第22話 王妃の歌
「大変だ! ファヨン王妃が、廃位になった!!」
「な、なんだって!?」
「その代わり、ミオン廃妃が、王妃に戻るそうだ!!」
「な、なんだって!?」
華陽は、その話題で持ちきりだった。
最初の王妃と大王大妃を殺したのは、ファヨンの女官であったこと。
その女官たちが、ファヨンを恐れてやったこと。
呪詛に毒殺、さらには、無実の罪をミオンに押し付けて廃妃にしたこと。
幻栄国始まって以来の大事件である。
その罪が明らかに重く、反省の色もないことから、ファヨンは廃妃となり死刑が執行される。
幻栄国一の美女、
「どうしてファヨン様がそんなことに? 私たち下々の者にも、優しく接してくれていたじゃないか」
「そうだ、なんとおかわいそうに……」
炊き出しや療養所でのファヨンの奉仕活動を間近で見ていた一部の民は、刑が重すぎるのではないかと声をあげる。
しかし————
「なんでも、ファヨン様に目元がそっくりな使用人がいて、その娘に身代わりをさせていたそうだ」
「ほら、療養所では病気がうつらないように鼻と口を布で覆うだろ? それでみんな騙されていたらしいぞ?」
「そういえば、俺が炊き出しで見たファヨン様も口元を隠していたな……高貴なお方だからなのかと思っていた」
ファヨンが稀代の悪女であることが知れ渡り、そんな声はすぐに収まる。
今まで騙されていたと怒りの声の方がはるかに大きく、西派の人間は擁護でもすれば同じく民衆から叩かれるのがわかっていた。
そのため、西派の人間は王の決定に意を唱えず、陸家は西派から切り離され、一気に没落してしまう。
「療養所といえば、ミオン王妃だろう」
「ミオン王妃?」
「ほら、前に大王大妃様と一緒に奉仕活動をされていたことがあったろう? その時、親を亡くし泣いていた子供たちもいて、ミオン王妃様が歌をお歌いになって励ましたそうだ。それがとてもお上手で、心地のいい歌声だったとか」
「ほぉ……それは一度でいいから聞いてみたいものだなぁ」
「もうすぐ華陽に戻ってくるんだろう? だったら、そんな機会もいつかあるかもしれないな」
王は、ファヨンを死刑にすると同時に、ミオンの地位を元に戻した。
さらには親衛隊を引き連れて、直接に流刑地である
* * *
事件の真相と、王が迎えにくるという知らせがミオンの元に届いた。
まさか、ファヨンのせいで薬を盛られていたとは思わなかったミオンは、体調が優れなかったのはその為かと納得がいく。
秋西に来てからもしばらく不調だったが、今は少しずつ体重も戻り始めていた。
「ジアンが助けてくれたのね」
だが、いち早くこのことを知らせに来た女官は、助けてくれたのはアン官吏————弟のジソンの方だと聞いていると言った。
「なんでも、アン官吏が証人を見つけて来たとかで……きっと、ジアン様が弟のアン官吏にお願いしたのでしょう。アン官吏は首席で科挙に合格し、それはもう大変優秀なお方だと王宮では話題になっておりますよ?」
「そう……?」
「そうですよ、ジアン様は確かにお小さい頃からなんと言いますか、おてんばなところもおありでしたけど……もうお年頃ですから、だいぶ大人しくなられたと聞いてますよ?」
この女官は、ミオンとジアンの幼い頃を知っている。
ミオンの実家に仕えていた使用人の妹で、たまに姉に会いに来ていた。
(違うわ……ジアンよ。科挙の時あの姿————男装したジアンだった……耳の形がそうだった)
実は、ジアンとジソンの顔はそっくりなのだが、耳の形が若干違う。
ミオンは幼い頃からその違いに気づいていた。
だから見分けがつく。
科挙で男装をしていたジアンのことだ、きっと、ジソンに頼むだけじゃなく自ら動いていたに違いない。
ミオンはジアンがどういう人間か、よく知っている。
「それより、王様が来られますのでお召し物をですね、お持ちしましたのでお体を清められたら、こちらにお着替えください」
ミオンは風呂に入り体を清めた後、金の刺繍が施された桃色の王妃の衣に袖を通した。
結い上げた髪に、黄金の龍の
「王妃————!」
馬の蹄の音が近づいて来て、ボロボロの家の前で止まった。
王の声が聞こえ外へ出ると、ミオンの姿が見えた瞬間、王はミオンを抱きしめる。
「疑ってすまなかった。本当に……」
「良いのです……謝らないください。わかっていただけたなら、それで……」
王の腕に抱かれながら、ミオンは涙を流した。
親衛隊とともに王と迎えに来た一行の中に、ミオンは男装したジアンを見つける。
(ありがとう……ジアン)
何度も何度も、心の中で感謝した。
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