第20話 千里眼と順風耳
「でかしたわ! ジソン!!」
「どこが!? 僕呪われるんだけど!?」
ジソンは司暦寮で聞いたことを全てジアン話した。
まだ十五歳なのに、呪われたくないと弟は訴えているのに、なぜか同じ顔の姉は嬉しそうに目を輝かせている。
「こういうのは、現場を抑えるのが一番でしょ? 見せるのよ、王様に! ファヨンが呪いをかけているところを!!」
「はぁ!?」
わけがわからないジソンに、今度はジアンがジヘから聞いたことを話した。
「なるほど……じゃぁ、先の王妃様や大王大妃様が急に亡くなったのは、呪いじゃなくて薬のせいなんだね?」
「そうよ、ほら、なんだかミオンが痩せたように見えるって、科挙の時私言ったでしょう? ファヨンは三度とも同じように秘密の部屋で呪いの儀式をしているし……今度はジソンを呪うってことは、またその部屋を使うってことでしょう?」
「確かに。でも、よくそのジヘって人、姉さんに全部話してくれたね……」
「それは、死んだ巫女とあなたが話していたのを見たって言ったら、簡単に話してくれたわ。自分が渡した血糊で死んだっていう負い目もあっただろうし。それで、その巫女はいつ呪いをかけるか言っていた……?」
「いや、そこまでは……」
「もう何してるの!! さっさと戻って探ってきてよ!!」
「ええっ!?」
ジソンはジアンに急かされて、走って司暦寮まで戻った。
ただでさえ、あまり外を出歩かないジソンが、必死に走って帰ってきたというのに、また走らされて足がもつれている。
「まったく、鍛錬が足りないのよ……算術ばっかりしてないで、出歩かないと体がなまってるじゃない」
自分が出勤の機会をしばらく奪っていたことを棚に上げて、ジアンは口を尖らせる。
(ジソンの耳なら、会話が聞こえる。私の目なら、隠れているものも見える……)
「やっぱりこの力、うまく利用してみせる。せっかく、不吉な生まれと引き換えに、持って生まれた力なんだから、使わない手はないわ……あ、ジソン!」
離れても聞こえているとわかっていて、叫んだ。
「わかってると思うけど、その顔も使いなさいよ!!」
「わかってるよ!!!」
転びかけながらも、ジソンは大声で叫び返した。
こんなに大きな声を出したのは、いつぶりだろうかと思いながら、ジソンは走る。
そうして、祭祀課の若い巫女たちをその花より美しい顔でコロッと引っ掛けて、ジソンは呪いの儀式がいつ頃行われるか調べ上げた。
中には、あの素敵なアン官吏が呪われるなんて許せないと、味方を買って出た巫女もいる。
祭祀課長のエギョは、ジソンが嗅ぎ回っていることに気が付いたが、何も言わなかった。
彼女にはわかっていたのだ。
あの方に、終わりを迎える日が来るのだと。
だからこそ、巻き込まれないようにどう手を打つか。
そちらに思考を巡らせている。
そうして、翌日、ジアンは千里眼によって陸家の地下に秘密の部屋があるのを確認する。
北門のそばの高台から見下ろせば、陸家の全てがまるっと見える。
屋根も壁も床も、土も、全てを透過する千里眼で、その秘密の部屋にある呪いで使われた二体の木の人形を見つけた。
祭壇の上に置かれた人形は、どちらも呪符が貼られ心臓の位置に釘が打たれている。
部屋に並んでいる本も、すべて呪術や魔術に関するものだった。
さらに後宮でのファヨンの会話は、すべてジソンが順風耳で聞き取り、明日の夕刻に呪いの儀式が始まることが確定した。
* * *
「————ですから、ミオン王妃様は嵌められたのです」
ナム内官は、王に謁見したいとアン官吏が突然訪ねてきて驚いた。
通常なら、新人官吏が会いたい時に会えるような人物ではないのだ。
しかし、アン官吏は王のお気に入り。
王に許可を得て、中へ通すと聞かされたのはファヨン王妃の謀略。
「では……その呪いの儀式とやらが夕刻に行われると……!?」
「はい。その通りでございます」
とんでもない内容に、王はナム内官以上に驚いたが、証人もいて、尚且つこの優秀なアン内官が嘘を付いているとは思えなかった。
「それが本当なら、後宮の……————いや、幻栄国始まって以来の大事件だ」
王は密かに数名の親衛隊を引き連れて、陸家へ向かう。
その親衛隊の中には、アン官吏の兄・ジホの姿もあった。
ジホは、小声で、「今はどっちだ?」と尋ねる。
しかし、アン官吏はなんの反応もしない。
このアン官吏は男装した妹の方だ。
何も知らない陸家の当主は、突然訪ねてきた王の一行の中にジヘが驚いていたが、事情を聞いてうちの孫がそんなことをするはずがない。
この目で直接見るまでは信じられないと、王と一緒に地下の秘密の部屋に身を潜めた。
そうして、夕刻。
後宮を抜け出したファヨンが、アン官吏の言った通り、秘密の部屋へ現れる————
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