ペアと協力すること
第9話 新しいデスゲーム
結と綾羽が死んでから、何日もの月日が流れた。賢人は伊吹のことで頭がいっぱいだったし、伊吹も結と綾羽の死を心底受け入れていなかった。世界と楽希もこれといった行動は起こしていなくて、平穏な時間が流れていた。時には4人でご飯食べたり、遊んだりなど普通の学生生活を送っているようだ。それでも心の内には秘めているものがあるに違いないが。
そして、メールで送られる死亡者の部屋番号も少なくなっていた。結と綾羽が死んだ日は4部屋も挙げられていたが、その日以降は1部屋または0部屋の時もあり、デスゲームは緩やかに進められている……いわゆる、マンネリ化だ。
デスゲームが始まってから約2週間が経った。個々に色んなことがあったとはいえ、賢人と伊吹、世界と楽希の関係は大して変わらなかった。現に『017』号室で団欒している。
「最近、死亡者も減ったよね」
「そうだな。少し安心してるわ」
「でもでも!主催者側が何仕掛けてくるか分かんないよ〜?」
「それ絶対にフラグだろ」
その会話と同時に4人のスマホに通知音が鳴った。
「世界お前……」
「ちょ、伊吹ちゃん!?僕のせいじゃないよ!まだメールがどんな内容かも分かんないし!」
伊吹は世界のことを酷く睨んだ。その様子に賢人と楽希も苦笑いだ。
「僕がメールの内容読むね」
"最近、デスゲームのマンネリ化が激しいです。これから新しいデスゲームを始めてもらいます。その名も『4vs4』。名前の通り、4人グループを組んで戦ってもらいます。2ペアで4人とするので、そこの組み合わせは自由にしてください。仲良い人とペアを組むのもあり。全くの赤の他人でもあり。
そして、いつもと異なることは……ペアと協力することです。いつものように殺し合いばかりでは相手の4人チームを殺せません。そして、戦うペアは運営側で決めますが、どちらかが刃物で刺されなければこのゲームは終わりません。しかし、4人チーム全体が共有の命を持っている訳ではなく、元々のペアが共有の命を持っています。例えば、『001』号室と『002』号室の4人チームができたとしましょう。『001』号室のどちらかが刺されました。もう片方は死にますが、『002』号室の方は死にません。よって、このゲームでは最低でも4分の1の人間が死ぬことになります。
また、今までと同様に『死にたい人間』の自殺行為、毒殺は禁止とします。そして、このゲームが開催されている最中は生きたいと思っても退場出来ません。
『生きる』側に寄り添うか、『死ぬ』側に寄り添うかはあなた次第です。"
「なにこれ……」
「確かに、最近は普通の生活を過ごしているような気がするからな。どれだけ死にたくても、その代償に誰かを殺すなんて普通の人間はできない」
「そりゃあ、マンネリ化するよ。でも、少し楽しそう」
「いや、楽しくはねぇだろ」
至って普通の会話を交わしているが、この新しいデスゲームが始まってしまえば、4分の1が死んでしまう。デスゲームの会場だからとはいえ、かなりの確率だ。
「でも、死んじゃうよこれ」
「いや、大丈夫だ」
「え、伊吹さん正気!?ていうか、これ『死にたい人間』はちゃんと戦おうとしないでしょ!だって放っておいて、ペアが殺されたらそのまま死ねるんでしょ……!?」
「ちょっと待て。私もそこまで無慈悲な人間では無い。それに勝負に関しては勝ちにこだわるからな。ここで死ぬのは、死にたいとしても勿体ない」
「伊吹さん……!」
賢人は目を輝かせた。賢人にとって伊吹と協力して殺し合いができるのは何よりも心強い。
「世界はどうなんだよ」
楽希は心底不安そうに世界を見つめた。
「僕も戦いは勝ちたいね!絶対に負けられないよ!それに、死に方くらい自分で選びたいじゃん。赤の他人に殺されるとか自殺の方がマシ」
「自殺はできねぇからな」
「楽希くん真に受けないでよ!自殺なんてしないから!」
(それに死ぬなら、隣に楽希くんがいてくれないと……)
4人ともそのルールを飲み込むのに時間はかかった。しかし、1つだけ確信したことがある。
「僕ね、伊吹さんが良いならだけど、世界くん楽希くんペアと組みたい!」
「それは私も賛成だ。やりやすい」
「僕もそれ言おうとしたのにー!賢人くんに取られちゃった。楽希くんもいいよね?」
「あぁ、当たり前だろ」
この4人チームこそが、至高であることを。チーム力だけは自信があった。
チーム登録をしてから、約1週間が経った。その間は新しいデスゲームへの準備などで全く殺し合いは行われなかった。そして、賢人たち4人は身体強化に努めていた。まるでスポーツ試合の勢いのようであったが、いたって殺し合い。生死がかかっているのだから、絶対に勝たなければならないのだ。
「伊吹さん1番身体能力あるよね!?」
「家系の事情でな。体は鍛え上げられているんだ」
(だから、伊吹さんは人を殺すことができたのかな)
これから伊吹と協力する以上、この感情は奥の方に閉まっておこうと考えていた賢人だが、時折顔を出す。しかし、未だに信じられなかった。どう考えても、人を殺すような人ではない。
「世界は……全然だな」
「ちょっと楽希くん舐めないでよ!僕だって本気をだせば……ふっ!」
世界は腕立て伏せ3回で限界だった。楽希は体力テストは万年Aだったようで、基礎的な体力は備わっている。
「僕も全然体力ないや。……あっ!」
「どうしたんだよ」
