[過去話]梶野カメムシって、誰? その2



「なろうで連載してる逆ハー小説、風呂敷広げすぎて畳めないから、どうにかして」


 前置きしますが、私はいわゆる「逆ハー」を読んだことがありません。

 「逆ハーレムもの」というジャンルの存在を知っていたくらいです。

 当時はラブコメさえ敬遠してましたから。

 前回お話したように、私の得意はバトル少年漫画系なんです。


 そんな人間に、逆ハーレムの続きを託そうとか。

 この後輩も大概ですが、そこは元文芸部の人間ですから、今更です。

 けれど今思えば、彼女は私の性格を計算していたのかもしれません。


 私は当時から、他人の作品のアレンジが得意でした。

 アドバイスをし過ぎて、「それはもうお前の作品だ」と絶句されたこともあります。まさに換骨奪胎かんこつだったいです。反省しています。

 そんな私にとって、この提案は挑戦的かつ魅力的に映りました。


 引き受けた理由はもう一つ。

 その後輩が、私より上手い書き手だったからです。


 後輩は文学部卒で、我流の私とは対照的に、教科書のような正統派でした。

 こと文章には一家言ある女で、私はいまだにボロクソ言われます。

 まあ「そこらのプロより私の方が上手い」って口癖はどうかと思いますが。


 そんな後輩の得意ジャンルはホラー。

 それが何故「逆ハー」書いてんだって話ですが、「なろう」で流行ってるのを見て、ノリで始めたそうです。一年近く適当に書きまくった結果、想定外に人気が出て、収拾がつかなくなったとか。


 あ。「なろう」というのはウェブ小説投稿サイト「小説家になろう」のことです。

 説明不要とは思いますが、念のため。

 ちなみに当時、私は「なろう」の名前すら知りませんでした。

 あの頃は今ほど有名ではなかったのかもしれません。


 それはさておき。

 私はとりあえず、問題の「逆ハー小説」を読みました。

 タイトルは「センロノハテニ」。物語の大筋は異世界もの。

 通学電車ごと異世界に飛ばされたヒロインが、帰る方法を探す旅の中、各国の王子に片っ端から求愛される展開です。愛が過ぎて襲われたり、誘拐されたりします。

 物語は中盤くらい。風呂敷を広げるだけ広げまくった状態です。


 さすが後輩、文章はお見事の一言でした。

 異世界独自の単語や神々が、随所に散りばめられています。

「設定とかある?」とたずねると「なにも」とのお返事。さすが後輩。

 これだけ壮大な物語の後始末を、逆ハー素人に押し付ける気満々です。


 私は後輩に言いました。

「オレは少年漫画的な展開しか知らん。それでいいなら引き受ける」と。

 後輩の返事は、「完結するなら何でもいい」。

 かくして、私はウェブ小説界隈で、再び活動を始めたのです。


 作者の言質を取った私は、小説の立て直しを始めました。

 毎日の打ち合わせからプロットを起こし、それを後輩が文章に直す。

 更新は週一、二回。私の立場は原作者みたいなものです。

 これは面白い体験でした。ぶっちゃけ最高でした。


 私が遅筆なのは、文章にこだわり過ぎるからです。

 何度も何度も書き直すので進まず、才能のなさが嫌になってサボる。

 その繰り返しだったわけですが、今回は違います。

 思いのままに書き殴ったプロットが、後輩の美文で出力されるんですから。

 あまりに楽しすぎて、漫画原作者を目指そうかと思ったくらいです。

 専門知識が必須らしくて、早々にあきらめましたけど。


 さて。再開した「センロ」は、秘密裡に路線変更となりました。

 ラブシーンは後輩担当ですが、それ以外は少年漫画脳全開です。

 海賊相手の海上バトルや、梶野謹製のカードバトルが始まったり。

 ナイスミドルのチョイワル国王が、主役王子を食うほど活躍したり。

 そんな中、秘められし神話が明かされ、全能神を支配する「魅了の邪神」が復活。

 邪神は例によってヒロインに惚れ、彼女をさらって天空の城へ。

 世界とヒロインを救うべく、邪神に挑む王子とライバル王子、そしてワル国王。

 全世界が見守る中、3対3のラストバトルが始まる──!


 ……え。「読者はついてきたのそれ」ですか?

 どうでしょうね。当時、PVとか知らなかったので。

 ただまあ、路線変更後も面白がってくれる読者はいましたよ。

 客層、完全に変わってた気もしますが、受けは悪くなかったようなw


 「センロ」完結まで二年かかりましたが、私も後輩も満足な出来でした。

 後輩とはもう一作、短編ホラーで合作したりもしています。

 後輩が退会してしまったので、どちらももう読めないのが残念ですが。


 さて。「センロ」の始末を終わらせた私が、次に何をしたのかですが。

 その前に、私の呪われた代表作について語らねばなりません。


 「センロ」完結より二年前。つまり「なろう」に入会したての頃。

 私はせっかくなので、短編を一本、アップしていました。

 文芸部OBの小説会で、だらだらと書いていたものです。

 身内評価はまあまあってところでした。


 それがまさか、あれほど評価され、人気を博するとは。



 続きます。


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