第151話 一歩

「GAAAAAAAAAAA!」


 さて、オレはエレオノールが整えてくれた戦場でオークとタイマンだ。相手の得物は、両手槍。先手を取るのは難しいな。どうやってこちらの間合いまで踏み込むかが勝負を分けるだろう。


 オークの槍を避け、飛び込まねばオレに勝機は無い。


 まぁ、ぶっちゃけ“ショット”を使えば楽勝な相手ではある。レベル4ダンジョンのモンスターごときに、ヘヴィークロスボウで撃ち出されたボルトを対処するのは不可能だ。


 だが、それではオレの剣の腕は上がらない。それに、“ショット”は強力だが、弾は有限だ。


 できる限り、余裕がある時はオレの成長の糧にさせてもらう。


「GAUA!!」


 オークの持つ太い槍が迫る。オレはそれを右肩を突き出すように半身の構えを取って迎え撃つ。万が一を考えた防御よりの型だ。オークからは、オレの剣を持つ右腕が邪魔で胴の急所を狙えない。


 オークもそれを十分承知だ。オークの槍の軌道は、跳ね上がる。その狙いはオレの顔だ。視界がオークの槍で満ちていく。オレの視界を封じる気か。


 オレは上体だけ左に傾けて、迫る槍を避けようとする。オレの右顔面スレスレをオークの槍が過ぎていく。


「くっ!?」


 右耳がカッと熱くなる感覚。掠ったか。本当にギリギリの回避だ。クロエたちを相手に模擬戦をして、経験を積んだつもりだったが、やはりオレには接近戦のセンスは無さそうだな。クロエたち、特にジゼルを相手に未だに勝利を重ねることができているのは、ジゼルのクセを把握して、先を読んでいるだけ。初対戦の相手にはこの様だ。


 右耳の熱さに反応してしまいそうになるが、意思の力でねじ伏せ、オレは右腕を振り上げてオークへと大きく踏み込む。オークの槍をかいくぐった先に見えるのは、槍を握るオークの太い右腕だ。


 オークの槍の握りは事前に確認している。オレは最初からオークの右手を狙うために槍を左へと回避し、踏み込んだのだ。


 丁度、剣の最大攻撃力部分である剣先が届く距離。近くで見ると、オークの右腕は人間にはありえないほどの太さを誇っていた。とてもオレには両断できそうにない。ましてや、片手では物理的に不可能だ。


 だから、物理以外の力を借りる。


「ヒート……!」


 オレの呟きに、右手が一気に熱を持つ。オレの新しい相棒。片手剣型の宝具“ブレイブソウル”の力だ。


 一瞬にして黒鉄から灼熱に赤化した“ブレイブソウル”の刀身。この刀身によって、オークの右腕を焼き斬る!


「だぁあああああああああ!」


 オレは右手一本で、“ブレイブソウル”を全力でオークの右手首に叩き込む。オークの茶色のゴワゴワな体毛など一瞬で焼き払い、ジュッと脂が溶け、肉を焼く音がやけに鮮明に聞こえた。


「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」


 石造りの幅のある廊下に、オークの絶叫が響き渡る。目の前で自分の右手首が溶けるように焼き斬られたらそうなるか。倒せば白い煙となって消え、生命というよりも機械仕掛けにも感じるダンジョンのモンスターにしては、大袈裟な奴だ。


 オレは更に追撃しようと一歩踏み込む。軽くオークの右手首を斬り落とした“ブレイブソウル”は、振り下ろし、止めた。斬り上げを放てる。


 その貧相な皮鎧ごと斬り裂いてやる!


 しかし、オレの歩みは槍によって邪魔される。オークが、残された左手で槍を操り、オレの体を押し退けるように旋回させたのだ。


 だが、槍の柄の部分で体を押されているだけだ。大きな体躯を誇るオークだが、片手では両手槍を扱いかねると見える。


 オレは、オークの悪あがきに付き合うつもりは無い。


 オレはオークの槍に体を押されつつも、地面に身を投げ出すように更に一歩オークに踏み込んだ。瞬時に体を前方に倒し、オークの槍をくぐる。そうすれば、オレとオークの間を阻むものはなにも無い。


 更に一歩踏み締め、オレはオークにタックルするように迫る。もはや、無防備なオークの腹が丸見えだ。


「はあぁあッ!」


 ずっと振り下ろしたままだった“ブレイブソウル”をついに振り上げる。予想通りオークの皮鎧など一瞬で融解し、オークの下腹から喉下まで焼き斬る。


 ジュゥウウウウウウウウウウウッ!


 まるで熱した物体を水に入れたような音を奏でながら、オークの腹、胸が斬り開かれた。一瞬、焦げた内蔵のようなものが見えた気がするが、それもすぐに白い煙となって空気に溶けるように薄れていく。


「ととっ」


 余りの前傾姿勢に転びそうになりながらも、なんとか踏み止まった。オークだった白い煙を突っ切るような形だ。ダンジョンのモンスターが、倒すと煙となって消える存在でよかったな。そうじゃなければ、オークの斬り開いた腹の中に突っ込んじまうところだった。


「よし……」


 オークを倒せた。オレ一人で、接近戦で、ギフトの力に頼らずに。それは確かにオレの自信となり、力となる。未だに赤々と灼熱する“ブレイブソウル”を強く握り締め、オレは煙の晴れた前方へと目を向けた。


 さて、エレオノールたちの状況はどうだ?




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