第3話 雨と綿飴
佐久間ちゃんと仲良くなり始めたのは中等部の時だった。
別に校則は厳しいわけではないがみんながラインを引いていたところを彼女はラインを引くペンさえ持っていなかった。
クルクルと波巻きになった傷んだ黒髪、下手くそなアイライン、地黒な肌をさらに黒く見せる白いペディキュア。
はずかしい人。
彼女の周りを気にしない性格がどうしても合わなくて、ただ、怯えていた。
六月。梅雨の盛ってきたころ。私はエントランスで立ち尽くしていた。傘がない。雨がいつ止むのか、校舎の植え込みの花から落ちる水滴にセンチメンタルな気持ちになりながら考えていた。
「ねえ、傘いる?」
少し掠れた声が聞こえてふと顔を上げると柄の部分がオフホワイトに黒ずんでしまったビニール傘と佐久間さんがいた。
半ば強引に押し付けられると
「じゃあまた明日!」
雨に濡れながら走り去っていく彼女。
はずかしい人。
彼女の恥ずかしさに劣等感と憧れに似た何かを抱いてしまった。
ビニール傘をじっと見つめ、傘を差して歩き出した。
雨と綿飴のような甘い香水の香りが充満していた。
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