第44話 大義名分
後宮で偽の王宮医師が捕まり、山間の村の住人も取り押さえられた頃、何も知らずに薬師は五角の中で毒薬作りに励んでいた。
(もう少しで完成する……あとは、これを十分に乾燥させて……————)
流行病に似た症状が出る薬。
その症状をすぐに治す特効薬。
そのどちらも、この薬師がドバクとともに開発したもの。
薬師は五大貴族・
ドバクは賭けで他人の身分を手に入れ、名前を変えているが本当は
ドバクは生まれつき記憶力いい方で、その記憶力で得た情報、知識を元に五大貴族の末裔や、使えていた者たちを集めて白梅団を作る。
当時まだ若かった王の末裔と言われている青年を王にして、再び自分たちが治める国づくりを目指して……
三十年前、討伐隊が村に来るという情報があり、幹部たち数人で村を燃やして雲隠れしていたが、ほとぼりが冷めた頃に再び別の場所に白梅団の村を作った。
今回こそ成功させる為、角家に代々残っていた寅梅の花にある毒を利用しようと考えた。
武器を手に入れる資金調達のため、華陽や郊外の村の井戸に少々毒薬を混ぜ、人々が特効薬を求めるよう仕向ける。
そして、人手不足になっているところに、王宮医師として潜入。
確実に人を殺めることができ、なおかつ、色、味で気づかれることのないように開発した毒薬で王を殺そうと企んでいた。
その混乱に乗じて、王宮を乗っ取る予定だ。
「————父上! 父上!!」
一通り作業を終えて、作業場を出た薬師の前に娘が駆け寄る。
「どうしました……?」
「ドバクおじいさんの家に、官軍が来てるみたいなの」
「……なんですって!?」
この娘、薬師の実の娘ではない。
王の末裔であった青年の娘だ。
本当の父親は、この娘が生まれる前に心臓病でこの世を去った。
代わりにこの娘を女王にする予定で、大事に育てている。
「まさか————……先生が捕まったのか!?」
慌てて娘を部屋の奥に隠して、薬師は隣の屋敷の様子を覗いてみる。
確かに、ドバクが賭けに勝って手に入れた隣の屋敷を官軍たちが取り囲んでいた。
(いや、しかし、先生は王宮にいるはず……一体何があった?)
とにかくここは危険だと思った薬師は、慌てて調合途中の毒薬を運び出そうと瓶にに詰め始める。
しかし、その時にはすでに山頂と村の制圧を終えたフィジェとジムが五角の目前まで迫っていた。
馬の足音と、いななきが五角に向かってどんどん近づいてくる。
裏口から抜け出そうとしたところで、大きな男が立ちはだかる。
「さーて、お前で最後だ。
エギョの父親である。
* * *
「————まったく、馬鹿げた話だ」
十日後、白梅団が王を殺そうとしていた当日、王の目の前で裁判が行われていた。
白梅団の幹部で、先生と呼ばれていた男ドバクは、本当の名前を
よく調べて見たところ、彼は同じ雲家であっても、あの五大貴族の末裔でもなんでもなかった。
使用人として雲家で働いていた平民の末裔である。
そして、王の末裔であるとされていた既に死んでいる男も、まったくの別人。
こちらは、王の側室であった女官の末裔であることが判明する。
白梅団の中で、五大貴族の末裔であるものは薬師のオイェだけであった。
オイェはその事実を知り、完全に終わったと悟り、力なく下を向く。
「それに、
「……な、なんだって!?」
シルチェクがそんなことをしていたなんて知らなかったオイェは、下げていた頭を勢いよく上げ、隣で縛られているシルチェクの方を見た。
少々、女好きだとは思っていたが、まさか毎日資金作りのため必死に作っていた特効薬の代金を半分も横領されていたとは、寝耳に水である。
「何が大義名分だ。ただの詐欺師じゃないか」
王は呆れ顔で立ち上がると、あとの処分は全て判事に任せて、判決を聞くことなく立ち去った。
もちろん、白梅団は今度こそ解散。
シルチュクはこれまで起こした全ての罪を自供させた後、斬首刑。
その他幹部は、シルチュクに騙されていた部分もあったとして、流刑地に流され、白梅団の村にいた人たちは棒叩き五十回の刑に処された。
また、流行病の原因となっていた井戸水は、特効薬が混ぜられて元に戻り、幻栄国は元どおりの平穏さを取り戻した。
* * *
「————さて、これで一件落着。残るは、王弟の件だが」
王は家臣を集め、高らかに宣言する。
「王弟は
【第三章 了】
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