君のために生きるか、死ぬか

もみぢ波

ペアと生きていくこと

第1話 デスゲームの招待状

人は人の死を見て、死にたいと思う。僕にとってその概念は身近なものではなかった。しかし人間は同等のもので返したくなる本性を兼ね備えており、殺しも殺しで返すのだ。そして、死も死で返す。……そして、生きるも生きるで返す。それを覆した時、僕は本当に生きるということを学ぶだろう。誰かが生きるから、誰かが死ぬ。誰かが死ぬから、誰かが生きる……そういうものを見た時だ。


僕には彼女の生き様がどのように映るのだろう。





僕は生きたいと思う。やり残していることがあるか否かと言われると、全く分からない。しかし、生きることができるのであれば、この世の中で生きていきたいと思った。

しかし、運命は不条理で時に残酷である。



『デスゲームへようこそ』



僕に届いた一通のメール。表向きの方針は『自殺願望者を更生しよう』というものだった。しかし、メールには残酷な言葉が並べられていて、人間を生かすようなイベントではなかった。


"生きたい人間と死にたい人間がペアとなり、殺し合いをする。ただし、どちらかが死ねば片方も死ぬ。また、どちらもが生きたいと思うようになれば、このデスゲームから退場することが出来る。

生きたい人間は死にたい人間を更生させ、2人で退場することを目標とする。

死にたい人間は生きたい人間を殺し、2人で永遠の眠りにつくことを目標とする。

また、『死にたい人間』の毒殺・自殺は禁止とする。相手を殺す時は必ず事前に配られる刃物で行為に至ること。"


僕は青ざめた。これから死が隣り合わせの生活を送ることになるのだ。瞼を閉じ、ゆっくり開けたが、夢ではなかった。そして、横に置いてある刃物が現実を突きつけていた。



俺は……誰かを殺すのだろうか。そして、殺されるのだろうか。



運命の不条理に勝てない情けなさと虚しさが残った家を後にし、デスゲームの会場へと向かった。









デスゲームの会場はホテルだった。ロビーには既に人集りができていて、大半の人が泣いていた。もれなく、『生きたい人間』なのだろう。たちばな 賢人けんとはそんな風景に嗚咽しそうだった。


「皆さん、こんにちは」


会場の空気に慣れる前に、ゲームマスターであろう仮面を被った男性が話し始めた。画面越しとはいえ、異様な威圧感を感じる。


「デスゲームの内容は、前送ったメールの通りだ。これから、ペアとなる人物と出会うことになる。自分がどちら側の人間なのかは分かると思うが、確認したい場合は配布されたスマホを見ろ。メールが届いていると思う。そこにどちらの人間であるか書かれているはずだ。そして、今もう1つメールを送った。そこに番号が書いてある。その番号の部屋に向かえ」


賢人はメール画面を確認した。そこには『生きたい人間』と書かれており、予想通りだった。部屋の番号は『018』だった。少なくとも18組のペアが存在しているのだろう。賢人は一息つき、動き始めた。中には動けずにいる人もいる。構うことも可能だったが、その行為が裏目に出る場合もある。

賢人はエレベーターに乗った。エレベーターの中には何人かの人がいたが、誰もが黙っていた。むしろ、ここで話す勇気がある人がいるのならば尊敬するだろう。



『018』と書かれた扉の前まで来た。大理石でできた厳重な扉だった。この先には、これから殺し合いをするであろう相手が待っている。部屋に入ったらその相手との殺し合いが始まる。それがどんな相手か分からない。賢人は自分よりも体格が小さい人であるようにと願い、扉を開けた。


「お邪魔します……」


賢人は内気な性格なため、声が小さい。それに加えてこんな環境だ。内緒話でもしているのかと思うほどに声量が小さかった。

奥の方に進んでいくと、1人の女性がベッドに座っていた。見た感じ長身でスタイルが良かった。しかし、賢人自身180cmあるのでそれよりかは小さいように思える。170cmくらいだろうか。


「お前がペアというものか」

「は、はい……!」


顔は美人で下ろしている長い髪は艶やかだった。キツい見た目に賢人はただただ怯えた。キリッとした目は特に人を殺めたと言われても不思議ではない。ただ、目の前の女性からは『死にたい』という感情は感じ取られなかった。


「そんなに怯えるな。簡単に人を殺したりはしない。で、お前の名前は?」

「橘 賢人です……」

「そうか。私の名前は天城あまぎ 伊吹いぶきだ。よろしく頼む」


伊吹は賢人に握手を求めた。賢人は簡単に彼女の手を取った。


「お前、騙されやすい性格だろ?ここでそんなんだったら死ぬぞ」

「ひ、ひぇ……!」

「ただ私とペアで良かったな。ここのゲーム上、一定の期間以外はペアのことしか殺せないからな」

「伊吹さんは僕のこと殺さないの……?」

「それはどうかな。私は死にたいが、まだ決心できていない」

「なんで死にたいの……」

「初対面の奴によくもそんなこと聞けるな。……教えるわけねぇだろ。もっと仲良くなってからだ」


賢人は少し安心した。伊吹が人間性のある人だったからだ。下手したら、既に殺し合いを始めているペアもいるだろう。叫び声こそ聞こえないが、ここまで温厚に話が進むペアも珍しいに違いない。


「お前が私に生きる希望をくれたらいいだけの話だ。ごめんだけど、簡単に『死にたい』って感情は拭いきれない。……ごめんな」

「い、いいよ大丈夫。僕に何か出来ることあったら教えて」




賢人が思っていたよりも温厚な殺し合いが始まった。『生きたい』『死にたい』……。どちらの感情も互いには譲れない。しかし、どちらかが譲らなければこのゲームは終わらない。



理不尽なデスゲーム。それでも平和な道を探す賢人と、死にたいが誰かのことを巻き添えにしてまで死ねない伊吹。



1ペア目:橘 賢人と天城 伊吹

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