第39話 王命
王宮に呼ばれたジムは、ジアンを引き連れてやって来た。
取り次いだナム内官は、その時初めてジアンの姿を見て戸惑う。
アン官吏とまったく同じ顔の娘だからだ。
よく似ている双子であるとは聞いていたが、ここまで似ているとは思ってもいなかった。
それは王も同じで、アン官吏が女装しているようにしか見えない。
ジムの後ろに黙って座っているその姿があまりに異様で、もしかして騙されているのかと思ったくらいである。
「————騙すことになってしまって、申し訳ございません」
「え……? なんだって……?」
驚きすぎて、話を全然聞いていなかった王が聞き返すと、ジムは初めからもう一度説明した。
ジソンが流行病により寝込んでいた為、姉のジアンがジソンになりすまして鳥安楼に行ったこと。
チュンユが殺され、王が濡れ衣を着せされたが、本来ならその濡れ衣はジアン本人がかけられるはずだったこと。
チュンユとジアンが犯人に恨まれる原因となった合簡の大会のことも……
「王様を騙すだなんて、あってはならない事です。どんな罰でも与えてください。ですが、その前に白梅団の件です————」
「白梅団?」
「フィジェ様とこのジアンが見つけた村にあったという紋章……あれは、白梅団のものです。白梅団のことを、王様は聞いた事はございませんか?」
「あぁ、何かの歴史書で見たような気はするが……確か、前王朝の復古を目指して謀反を起こした者たちだろう? しかし、もう誰も残っていないんじゃなかったか?」
白梅団は、先々代の王の時代に何度も謀反を起こそうとしていた。
三十年ほど前に王命により討伐隊が派遣され、村ごと焼失したと、記録上なっている。
追い詰められた白梅団の幹部自ら村に火を放った為、前王朝の王の子孫を名乗っていた男も焼死したと書かれていた。
幻栄国の歴史を幼い頃から学ばされている王にとって、それらは過去の出来事。
なぜ今になって、その白梅団の話が出てくるのかわからない。
「私の娘であるこのジアンは、すべてのものを見透す千里眼を持っております。その目で、白梅団の村に武器庫がある事も確認しております。殺人事件を起こしたその老人……——おそらく、白梅団の残党だと思われます。我が安家先代の当主が残していた討伐隊の記録の中に、『恐ろしく記憶力の良い男がいる』と書かれていました」
ジムは持参した記録を王に見せる。
「白梅団の中には、薬草の知識を持つ者もいると書かれております。おそらく、その男が眠り薬を用意したのでしょう。遊女殺害を強要された娘が忍び込んだという薬屋も、もしかしたら奴らの仲間かもしれません」
「なんだと……!?」
驚く王に、次は昨晩医師の友人がジソンに処方した薬が入っていた袋を見せる。
袋には薬屋の店名が書かれていた。
「流行病の特効薬です」
実は流行病に効くとされている普通の薬は、服用して数日間しっかり休まなければならず、効き目が出るまで時間がかかる。
しかし、この特効薬は効くまでの時間が早い。
「私も昨夜、この袋をジアンが見るまで気が付かなかったのですが……医師の友人が申しておりました。この特効薬を売っているのは、その薬屋だけだそうで……かなり売れているそうです」
ジムはおそらくその薬屋から、白梅団に資金が流れているのではないかと言った。
武器庫にいっぱいになるほどの剣や弓矢を集めるにはかなりの資金がいるはず。
ジアンもその考えに賛同している。
それに、王宮へ来る前に商人たちに聞き込みをしたところ、華陽にあの薬屋ができた時期と、流行病が広まり始めた時期が重なっていた。
ジアンはもしかしたら、その流行病を流行らせたのも、白梅団の仕業ではないかと考えている。
(薬草の知識があるってことは、それと同時に毒についても詳しいはず……)
「王様は王弟を誰にするか決めるのに、流行病について調べるよう仰せになったと聞きました。しかし、その犯人もおそらく、白梅団でしょう。これは紛れもなく反乱です。どうか我ら安家に白梅団討伐の命を与えて頂けないでしょうか?」
「……安家に?」
「先代が取り逃がしたのですから、その尻拭いは我々が。ジアンを罰するのは、その後にしていただきたいのです」
ジムは深々と頭を下げた。
ジアンも続いて頭を下げる。
「ジアンの千里眼————そして、今はまだ病み上がりのためここには連れてきておりませんが、弟のジソンには多くの音を聞き取れる順風耳があります。是非、我らをフィジェ様を王弟にする大義名分にお使いください」
(えっ……!?)
ジムから予想外の言葉が出てきて、思わずジアンは頭を少し上げてジムの方を見た。
「……なぜ、私がフィジェを王弟にしたいとわかった?」
「わかりますよ。元から、フィジェ様を手伝わせる為にジソンをあの席に呼んだのでしょう?」
「……さすがですね、先生。その通りです」
王は、ムンジェとリョクジェには最初から期待していない。
しかし、母親の身分も年齢も一番下のフィジェを王弟にするには大義名分が必要だった。
「ナム内官、王印をここに」
「は、はい!」
王はその場で白紙の紙に、白梅団討伐の命令を書き、王印を押す。
「では、この国の王として、安家当主・
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