第2話 雫と梅雨の桜

小学校を卒業し、母からの「高校受験は大変だから高校もあるとこに行っておいた方がいいと思うの」という助言を受けて運良く私立の中高一貫校に入学した。

定期テストの前だけ勉強して、そこそこいい成績を取り続け、そこそこ友達もいて、そこそこ可愛い。そして、お淑やかで優しい。

自分にとってのベストな立ち位置を見つけていた。


「愛ちゃんはさ、完璧超人だから佐久間さんとかしか話しかけられないし、」

「わかる。優しすぎる故のね、なんか申し訳ないのよ、うちらみたいなのにもやっさしー!みたいな」

「つーか愛ちゃんと佐久間さんが並んでると佐久間さんかわいそうになるくらいブスにみえる。」

「すっぴんの愛ちゃんとフルメイク佐久間さんね、」


松村さんたちは佐久間ちゃんの方にヘラヘラ話しかけるくせに、こんなきたないのか、

彼女たちの死んだネズミのような汚れが付着した気がして、無性にシャワーが浴びたくなった。

机に置いてあるハードカバーの本を取るのは後にしよう。お母さんにもらったブックカバーに触ってないといいな。

エントランスにでて、折りたたみの傘をさして、駅まで歩き出した。

雫の影は思っていたより早く桜の表面から滑り落ちるようだった。

梅雨が続くことを願った。


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