「今日って、対戦相手発表日じゃない?」
「そういえば、そうだったね。でも、どうせ知らない人でしょ」
世界は自分のスマホを手に取った。ホーム画面には通知が来ていた。件名には『4vs4 対戦相手について』と書かれていた。4人とも身体強化に必死で通知音に気づいていなかったようだ。
「みんな〜、対戦相手の情報きてる」
「そんなに軽い気持ちで見るものじゃないよ……!」
世界のスマホに皆目をやる。世界がメールを開いた。
"『023』号室 『026』号室スクワッド
スクワッド番号7"
と表示されていた。
「いや、誰」
世界が呟いた。鉛のように重い空気が流れるはずの空間で、団欒っぽい空気が漂う。
「私たちの1つ上のフロアの奴らだな」
「じゃあ、面識ないのかな」
賢人たちのフロアより上はいわゆる自室しかないため、行く機会がない。食堂は2階、エントランスは1階に設備されていた。
「どうやって区別すんだよこれ」
「確かにそうだよね」
「あ、名札が配布されるみたいだね。胸に7と書かれている人物を探せばいいんだよ」
「私達の番号はなんだ?」
世界がもう一度メールに目を通す。最後の方に書かれていた。
「6だって。あと、名札はポストに入ってるみたいだよ」
楽希はポストの方に向かった。
「本当だ。2枚入ってる。賢人たちも見に行ったら?」
「そうだな。私が行ってくる」
「伊吹さんありがとう」
伊吹は『017』号室を出た。
そして、このゲームは今夜の24時から始まるらしい。今は16時。8時間後にはゲームが始まっているのだ。と言っても、消灯時間は23時。起きるのも決まって7時と睡眠薬で調節されている。実質始まるのは明日の朝7時からだ。
ピンポーン
インターホンが鳴った。
「あれ、伊吹ちゃん?……でも、伊吹ちゃんって決まってノックするよね」
「一応ドアスコープで確認しろよ」
「はーい」
楽希の指示を忠実に守り、世界はドアスコープで外を見た。そこには世界にとって見知らぬ人が立っていた。
「うん?誰だ??」
そこには会場内では珍しい女とかなり身長の高い男が立っていた。男の方は下手したら190cmあるかもしれない。
「世界、俺にも見せろ」
変わって楽希がドアスコープを覗いた。女の方は海音だった。楽希は食堂の件から面識がある。男の方は分からない。
「海音じゃねぇか?」
「え、海音さん?」
「2人とも知り合いなの?」
「賢人と2人で食堂行った時に出会った」
「そうなんだね。開けても大丈夫なの?」
「男の方は分からないけど、海音さんはキツイけど良い人そうだったよ」
「じゃあ、開けてもいいね。まだゲームも始まってないし」
扉を開けると、ドアスコープに映っていた男女が姿を現した。名札に『7』と書かれていて対戦相手であることを悟る。賢人と楽希は動揺した。仲良くしていこうと思っていた矢先のことだったからだ。世界は警戒心を強めている。
「え、スクワッド番号6ってあんた達だったの」
海音は怪訝そうに言った。
「海音、まずは自己紹介からだ」
隣の男が海音の態度に注意する。ハイライトのない眼差しには恐怖を煽る何かを感じる。
「
「伊織 海音です。よろしくお願いします」
2人は対戦相手であると言うのに、律儀に挨拶した。それに伴って、3人も挨拶をする。
「あれ、海音さんって疾風くんとペアじゃないの?」
食堂で会った時にはそのような会話をした。それに貴一と海音には仲が良いの欠片もない。むしろ、その関係性がペアとしては正しいのだが。
「俺たちはそれぞれの部屋から代表して来ているんだ。海音と疾風がペアだ」
「あ〜、なるほど?」
「じゃあ、貴一くんにもペアがいるってことだね?」
「……あぁ、俺にもいる」
既に世界は心理戦を繰り広げていた。賢人と楽希は依然として状況が読み込めていない。良い意味で知り合った海音と疾風と殺し合いを行わなければならないからだ。
「俺、殺せない。ごめん、無理かもしれない」
対戦相手がいる前だと言うのに、楽希は弱音を吐く。不安が募っていた。
「楽希くん、とりあえず僕の側からは絶対に離れないで。絶対に大丈夫だから」
世界は強気でそう言った。やはり賢人はメンタルが強いからか、状況が読み込めていないとは言え、感情に変化はなかった。元から殺し合いは誰が相手であっても怖いものには違いないので、変化がないのもまた普通なのかもしれない。
貴一は軽蔑するような目で世界と楽希を見ていた。また、「案外余裕かもしれない」という微笑みまでもが表に出ている。海音は何とも言えない表情でため息をついた。
「殺しに対してそこまで臆病だと、俺たちが勝ったも当然だろうな」
貴一は嘲笑った。初めに会った時とは打って変わって、冷酷な部分が剥き出しになっている。
「あと、俺のペア蒼葉だから。そこだけ把握よろしく頼む」
貴一は爆弾を置いて去っていった。まるで賢人や世界にとって蒼葉は毒であるということを知っているような言い回しだった。そして、普段ならここで世界が言い返すのだが、蒼葉という単語を聞いただけで色褪せる。同時に賢人も動揺しているようで、冷や汗をかいていた。事情を知らない楽希だけが頼りであったが、当の本人は誰よりも顔を蒼くしていた。
賢人たちの敵は……非常に厄介であった。
良心からも悪意からも。
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