瞬くアルタイル

もち桜

輝くあの子

以前付き合っていた元カノと私は、似た者同士で傷を舐め合って、どこまでも堕ちて行けたのに。

自分に似ている「空っぽ」で、「空虚」で、他人の「真似事」ばかりして、他人の意見をまるで自分の言葉かのように話している。そんな人間。

 周りの事なんか気にしないと言いながら、いつも他人の機嫌ばかり伺って、馬鹿でお人好しで、救いようのないクズ。

私の言いなりで、人に頼ってばかりの空っぽ同士。

別れてから10年後の私?なんにも変われてないよ。

見た目と、笑顔だけ装ったハリボテ人間のまま。

何もかもあの時のまま。

将来どんな大人になりたいか?とか、どんな仕事をしたいか?とか。そんな事何もわからずに、皆んなに合わせて上辺だけで帳尻を合わせていた。自分の意見なんか何一つ思い浮かばない。

「思考停止人間」

嫌な現実から目を逸らし、立ち向かうどころか逃げてばかりで、結局本気で取り組んだ事なんて何一つない。何一つ成し遂げてない。あの時のまま。そのまま。空っぽのままで。無意味に生きてるだけ。

そんな人間。

「空。久しぶり〜!元気してた?」

声を聞いただけでわかる。元カノじゃない。

私の憧れた唯一の幼なじみ「羽須美」だ。

元カノとは元々、自分の傷を舐め合う為に形だけ付き合っていただけに過ぎない。

元カノも多分私と同じで、今も何もしていないのだろう。だから今日の同窓会にも顔を出していない。

それに比べて何もない、空っぽなまま、のこのこ顔を出している私は。本当に馬鹿なんだろうとつくづく思う。

そして、本当に好きだったのは。憧れだったのはこの羽須美ただ1人だった。

「どしたの空?元気ない?いつも近くに住んでたのに、卒業してから一回も会ってなかったから照れてる?」

私の短く切った癖毛を撫でてくる。

いつも羽須美はこうやって私の頭を撫でるのが癖だった。そうやって私を猫みたいに扱う。

羽須美は学生時代からこんな感じで誰でも距離が近くなる。

誰にでも明るく挨拶して、おしゃれやメイクについて語り合ったりしていた。

だが、頭を撫でたり、一緒にお昼ご飯を食べたり、登下校まで一緒にするのは決まって私と2人きりだった。

一人ぼっちの私にはもったいない位かわいい女の子。

私にしかみせない特別な表情で、いつも隣に居てくれる。孤独な私にとって、近くて遠い煌めく一等星。私の好きなわし座のアルタイルのようだった。

近くにあるはずなのに、私には手の届かない秀でた存在。

私より多くの友人達に囲まれ、愛されている彼女の姿を見ているだけで、劣等感に似た憎悪が自分に対して押し寄せる。

自分とは正反対の真人間。だからこそ心の底で憧れ、恋をしていた。

私には相応しくないと分かっていながら。

 新しいクラスになった時もそうだった。彼女の周りには既に新しい友達がいて。皆んなに尊敬され、羨望の眼差しを向けられる。

対して私は。いつも孤独に、ただ俯いているだけ。自分には関係ないフリをしてまわりの様子ばかり気にしている。話しかけてもらうことを他人に勝手に期待して、話しかけられなければ勝手に失望している。受け身人間。

他人とは一定距離を保って境界線を引いて、決して踏み込ませない。

でも彼女だけは、私に優しくしてくれた。

今だって隅っこの壁にもたれかかって1人で佇んで、短くてクシャクシャな癖毛をなんとか伸ばそうと手櫛でとかしている石ころ同然の私にどうして優しくしてくれるの?

「それって…」

「え?何?何か言った?」

こんな何もない人間にも一つくらいわがままを言って許してくれるのは、多分この世界で羽須美以外にはいない。

「ねえ、ほんとどうしちゃったの?気分悪いなら病院行こ?私が車で送ってってあげるから。」

もう限界だ。

ほんとの想いも何一つ伝えず。彼女の唇にそっと近づいた。

羽須美の綺麗で長い真っ直ぐな黒髪と、ほんの少し漂う桃の香りがする。


こんな私にだって一瞬だけでも幸せな時間が与えられたっていいはずだ。だから羽須美、こんな私を許してよ。

「っん…ちょ、何!?何よいきなり!?」

たまらなくなった私は羽須美にキスをした。

そしてキスをしてしまった後に聞きたかった事を呟く。

「それって羽須美も私を好きだったから?」

そう言い残して同窓会の会場から飛び出だした。

羽須美がどんな顔をしてたかは分からない。

答えなんて聞かなくていい。これはただのエゴ。一方的に押しつけただけだから。

その答えを聞くことさえ怖くて逃げ出している自分は本当にクズだと思う。やはりあの頃から何も変われていない。救いようのない馬鹿だ。

それでも見上げた星は、何も変わらない表情のままいつまでも瞬いている。いつまでも変わらない自分を肯定するかのように。救われない私をいつも見ていたかのように。まとまらない髪を束ねて走り出す。今のままでもいい。何もなくたっていい。何もない裸の心で疾る。その一等星を掴む為に。

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瞬くアルタイル もち桜 @motizakura

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