第27話 残したものと残されたもの


世界のルール違反ということもあり、楽希はデスゲームの会場を出ることができた。久しぶりの清々しい空気を吸う。


(俺、出てきたんだ……)


夢のような時間を過ごしたように感じて、世界という人物があやふやになる。

街中には人々が当たり前のように行き交い、誰もが幸せそうに生きている。同じ世界を生きているようには感じなかった。不思議な気持ちになる。


(なんか、俺、今までこんな幸せな街で暮らしてたんだ)


楽希は改めて幸せを噛み締める。その幸せは、結局誰かの不幸の上で成り立っている。楽希は今まで以上にそう思う。


(この命も……結局、世界に救われて成ったものだから)


楽希はこのまま家に帰ろうと思った。家族が心配しているに違いないと思ったからだ。しかし、その前に行かなければならないところがあった。それはデスゲームのゲームマスターに渡された紙に書かれていた住所の場所だ。こんな残酷なゲームを仕向けたゲームマスターだ。何を考えているかは分からない。しかし、そこに行かなければならないという義務感が楽希を襲うのであった。











死ぬことで今までの自分の罪を償うなんて馬鹿みたいだ。それは甘えた考えである。晴のためにも私は生きていかなければならない。……それなのに……どうして、私と賢人はこのデスゲームから出られない……??


「伊吹さん、まだ死にたいと思ってるの?そろそろ、晴さんのためにも生きたいって思いなよ」


賢人は冷たくあしらうように伊吹のことを見つめる。


「私は生きたいと思っている……!」(本当に思ってる。そのはずだ)

「口先じゃ、このデスゲーム出られるわけないよね」


賢人と伊吹が言い争いを繰り広げる中、1つのメールが届いた。


"生死の決着『017』号室クリア。

願いは「晴を生き返らせること」。運営側が考慮した結果、蘇生は無理と判断。その代わりに遺書を届ける。"


ゲームマスターから伊吹宛のメールだった。


「『017』号室って……世界くんと楽希くんだよね?」


突然のメールに2人は戦闘態勢を緩めた。2人してそのメールに食らいつく。


「世界が自殺した……ってことだな」

「そっか。……でも、生死の決着ってなんか可笑しいね。世界くんは死んで、多分、楽希くんは生きてる。全然決着じゃないじゃん」

「それもそうだな」

「まぁ、そんなことは置いといて……晴さんの遺書、ちゃんと見なきゃだね」


賢人はポストの方へと駆け寄る。確かにそこには遺書らしきものが届いていた。

真ん中に『お姉ちゃんへ』と書かれている。伊吹はその文字を見て泣きそうになった。正真正銘、晴の文字だったからだ。


「これ、開けていいのか……?」

「もちろん」


伊吹はそっと封筒を開けた。そこには2枚の紙が入っていて、どちらも手紙のようだった。



"お姉ちゃんへ。

この手紙がお姉ちゃんに届いていたら凄く嬉しいなと思います。私が遺書を書くってなって誰に書こうかとか考えず、お姉ちゃんを選びました。だって、私の味方はお姉ちゃんだけだったからね。とりあえず、これが最後になるわけだから全部伝えるね。

私には青葉さんという婚約者がいました。お姉ちゃんにずっと言えなかったのには理由があります。それは私には霊視があるからです。お姉ちゃんとずっと一緒にいることがとても幸せで本当のことを言えませんでした。ごめんなさい。だけど、1つ思うことがあるんだ。霊視があろうが無かろうが、お姉ちゃんが1番強い人だということ。確かにお姉ちゃんが私の同級生を殺して、見るに堪えないって思うこともあった。それでもお姉ちゃんが1番私のことを考えてくれていたんだって凄く分かるよ。ありがとう。私は何事に対しても勇敢に戦うお姉ちゃんが大好き。これからもそんなお姉ちゃんでいてほしい。

私がいなくなっても、お姉ちゃんには強く生きてほしい。私は強いお姉ちゃんが1番大好きです……一緒に死のうなんて考えちゃダメだよ。 晴より"



この長い文章が伊吹にまとわりつく。怖いほど耳の中で反芻する。


(強いお姉ちゃん……私にもまだ全うできるのだろうか。……いや、しなければならない。私はやっぱり……生きなければならないんだ!!)


伊吹は賢人と言い合いをして、既に生きたいと思っていたのかもしれない。しかし、それが確信へと変わる。生きることで今までの汚点を塗りつぶすという手段があることに気がついた。


「生きる……!生きてみせる!」(なんて単純なんだ……。晴のためなら、殺しだって死ぬことだってできるのだから……生きるなんて簡単だ)


しかし、デスゲームからの出口は開かなかった。











(ここは……病院?)


楽希は街中にある国立病院の前にいた。ゲームマスターが渡した住所である。楽希は病院に少しの期待を寄せる。


(もしかしたら、世界がいるのかもしれない……!)


楽希は勢いよく駆け出した。

楽希が残したものと言えば、世界だ。ずっと世界のことを考えてしまうが故に、現実世界を現実世界だと認められないところがあった。しかし、もう1回世界に会えるなら……話せるなら……何か変わるのかもしれない。


残したものと残されたもの……どちらも幸せになれたら、最高だ。

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