべて供与者の気分次第なのです。


ですが、板における評価は、スタンドよりPLの知略に与えられます。

弱いスタンドを使いこなせる人が尊敬されるんです。

ここら辺は原作準拠なのかも。

もちろん、キャラのかっこよさ、冴えた台詞なんかも評価対象です。

人気キャラのPLで、後にラノベデビューした人もいたりします。


生粋のジョジョ好き、TRPG経験者、さらには文章畑だった私は、一目でこの世界が気に入りました。

参加者のレベルは総じて高く、供与者のスタンドは個性的かつ魅力的。

当時(二位になって)、ウェブ小説に失望した私には、こちらの方がよほど面白そうだと思われたのです。


前述した通り、その後、私は「なろう」から板活動に傾注していきます。

最初は一プレイヤーとしてバトル三昧、二年後にはスタンドを作る供与者の側へ。

五年後、その板から独立し、新しい板を創設。

供与者と管理人の二足のわらじを履きながら、板の運営を五年ほど続けました。


あしかけ十年の間に、供与したスタンドの数は千体超。

ラノベ風に言えば、異能力設定を千個作ったってことです。

板でのバトルに耐える応用性とバランス、オリジナリティを維持しながら。

でないと志願者に見限られて、供与者廃業ですからねw


私の運営する板は、順調に参加者を増やしていきました。

自腹で雇ったイラストレーターが、キャラを描くサービスも好評でした。

(今も繋がっていれば、イラスト頼めたなと思うんですが)

人数は三十人くらい。TVアニメがある今なら、もっと増えてたかもしれません。


そんな私の板が吹っ飛んだのは、五年後のこと。

参加者と揉めた結果、数名が新たな板を作り、独立したのです。

私は引退表明し、参加者はほぼ全員、そちらに移りました。

まさに歴史は繰り返すってやつです。


引退を決めた理由は、色々あります。

大きくなるにつれ制御不能になる運営とか、数少ない協力者の失踪とか。

でも一番の理由は、創作力クリエイティブの限界だったことです。


板で過ごした十年の間、私は私生活の全てを板に注いでいました。

独立後は無限に続く志願に応え、イベントを複数主催し、運営業務もこなす。

千体作ったスタンドに被らず、それ以上の千一体目を考え続ける。


ひたすらそれを続けた結果、ついに私の才能は燃え尽きました。

クオリティが落ちてる自覚はあれど休めない。代わりもいない。

質重視の少数精鋭方針が、見事に裏目に出てしまったのです。


当時、文芸OBの一人に言われたことも引っかかっていました。

「これは創作活動じゃない」と。

私は「これも立派な創作だ」と反発しましたが、二次創作の狭い世界だという指摘は認めざるを得ませんでした。


私の板も、始めた頃の板も、今はもうありません。

何も残らなかったという意味では、あの言葉は的を射ていたのかもしれません。

どこかの板でまだ、私のスタンドが動いてる可能性はありますがw


こうして、ダシガラ状態の私は、十年ぶりにウェブ小説に戻りました。

長々と語ってきましたが、いよいよ次で最終回です。


  

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