第2話 新しい仲間
賢人と伊吹はお腹が空いたこともあり、2階にある食堂に向かった。途中のエレベーターは2人以外に誰も乗り込んでこなかった。まだ各々部屋にいるのか人気が少ない。賢人と伊吹はそれぞれハンバーグ定食と和風定食を手に取り、向かい合って座った。
「なんか、人少ないね」
「そうだな。これから殺されるのかもしれないからな……食欲も湧かないだろ」
「そうだよね。でも、僕はめちゃくちゃお腹空いてるよ」
「やっぱり、お前メンタル強い?」
「いやいやいや!絶対に弱いと思う!」
ペアとは思えない会話が続いた。いつかこの2人が殺し合うのだと思うと虫唾が走る。それほど2人は仲良くなっていた。しばらくの間、2人だけの時間がながれていたが、15分後くらいにまた新しく2人の男が入ってきた。そこがペアなのかどうかは分からない。しかし、楽しそうに話をしているようだった。その2人は定食を持つと、賢人と伊吹の方に歩いてきた。
「隣いい?」
「いいぞ」
マッシュの頭をした中性的な顔立ちの少年が伊吹の隣に座った。その少年の隣にいたのは、ヤンキーの見た目をした少年だった。どちらも同い歳くらいに見える。
「
マッシュ頭は藍沢 世界と言うらしい。明るい性格をしているが、『死にたい人間』。何か抱えているのだろう。
「
「一応ってどういうこと!ちゃんとペアじゃん!」
「お前そんなに明るいんだから早く生きたいって思えよ!」
「思えてたらもう退場できてるよ!」
出会って半日で喧嘩をするほど仲良くなっていた。案外、ここのデスゲームには楽観主義な人間が多い。
「部屋番号は何なの〜?」
「『018』だよ」
「ばかか!簡単に教えやがって」
「ご、ごめんなさい……!」
「あはは、悪用なんてしないよ。僕達も番号教えるし!『017』だから隣だね」
食堂に4人以外誰もいないが、賑わっていた。デスゲーム中の高校生だとは思えない。特に世界は人を笑かすことが得意なようで、明るい雰囲気を作っていた。
「そう言えばさ、賢人くんと伊吹ちゃんはどっちが『生きたい人間』でどっちが『死にたい人間』なの?」
「教える必要あるか」
「いいじゃーん!僕達も教えたでしょ!」
「それもそうか。私が『死にたい人間』だ」
「えぇ!こんなに美人で可愛いのに!」
確かに伊吹は見た目だけで言うと、いわゆる『勝ち組』だと思う。しかし、それをも覆す何かを伊吹は抱えていた。
「ていうか、世界はなんで死にたいんだよ。ペアとして知りたいんだけど」
「えぇ〜僕??ただ、この世の中じゃ、素直に笑えないって思っただけだよ」
「笑ってんじゃん」
「それとこれとは別!やめてよこんな話!楽希のこと殺しちゃうからね〜??」
「物騒なこと言うな」
楽希は世界の言葉を真に受け止めていないようだった。世界の『殺す』は冗談に過ぎなかったからだ。この短時間で楽希は世界のことを信用しきっているようだった。逆も然りだろう。
「本当にお前らは殺し合いできるのか?」
「俺は極力したくない」
「僕も楽希のことは殺したくないかな。他の人がペアなら別だけどね……ていうか、君たちも殺し合いできるの?」
「ぼ、僕はそんなことできないよ……!」
「私は……時を待ってる」
「なにそれ!?僕殺されちゃうの……!?」
「一応そういうゲームだろ」
賢人は内心バクバクしているが、だからと言って伊吹がいとも簡単に自分のことを殺すとは思わなかった。賢人も早々に伊吹のことを信用しているからだろう。
「じゃあ、僕達は部屋に戻るね。もう、殺し合ってるペアもいるらしいよ」
世界は物騒なことを言い残して楽希と食堂から去った。賢人は同じ空間で殺し合いが行われていることに動揺を隠せないが、それよりも自分たちの殺し合いがいつ始まるのか不安でならなかった。伊吹に『殺したい』または『死にたい』という感情が大きく芽吹いたらきっと殺される。賢人に今できることは伊吹にそのような感情を忘れさせる……ただ1つだった。
「なぁ、世界」
「どうしたの、楽希くん」
「もしお前がこの世の中で笑いたいと思えるようになったらさ、『生きたい』って思ってくれんの?」
長い廊下を歩きながら、楽希は真剣な眼差しで世界のことを見つめた。照明は壊れ始めているのか、光ったり消えたりを繰り返している。世界は体を伸ばしながら唸った。
「……そうだね。楽希くん、僕に本気で『生きたい』って思わせてよ」
世界はピースをして笑った。そんな世界を見て楽希自身も笑わざるを得なかった。
(俺は自分のために世界を笑わせる。『生きたい』って思わせてみせる)
2ペア目:桐ヶ谷 楽希と藍沢 世界
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