第141話 話し合い
「それじゃあ、改めて次行くダンジョンの説明をすっぞ」
結局、姉貴にはオレが何を忘れているのか教えてもらえず、もやもやした夜を過ごした次の日。オレたち『五花の夢』のメンバーは、屋敷のリビングでミーティングをしていた。
姉貴はオレとクロエが結ばれることを望んでいるような雰囲気があったが、さすがに叔父と姪では血が濃すぎる。そのことは姉貴にも分かっているはずだ。姉貴はなんでそんなことを望んでいるのか、いくら考えても、オレには分からなかった。
そういえば、姉貴に恋人ができたことは伝えられたが、肝心の誰かまでは話せていないな。また、機会があれば告白しようと思う。とはいえ、オレも恥ずかしが勝ってちゃんと言えるかどうか……。
なにせ、人生で初めてできた恋人だからな。親族に伝えるのってこんなに照れくさいものだったのか。初めて知ったわ。
「次に行くのは、通称『オーク砦』って呼ばれてる砦型のダンジョンだ。今までの洞窟型や森林型とはまるっと違うタイプになる」
『五花の夢』のメンバーが、真剣な顔でオレを見つめて話を聞いている。もし、視線に攻撃力があったら、今頃オレの顔は穴だらけだろう。
そんな中で、オレの顔から視線を逸らしているメンバーが一人だけ居る。ラブリーエンジェルクロエだ。
クロエとは、最近ちょっと微妙な関係だ。無視されているわけじゃない。ケンカしたわけでもないし、言い争いすらしていない。でも、避けられているような気がする。まるで、オレにどう接したらいいか分からないみたいだ。
そんな態度のクロエに、オレもどう接していいのか分からず、当たり障りのない接し方になってしまう。どうにかしたいが、原因が分からないのでどうしようもない。
なんとなくだが、世のお父さんへの試練。思春期の娘特有のものじゃない気がするんだよなぁ。嫌悪されている感じではない。ただ避けられてる。
「今回のダンジョンで、もっとも気を付けなくちゃいけない点がある。それが、トラップだ。トラップの発見解除は、斥候役のクロエが担うことになる。今回は初めてのトラップがあるダンジョンだからな。オレもトラップの発見解除に同行する。クロエ、よろしく頼む」
「ぁ、……うん」
「それと、ダンジョンに行くまでの間、簡単だがトラップの発見方法と解除方法を伝授するつもりだ」
「……はい」
オレの話を聞いていないわけじゃない。しかし、なんというかいつもの元気、覇気がない。他のメンバーとは以前のように元気に接しているのに、オレだけこんな感じだ。
ぶっちゃけかなり辛い。このままクロエに嫌われるようなことがあったら、オレは自害しかねないぞ?
「トラップの発見解除は、たしかにメインはクロエの役目だが、他のメンバーが気を抜いていいわけじゃない。トラップの発見解除の方法は、全員覚えてもらうからそのつもりでな」
「「「「はい!」」」」
エレオノールたちの元気な返事に、少しだけ心が晴れるような気がした。
「そして、戦闘面だが……。ダンジョンの名前にもなっている通り、主な出現モンスターは、オークだ。オークを見たことある奴は居るか?」
クロエたちから返事は無かった。どうやら初めてのオーク戦になりそうだな。
「オークは人型のモンスターだ。その身長はオレよりもデカく、横にもデカい。腹も出てるし、肥満な体型だ。だが、意外と俊敏で器用。そして、その見た目通り力もあるパワー系だ」
オレの簡単なオークの説明に、エレオノールが少し困った表情を浮かべる。
エレオノールの懸念通り、もしオークとエレオノールが力比べをしたら、オークの圧勝だろう。力で劣るというのは、前衛、とくにエレオノールのようなタンクにとっては厄介な問題だ。
これから攻略するダンジョンのレベルが上がるにつれて、モンスターの力は増す一方だ。女性の中でも平均的か小柄くらいのエレオノールは、まず力では敵わない相手ばかりだろう。その問題をどうやって克服していくか、それはエレオノールにとっての永遠の課題だ。
「オークをパワー系と評したが、脳筋ってわけじゃねぇぞ? たしかに剣や斧で武装したオークが多いが、中には弓や魔法も使う奴も居る。要注意だ」
オークのバカ力で引かれた弓から放たれる矢はもちろん脅威だし、魔法にいたっては説明するまでもなく強力だ。クロエたちの表情も真剣に思案しているように見えた。
そうだ、考えろ。この厄介なモンスターに、どうやったら対抗できるのか、楽に勝てるのか。考えて考えて考え抜いてくれ。決して思考を止めるようなことは許さない。
ただ答えを教えてその通り動けるように訓練するのは簡単だ。だが、それでは考えることを放棄した木偶坊ができるだけである。オレはそれを手痛い失敗と共に学んでいた。
「それじゃあ、どうやってこの厄介なオークどもをやっつけるか考えてみようぜ。自分にできること。そして、味方に望むこと。お前らはパーティだ。一人じゃできないことも、協力すればできるようになるかもしれねぇ。話し合ってみようぜ」
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