第21話 僕の守りたいもの
僕の世界はやっぱり暗かった。
生まれた時から今まで、全部、全部。誰1人守ることもできず、傷つけてばかり。生きる資格もないくせに、のうのうと生きて、足掻いて、疲れて……。もう、ここでお終いで良いって思った。このゲームに参加して、もう死んでしまえば良いって思った。そして、ペアを殺して最後までクソみたいな人間のまま死のうって思った。
ただ、初めて楽希くんを見た時、今までの嫌悪感が全て吹き飛び、僕を普通の人間として受け入れてくれるように感じた。
"こんな人、殺せるわけないよ"
僕はそのように思った。最初出会った時、楽希くんは怯えていた。あちらにとって僕は死にたい人間なのだから。
"安心して。僕は君を殺さないよ。"
"そんなの嘘に決まってる。どうせ、騙したいだけだろ?"
"ううん、本当だよ。"
そんな初々しい会話を思い出す。あの頃は本気で2人で生きる方法があれば良いと思っていた。僕が楽希くんのことを殺せないのは承知していたから。でも、どうしても生きずらい世の中だから死にたい人間であるのに、本気で生きたいなんて思えない。その頃から分かっていたはずだ。
それなのにどうしてあんな誓いをしてしまったのだろう。どうして、どうして……。
どうして、楽希くんに期待させちゃったんだろう……
「世界、大丈夫か?」
ふと気がつくと、伊吹が世界の肩を叩いていた。一瞬だが、世界は視界を失っていた。
「う、うん、なんか、考え事してたみたい」
「変な刺激を与えたみたいだな……ごめん」
「ううん、伊吹ちゃん謝らないで。これは僕の問題なんだ」
「問題……?」
「ちょっと、話聞いてくれる?」
「いいけど」
世界は改まって伊吹の方を向いた。何か決心したような強い志を感じる。
「僕さ、生まれて初めて守りたいものができたんだ。大切なもの」
「……」
「楽希くん。僕、最初は楽希くんのこと、霊が見えないから好きなんだって思ってた。実際、今もそう。だから、自分のものにしたかったし、誰にも取られたくなかった。そして、2人でこの世界を生きたいって思った。……だけど、今は違う。取る取られるじゃない。僕が生きる生きないじゃない。楽希くんには楽希くんの人生を歩んで欲しいんだ。僕の人生にとらわれない生き方があるはずだから」
世界には妙な静けさが漂っていた。つらつらと発せられた文章に伊吹も少し困惑している様子だった。その瞬間、伊吹はあることを悟った。
「おい、お前っ」
「言わないで、伊吹ちゃん」
世界は伊吹の言葉を遮り、伊吹の口の前で人差し指を立てた。そして、世界は笑った。
「僕がこのデスゲームを変えるよ。絶対にあるはずなんだ。『生きたい人間』が生きることが出来て、『死にたい人間』が死ぬことの出来る方法が、ね?」
「……世界、ちゃんと話し合えよ」
世界は笑顔で頷いた。
「あと、ちゃんと連絡しろよ」
「うん、分かってるよ。僕も簡単に勇気が出るわけじゃないから。大きな転機が迎えに来たらやるつもり」
伊吹は大きくため息をついた。けれど、止める筋合いはない。だって、伊吹も死にたい人間なのだから。ただ、楽希のことを思うと、この上なく苦しかった。それは世界自身もそうかもしれない。
「でも、これで楽希くんのこと、守れるよね」
世界は独り言のように呟いて、ソファから立った。伊吹もそれを見て立つ。諦めなければならない世の中かもしれない。それでもやるせない気持ちになってしまう。
「世界や楽希に干渉しようとは思わない。だから、好きにしてくれればいい」
「なーんか、伊吹ちゃん冷たいね。僕のこと、どうでもよくなった?」
「んなことあるか。ただ、私から言うことはないってことだよ」
二人の時間はしんみり流れた。気力を失った二人の人間である。
あーあ。もう、どうでもいい。僕は生きるに値しないんだって。確かにこんな人間いても要らないよね。楽希くんもどうせ、何とか自分が生き残るために自分を繕ってるだけ。
伊吹ちゃんはどうなんだろ。本当に死にたいと思ってるのかな。お迎えが来てないからそうなんだろうけど……うーん、一緒に死んでくれるかな。もしかしたら、賢人くんも実はもう生きたいなんて思ってないのかも?あんな残酷な光景を見たからね。大事な人なはずなのにそんなことを考えてしまう。けれど、そこに楽希くんは挙がらないんだ。本気で生きてほしいって思ってるんだ。だから、僕だけが死ぬよ。
きっとこのやり方なら出来るんだ。
"『死にたい人間』の自殺"
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