第114話 護衛
「アベルさん! 今日はよろしくお願いします!」
「いやいや、こっちの方こそよろしく頼む。なにせ、オレたちの方が守ってもらう側だからな。お前たち『蒼天』の働き、期待してるぜ?」
「はいっ!」
オレは目の前の黒髪の青年の肩を軽く叩くと、青年はまるで軍人がやるような敬礼をしてみせる。ハキハキとしたやる気が伝わってくるな。いい青年だ。
青年の後ろに居る五人の人物も、青年と同じくやる気の炎を宿しているようだった。目に光が溢れている。
彼らは冒険者パーティ『蒼天』のメンバーだ。まだレベル4ダンジョンを攻略中とのことだが、その実力はオディロンのお墨付きである。まず、信頼してもいいだろう。
彼らで拠点に迎えるのは、三パーティ目だ。まだ夕方とも言える時間帯なのに、これだけの冒険者が集まったのは、偏にオディロンのおかげだろう。
冒険者がこれだけオレたちの拠点に集まっている理由。それは明日、ここでブルギニョン子爵家の次期当主との会談があるためだ。
会談の予定は明日なのに、彼らは前日から護衛のために集まってくれている。今夜、襲撃があるかもしれないからな。彼らの機敏な対応は、とても助かる。
「アベル、ちょっといいかしら?」
「おぅ」
イザベルの声に振り向けば、姉貴とクロエたち、そしてそれを護衛するオディロンたちのパーティが見えた。主要人物勢揃いだな。何かあったか?
「どうした、勢揃いで? 何か問題でもあったか?」
「明日のスケジュールの確認よ。まずは私たちで決定して、それを周知した方がいいのではなくて?」
「そうだな」
なにせ、急に決まったことだから、明日本番はどういう流れになるのか、警備のための配置はどうするのか。もう一度確認した方がいいだろう。
「まず、当日の警備状況だが、オディロンのパーティが冒険者たちの指揮を執ってくれ」
「よいのか? お前さんが主じゃろ? お前さんが指揮を執った方がよくはないか? お前さんが指揮を執って、儂が補佐するという形でもいい」
「オレは会談に出ないといけないからな。指揮官はフリーの方がいい。それに、二頭体制は混乱の元だからな。オディロン一人の方がいいだろう」
まぁ、この場合オディロンが指揮を執れなくなったら問題だが、オディロンの周りには彼を支えるパーティメンバーが居る。オレが心配しなくてもよろしくやってくれるだろう。
「ちょっといいかしら? 会談なのだけど、私たちも出席できないかしら?」
「そりゃ……」
イザベルの言葉に、オレは一瞬言葉が詰まる。
「わりぃが、ソイツはなしだ。お前らは、オディロンと一緒に後方待機だな」
「それだと、貴方がまた無茶な提案をしかねないでしょう? 私たちも一緒に居るわ」
「うーん……」
どうやらイザベルたちは、オレがまた無茶なことを言い出さないか心配しているらしい。だとしても、オレはここを譲るつもりは無い。
「それでもダメだ。お前たちには、このチャンスを活かして、いろいろと学んでほしいからな」
「チャンス? 貴方は、この状況の何がチャンスだと言うの?」
「チャンスじゃなくて、ピンチじゃね?」
「どういうことでしょうか?」
「考えてもみろよ。ここに集まった冒険者たちは、皆お前らより格上の連中だ。その指揮や戦術を目の前で見れるんだぜ? これ以上の学ぶ機会なんてありゃしねぇって」
クロエたちが、オレの言葉に考える様子を見せた。しかし、イザベルだけはオレの本心が分かっているのか、呆れたような目でオレを見ている。オディロンたちもだ。
「貴方がそう言うなら分かったわ」
「ベルベル? ほんとにいいの?」
「やっぱり、あたしたちも叔父さんの傍に居た方が、いざという時役に立てるんじゃない?」
「ですが、アベルさんの言い分も分かりますしぃ……」
「ん~~……?」
クロエたちは納得したような、納得していないような微妙な雰囲気だ。まぁ、今回は言い訳が下手だったからな。容易に騙されてはくれないらしい。
「まぁ、そういうわけだ。あとはイザベルに任せる。お前がオレの居ない間のリーダーになってくれ」
だが、オレは敢えて不安定な状態のパーティをイザベルに託すことにした。イザベルなら、クロエたちに納得のいく回答を用意できるだろう。
オレは常々思っていたが、イザベルはリーダー向きの人材だ。今はオレの陰に隠れてしまっているが、その才能を少しでも伸ばしていきたい。
オレが居なくなったとしても、イザベルをリーダーにパーティが再生するのが理想だ。まぁ、オレは簡単にくたばる気はさらさら無いがな。
「そういうこと……。これは貸し一よ?」
「いいだろう。頼んだぜ」
「はぁ……」
イザベルが、溜息と共に了承する。頭の良いイザベルなら、オレの思惑を読み切っていてもおかしくないな。こういうところも頼りになる。
「で、だ。オディロンは今からクロエたちの護衛に就いてくれ」
「それは構わぬが……。お前さんの護衛はどうする?」
「それは……」
本当なら、貴族との会談にも経験豊富なオディロンを傍に置きたいところであるが、第一は姉貴やクロエたちの命だ。ここにオディロンを置くのは譲れない。
「オレの護衛には……」
オレは今まで挨拶した護衛の冒険者を思い返す。
やる気はありそうだし、『蒼天』にお願いするかな。
そんなことを思っていた時だった。
「アベルさん! アベルさん!」
今しがた頭に浮かんでいた『蒼天』のリーダーが、慌てた様子でオレに駆け寄ってくるのが見えた。
戦闘状態に入ったことを知らせる笛の音は聞こえない。敵襲があったわけではないらしいが……。
何があった?
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